復讐に燃える女騎士、転生先で因縁の相手そっくりの社畜と出会う

@tottttti111

第1話 女騎士の葛藤。

「貴様の命もここで終わりだ」

「っく!」

「大人しく私の言うことを聞いていれば、騎士の誇りも、家族も失わずに済んだと言うのに......」


 私の目の前で嘲笑うのは、現公爵家の主人、バルザック。


 この男は血縁的には遠い東の国の者の血が流れており、顔立ちは他のものに比べれば堀が深くなく、やつれ気味だ。


 詳しくは知らないが、先祖がある戦にて戦果を挙げ、そこからとんとん拍子に地位を上げて行ったとか.......。


「もったいないなぁ〜、せっかく顔は良いのに......」

「黙れ‼︎ 貴様には私の顔さえ見せたくない‼︎」

「っへ! まぁいい。お前ら、こいつを殺せ」

「「「っは!」」」


 バルザックの背後に控えていた黒い服のものたちが、ゾロゾロとこちらに近づいてくる。


 もう立つことすらできない体。意識を保つのさえやっとで、私は悔しさと言いようのないほどの恨みを孕みながら、静かにその生を終えた。


 はずだった。


「どこだここは.......」


 あたりを見渡すと、全く見知らぬ景色.......。


 私は死んだはずではなかったのか?


 鎧も着たままだ.......。大分ボロボロだが.......。


 仕方ない。とりあえずあたりを散策しよう。ここがもしかしたら、世に聞く天国というものなのかもしれない。それにしては妙に曇天だが......。


 と、なんの希望もなく、なんの確証もなく歩いていると、突然、自分の体の右半分から強い衝撃が加わった。


「んな⁉︎」

「だ、大丈夫ですか⁉︎ ってえええええ⁉︎く、車が凹んでる⁉︎ い、いやそれどころではない」


 かなりの衝撃だったが、鎧も着ていたせいか、あるいは自分の筋肉のおかげか、大事には至らなかった。


「大丈夫ですか⁇」


 そう、心配そうに手を差し伸ばしてきたのは、忘れらない、いや、忘れられるはずのない顔だった。


 堀の浅い顔、やつれ気味の顔......。そして、今の声.......。


「貴様っ! 私に何をした⁉︎」

「え⁉︎ あ、大変申し訳ありません......! お怪我は......」

「何? 怪我だと? あぁ、お前のせいで死にかけたさ!」

「す、すすす、すいません‼︎」


 バルザックらしき人物は深々と頭を下げて謝ってくる。おかしい、妙に素直だ.......。


 それに、おそらく私にぶつかってきたであろうものは、今まで見たこともない代物だった。


「な、何するんですか⁉︎」

「う、うるさい! 妙なことはするな‼︎」

「あなた、携帯は? 壊れてなかったらあなたの携帯で......」

「ケイタイ? なんだ、何話だ⁉︎」


 私たちが睨み合いを.......、いや、どちらかと言えば私が一方的に睨みつけているだけなのだが......。そんなことをしていると、奇妙な爆音が鳴った。


『ぷうううう!』

「な、なんだ⁉︎ 敵襲⁉︎」

「あぁ、まずい......。あまり大ごとになってないせいで、事故が起きたと認識されてないのか......。あ、あの歩けますか?」

「舐めるな!」

「えぇ⁉︎」


 男はこちらに手を差し伸べてきたが、罠かもしれないし何より、屈辱的だ。


 私は一人で立ち上がり、そして気がつく。


 そういえば、怪我が治ってる。いや、もっと早く気づけるはずだったのだが、天国だと思ってすっかり忘れていた。


「ちょっと白い線の内側からでて下さい」

「......」


 結界の類か? いや、ならば外に出ろとは言うまい。


「あの......、なんでただ立ってるんですか? 早く......」

「どっちが内側だ⁉︎」

「......たしかに、よく考えると疑問だけども、歩行者ならこっちじゃないですか?」


 そう言って男は細い方の道を指さした。


 立場によって内と外が変わるのか? 奇妙だ......。


 しかし、何やら魔獣らしき物体が吠え続けていたので、私は渋々男の指示に従った。


「すいません......」

「.......」


 やはりおかしい......。あの、死に際でさえ頭を下げなかったプライドの高いバルザックとは思えないほど頭を下げている......。


 まさか、こいつはバルザックではない?


 男は魔獣らしきものに乗り込むと、まるで我が身のように操り始めた。そして、適当な場所に置いていった。


「すいません」

「何度も謝るな! 気持ち悪い......」

「......いや、だって轢いてしまいましたし」

「ひいた? 何を?」

「あなたを......」

「貴様私を馬だと言うのか⁉︎」


 私がそう叫ぶと、男は蚊待ったようにうなじのあたりを撫でていた。


 奇妙だ......。頗る奇妙だ......。


 私と男、互いが疑いの目を向け合っていると、雨粒が降り始めた。


「まずいな......。俺の家、すぐそこなんで、あ、でも車どうしよ......。まぁいいや」

「何? 車?」

「と、とにかく、一旦話し合いをしましょう。とりあえずうちに......」

「何故貴様の家になど!」

「で、ですが雨も降ってきましたし......。あなたの家は近いんですか?」

「............」

「......とりあえず俺の家に来て下さい。俺が何か危害を加えようものなら、容赦なく叫んでください。日曜日なので、叫べば誰か来るでしょうし......」


 ニチヨウビ?

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