ショッピングは楽しいぞ 7

 一度荷物を全部車に積んで、夕方も近付いたのでそろそろ帰ろうかと話をしたときに、レオンが最後にわがままを言い出した。


「見に行くくらいいいじゃん!俺、PS3までしか知らないんだから!」


 こんな感じでゲーム機が欲しいと叫んでいる。より具体的にいうのなら最新のプレステが欲しいと駄々をこねていた。

 遊ぶのは無理だってと僕が強めに言っても「スバルでさえ5持ってたのに知らないなんて悔しい」とわがままを言うレオンを見て「もう直接見せた方が早いわ」とアンさんが言うから、僕らは仕方なく踵を返してテレビゲームコーナーに行った。


 僕が過去にいたころには確かに5が出たし、タイミングよく抽選に当たったのでゲーマーでもないのに買った。けど、店内に置いてある未来のプレステと思われるものは数字に例えると何になるのかも分からない。意味不明な形をしているし、そもそも実態があるものなのかもよく分からない。商品の箱に書いてある説明書きを見せながら「この時代だと所謂インターネットに接続しないと、そもそも本体が起動しない」とアンさんが説得するように言ったのを聞いてレオンはやっとテレビゲーム関連の物をあきらめた。


 けれどもあきらめの悪いレオンは「それなら、ネットがなくても電気だけで使える未来の機械が見たい」と言い出したので僕らは隣の電化製品の店内を一周することにした。そういえば前回来たとき、20年前の電化製品は古いしどうせ見ても意味がないだろうと思い込んで最初から候補から外したんだった、だから案外良い提案かもしれない。我が家の洗濯機や冷蔵庫も古いはずだから壊れたら使えそうなものに目星をつけておきたいし掃除機も欲しい。炊飯器もいい奴で炊くと味が違うというし、冬用に巻き割き機も欲しい。生活の向上のためだと思うと僕も物欲がふつふつと湧いてきた。


「これ何?」

「音楽プレイヤーかな?音楽マニア向けねぇ」


 iPodなら欲しいと甘えるレオンの横で、アンさんが箱を開けてまじまじと説明書きを読む。しかし成果はなさそうな顔だ。


「アナログな方法で聞くにはこの機械だとCDみたいね。うち、CDないし、レコードしかないわ。デジタルだと、ダウンロードする場所がない」

「レコードがあるのに何でCDがないの?えーと、じゃあこれは?何か、かわいい」

「CDってパンデミック関係なくもう廃れてるのよ。え~っと、あぁ!これラジオね!」

「え、ラジオってまだあったんですか!?」


 アンさんは普通の顔で説明書を読んでいるけど、僕的にはラジオなんてものは200年の間に忘れ去られた文化の1つだと思い込んでいたので驚いてしまった。

 レオンが手に取ったのは文庫本くらいの大きさのつるんとしたオレンジ色の機械だ。子供むけのデザインではあるけど、大人の僕がみても逆にそのキッチュな姿がオシャレに感じる。


「アナログ文化にはどの時代もマニアがいるってことね。私はリアルタイムでは知らないけどパパが言うには人気カルチャーだったみたいよ。これはおもちゃだけど、発信も受信もできるみたい」


 箱を軽く振りながらアンさんが明るく笑う。「見た目かわいいし、気に入ったなら持って帰って飾るのもいいんじゃない?」とレオンに提案したのでラジオをいくつか持って帰ることにした。ラジオ番組は受信できないだろうけど、僕らでも送受信可能なら敷地内のアナウンス機能の代わりになりそうだ。我が家は広いので案外掘り出し物かもしれない。

 レオンはラジオで満足した様だったので気が変わらないうちに僕はショッピングモールの出入り口付近をさっさと掃除した。誰が設置したか分からないノートにも持ち帰り品と名前を記述する。

 履歴を見てみると月に1組は来ているようだ、前回の僕とアンさんの名前の後にも数組が記録を残している。けれど、僕は知らない人の名前だ、きっと他所の州の人だろう。

 今回は明らかにいつもより多く持ち帰りすぎたのであらぬ誤解を生まぬように「家族が増えたので」と一言説明を加えておいた。「皆さんがんばりましょう」というコメントと共に。そして僕らはモールの扉を閉めて、動物除けのスイッチを押してから入り口のチェーンをかけて、モールを後にした。

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