家族化計画

「名案? それって何ですか?」

「ふふふ~~ん、まぁ、今日は一緒に帰りましょう! その時に教えます!」


 なんだ? さっきまでの殺気が嘘みたいに消えてしまって、今ではいつも以上に上機嫌だった。


 みんなが帰ってくると、皆もその上機嫌な亜衣さんを見て、若干引いていた。それもそのはずだ。ニマニマとしていて、気味が悪いと感じるのは当然だった。


 俺も亜衣さんには若干目を配りながら、仕事をこなしていた。目が合う度に笑いかけてくるのも、先ほどまでとの落差で怖い。


 そうしていつもの通り辛い辛い業務が終わり、帰宅の時間がやってきた。


 俺は亜衣さんに言われた通り、亜衣さんと一緒に帰ることになった。


 亜衣さんは、いつも通りかなりの量の仕事をこなしたというのに、やはり元気だった。


 俺はいつもより半歩間を開けて亜衣さんと歩いた。


 そして楽し気な口調で、唐突に話し始めた。


「シズさんを私たちの子供にするってどうですか⁉」

「…………は?」


 シズさんが何を言ったのか、一瞬呑み込めなかった。いや、呑み込めないどころか俺は明確にその言葉を遮断したように感じた。


 なのに俺は愚かにも聞き直してしまった。本当に俺はバカだ。


「ですから、シズさんを私たち二人の子供にするって言うのはどうですか?」

「……亜衣さん、マジで何を言って……」

「だって、シズさんって別の世界から来て、こっちでは赤ちゃんも同然の人じゃないですか? 少なくとも常識とか、まだ成熟しきってないと思うんですよ! だったら、二人で常識なんかを身に付けさせた方が絶対にいいと思います!」


 いや待てよ? 案外合理的な提案では? 


 なにせ、亜衣さんは配信なんかで儲かってるし、シズさんの世話も、女性にしかできないこととかもあったりするかもしれない。


 まぁ、言いまわしはともかくとして、実際二人で協力してシズさんを養うのは色々な面で好都合。


「一回やってみましょうか」

「はい!」


 まぁ、流石に子ども扱いはシズさんが怒りそうだし、その点だけは注意しておこう。 


 家に到着し、ドアを開けると、シズさんが俺めがけて飛んできた。そして、優しく抱きしめてきた。


「「え?」」

「す、すまない……。ただ、……こうしないと落ち着かなくて……」


 ……別に抱きしめられることに疑問を抱いていたわけではない。昨日だってそうだったのだから、ありえない話じゃないと思っていた。


 ただ、かなり唐突だったし何より、きっと今の一瞬で俺はめちゃくちゃ焦ったんだと思う。何せ亜衣さんがいたから、まさかなんのためらいもなく飛び込んでくるなんて思わなかった。


「……アイも来ていたのか」

「……えぇ、ふぅ……、そう子供がお父さんを抱きしめるのは普通のことよね」


 なんか言い聞かせてる⁉


「お父さん? 何を言っているんだ?」

「気にしなくていいよ、シズさん」

「私のことをお母さんって呼ぶんですよ」

「ちょっと黙っておこうか、亜衣さん」


 今日の亜衣さんは暴走状態だ。口や肩から煙でも出てるんじゃねえか?


 そんなこんなで、シズさんには今日亜衣さんが泊っていくことを伝えた。シズさんは困ったような表情を浮かべ、不服そうに頷いた。

 

 シズさんは亜衣さんがお風呂に入ったのを見計らって俺に恐る恐る質問を投げかけた。


「今日は抱き枕は……」

「え……っと、前上げたペンギンのぬいぐるみじゃダメですか?」

「がーん!」


 ガーンて言っちゃったよこの子……。


「ペンギンもいいけど、ヒロシの方がちょうどいい」

「ちょうどいいって……」


 シズさんってこんなに子供っぽいことを言う人だっけ? まぁ、喜んでくれたならいいんだけど……。


「なぁ、代わりに今から……」

「ふぅぅ! すっきりしました!」

「亜衣さん。早かったですね」


 亜衣さんは化粧とか色々してるはずだから、もうちょっと時間かかりそうなイメージだったけど……。


「何か嫌な予感がして急遽上がってきました」

「そ、そうなんですか……」

「…………」


 シズさんが無言で亜衣さんをにらみつける。亜衣さんはどこか得意げな笑みを浮かべて、シズさんに目を向けた。


「それじゃあ、晩御飯にしますか」

「あぁ、俺が作ります」

「いや、私に任せてください!」

「お」


 亜衣さんって料理とかするのか? あんまり話題に上がんないから知らなかった。


 ~数分後~


 じゅぅぅぅぅ……。ごごごごごご!


「な、なんだ⁉ 敵か⁉」

「も、もしかしてあれか? シズさんの世界の敵も転生を……、いや、どうやら違うみたいですシズさん。俺のキッチンから出てる音みたいです」

「それは! ……どういうことだ?」


 俺は黙って亜衣さんの方に指を示すと、シズさんはびっくり仰天してしまう。


 何とそこには、キメラ生物のような、そんな料理が鍋からあふれていたのだ。


「亜衣さん、どうやったらそんなもの作れるんですか?」

「え? ふ、普通にやってただけですけど……」


 完全にミスった。亜衣さんに全部任せておくんじゃなかった!


「シズさん。俺が料理します」

「え……、ダメでしたか?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る