MISSION:41 滅びを司る王

 お早めにとのことなので、栄養補給にオヤツを齧りながら天道虫号で、ダンジョンマスターのもとに向かう僕たち。移動中に作戦を何個か相談しておく。

 操られてるっぽいけど、それはコアからなのか、本人なのか。

 まず最初に一応話を聞いてみる。

 とりあえず僕が捕まえる。

 とかとか?


 道中は魔物に邪魔されることもなく、ギミック扉の前に辿り着いた。


 スタッグビートル・フォートレスの魔石。

 スケアリー・ジャイアントコングの魔石。

 そしてレッドドラゴンの魔石を扉にセットする。


 ガコンとロックが外れる音が鳴り、観音開きの巨大な扉が石を引きずるような音を立てながら自動で開いていく。


「ようこそおいでくださいました強者よ。私がダンジョンマスターのアーツィッシィ」


 タキシードにシルクハット。そして深紅の瞳を持つこの男は、慇懃な礼をしながらバンパイアの王だと名乗った。


「こんな場所に相応しゅうないお辞儀じゃね」

「悪、臭いないする」

「フフフ、そうでしょうとも。本当に歓迎しているのですから」


 そう頷きながらバンパイアが語る。ここは元々研究所なのだと。邪人が自分を使って、不死の研究を行っていたのだと。


「そしてなぜ私が話を続けているのか、お分かりですか?」

≪魔力が高まってるね。それが僕らを全力で殺しに来るってヤツか≫

「正解です」

≪会話の中に魔法文字を仕込んでるのかあ。器用だね≫

「無意味、あるする」

「素晴らしいですね!」


 放たれる光線を僕が受け止める。魔法であるならば、それは僕のご飯だ。今の時点でこれ以上話しても意味なさそうだし、予定通り行動しよう。


「ッ!?」


 アフターバーナーを吹かして急接近。お饅頭型のスライムが、いきなり肉薄するとは思ってなかったんだろう。反応が遅れるバンパイア。彼を包み込んで動きを止める。


≪ワワンパァ!≫

「おっけーじゃ!」


 ワワンパァがダンジョンコアがあるであろう場所へ移動する。ここのコアを支配下に置けば、なにか手立てがあるのではないか。そう思っての行動だ。だけど──


「無駄です」


 ──冷淡な声でバンパイアが言った。操作されているのはコアではなく、ダンジョンマスターの自分なのだと。


「私の魔石を侵食している肉塊が原因なのですよ」


 だから殺すしかないのだと。不死の自分を滅ぼせるのは──


「滅びを司る黄金の王。貴方なのです」


 ──と、僕を見ながらそう答えた。

 チクチク魔法を唱えてくるバンパイアに、中二臭いあだ名で呼ばれちゃってるんだけどぉ?


「ムゥ、ポーちゃん、それ、資料、あるする」

≪なんですとー!? 僕、邪人たちに認識されてるのか≫


 やることなくて、色々物色してたフーちゃんに衝撃の事実を伝えられる。


「おや、このダンジョンの支配権を失いました。もういいでしょう?」


 貴方の仲間も、ダンジョンコアを奪ってもどうしようもないことを、報告してくるはずだから始末しろと言う。


「焦る、ない。ポーちゃん」

≪うん。やってみる≫


 物語でもよくあるからね。なにかの装置で操る的な方法ってさ。そんなのは僕が壊せるんじゃないかと思って、事前に話してたんだよね。

 だって僕の最小サイズ、ピコとかナノとかまで小さいとは言わないけど、そういうチビッ子だし。


 いやあ、いざ冷静になってみるとさ、なんでこんなに一生懸命ここのダンマスを助けようとしてるのか、よく分かんない。レッドドラゴンに頼まれたからって興奮しちゃってた?

 あの時はこのバンパイアの善悪なんて、分かってなかったんだしねえ。


 悪意がなければこのダンジョンは使えるし、ワワンパァが支配権を奪ったなら、ダンジョン経営を手伝ってもらえるかも、だよ。悪意がないからって「人からしたら善」かどうかは分からないけど、ワワンパァと契約させちゃえばいいんじゃないかな。


