ある血について
次郎次郎河太郎
第1話 ある夜の始まり
鳴り響く非常用ベルの音で、目を覚ました。
遠くから人の叫び声が聞こえる。
薄く目を開けて、彼女は自分のいるところを思い出した。
いつも寝起きしている場所と、大差ない。無機質な天井と、仕切りのためのカーテン。
視界が白く濁っているのは、部屋に煙が充満しているからだ。
横になった体は動かない。動かすことができないのか、動かす気力がないのか、ぼんやりした頭では判断できなかった。
カーテンの向こうから人の近づく気配がする。カーテンを開け、白い服を着た人物が、ベッドに近づいてくる。
その格好で、ある人を思い出した。暗くなっていく意識の中、彼女は瞼の裏に浮かび上がった、記憶の中の男を見続けていた。
そこから少し離れた場所。
男が、目的の建物の近くに止めたワゴン車の中で、手首から外した腕時計を見つめていた。
建物を見回っている人間が、裏口から離れるタイミングがある。そのすきに、この建物に潜入する。その時を待っているのだ。
この建物を所有している団体は、男が所属している組織が秘匿している機密情報の一部を知っている。彼らが知っている情報がどの程度のものなのか、それを確かめることが、彼の今回の任務だった。
彼はすでに建物内部の人々と同じ服を着ていた。名札にはフクダと書かれている。
携帯が震えた。指令だ。
任務の変更だった。彼はそれを見て目を疑った。
身体が冷えて魂が抜けるような感覚がした。
首を振り、時計を見た。時間がない。
彼は息を吐き、気持ちを切り替えた。
茶色い作務衣のような服を着替え、彼はもう一度時計を確認した。
そして車から出た。
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