 そんな相談をフーちゃんとしながら、邪人の作った肉塊をどんどん分解していこう。胸の中央に付いてたから、魔石までの距離が短いのは行幸ってヤツだね。


 まずは内側に入り込んで、肉塊と魔石の接続を切っちゃう。魔石の破壊指令があったらマズイからさ。若干、バンパイアからの攻撃が激しくなったけど、問題はなさそうだ。


 気を付けの状態で固めてあるから力業では脱出できないし、なんかドレインされて残機も減ったりしてるんだけど、魔法攻撃されて増えてるし。


 って思ったら攻撃が止んだ。


「ワワンパァ殿の支配下に置かれました」

「おー、パァちゃん、ないすーした、ある~」

≪コッチももうすぐ終わりそうだよ≫

「まさか解放される日が来ようとは」


 駆け寄ってきたワワンパァが叫んだ。


「作戦成功じゃろ!」

「大成功したぁ~」

≪終~了~! 全部除去できたよ≫

「……ありがとうございます」


 それからギミックに使った魔物たちの魔石。アレがあるから中ボス3体は、復活可能だってワワンパァが言ったら、最初からそのつもりで作ってたギミックらしい。

 まあ持ち帰られるとどうしようもないけど、レッドドラゴンは友達だから可能性を残しておきたかったみたい。


「フラム、レッドドラゴンを復活させてもよろしいですか?」


 なんでもこのチヒ山の噴火を、昔から抑えてたのがレッドドラゴンのフラムらしい。大事じゃん!? 超大事じゃん!


≪じゃあこれからも、やってもらったほうがいいよね≫

「アーチッチィ、これから、どうする、ある?」

「アーツッシィには、ここのダンジョン経営をしてもらおうって、思うちょるんじゃけど」

「私の名はアーツィッシィですが」


 言いにくいもんね……。


「アーさん、ここ、いる。ドラゴン一緒、嬉しいなるする」

「じゃろ? ほんじゃけえアーさんの任務はここの運営!」

≪一瞬で略されてるし≫

「アーさん……ですか」

≪アキラメロン≫


 こうなるんじゃないかと思ってた。

 黄昏てるアーさんには追加で、その服装は喜劇王みたいで笑えちゃうし、もっと普通のにしなよってアドバイスをしておいた。

 愕然とするアーさんをよそに、僕は伯爵に連絡。任務完了、ダンジョンはワワンパァの支配下に置かれたと伝えつつ、邪人の残した資料を物色中。


≪アーさんの肉が僕に使われてる件≫

「えーーーっ!?」

「なんと!」

「どういうことなんね!?」


 触媒の一つだった。不死性が残機を増やす能力になってるっぽいゾ?

 なんか100年位は研究してたみたい。研究所がダンジョン化したのは、ここ1年くらいで、不死研究もひと段落したのか人造カテゴリーオーバーのほうに、フィードバックするため移動するようなことが書かれていた。


「なるほど、氾濫を起こして騒ぎにすれば……」

「人、攫う、容易なるする」

「ええ」

「ポーちゃんの触媒にするつもりじゃったんか」

≪ろくでもないなあ≫

「ま、アイツらの目論見は潰したんじゃけえ、これからの話にしようやあ」


 そだね。でも一旦街に帰還して、ダズ爺と伯に相談するべきだね。チヒ山脈が大きいとはいえ、資源は有限。契約ダンジョンの登場はありがたいんじゃないかな。ミスリル鉱山とか可能なら夢が広がるじゃん?


 それにダンジョンを使ってトンネルを作れば、王都までのルートが新しく開拓できるだろうし。今は海岸沿いに回り込むルートしかないからね。チヒ鉱山街へはチョット遠い。王都からだと海路を使う方が早いと思うけど、山を挟んだ反対側の町なんかとは交流が生まれるだろうし。


 邪人が残して行った研究資料や施設は、前と同じく全部廃棄。フーちゃんが言うには、人の目に触れないほうがいいってさ。残ってるって時点でヤツらには不要な物なんだろうけど。


「じゃ、帰るするー」

≪だね。連絡用に僕の塊を置いていくよ≫

「アーさん、運営をよろしく頼むわ!」

「お任せください」


 なんかカワイソウな響きになるんだけどさ……バンパイアの王が支店長のダンジョンが生まれた。レッドドラゴンは部長ってことで。よろしゅうお頼申たのもうしますぅ。


 オーナーは幼女です。わぁい!

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次回≪MISSION:42 冒険者ギルド≫に、ヘッドオン!


お宝

リング・オブ・アンチポイズン

スタッグビートル・フォートレスの外皮

アンチポイズンジェム

スケアリー・ジャイアントコングの毛皮

ワイバーンの竜鱗+皮45

レッドドラゴンの竜鱗+皮 牙x86 瞳x2 肉塊x30個(300kg)

           爪x20(手6x2 足4x2)

その他の魔石は現時点で265個

 ジャイアントキャタピラー61

 クレイジーモンキー203

 ワイバーンの魔石43


※アーツィッシィ

 アチアチのとこにドラゴンと住んでたので、アーチッチー→アーツッシ→アーツィッシィになった可哀想な男マン。

 ワワンパァドールでダンジョンの追加経営はややこしくなりそうなので、支店長役で急遽仲間にすることに。そうすることによって、なんと放置できるのです。

 仕方ないよね。可哀想な男マンだし。

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