ショッピングは楽しいぞ 4

 中を進むとやや乱雑ではあったものの大量の服や家電が並んでいた。

 20年以上経営されていないはずのショッピングモールがやや古ぼけていたとしても崩落もせず昔の姿をそのまま残しているのは、過去にここを訪れた人たちがマナーやモラルをもって過ごしたという証拠だ。生き残った人々が、いかに残されたものを上手に使って生きている事が伺える。

 映画によくある独り占めを行ったとしても、このような世界ではうまく生きていけないという証明にもなっている気もする。協力し合ってこそ人のコミュニティは成り立つのかもしれない。


 僕達は虫食いや汚れた服を避けつつ、レオンの体に服を当ててサイズや好みで服を選んでいく。先述した通りレオンはよく動き回るからか汗っかきで、本格的な夏が来る前に着替えが大量に必要だ。それにこいつはまだまだ成長期だろうし今よりも大き目な服も今のうちに持って帰らないといけない。

 レオンはわがままを言いながら服を選んでいたけど、僕は1着選ぶごとに先人たちの思いやりの精神に感謝していた。この世界に来てから綺麗で好きな服を選んで着られるというのはとても贅沢な事だと悟ったからだ。物がないこの時代にはより一層身に染みる。


 しかし服を選んでて思ったけど何を着てもレオンはよく似合う。流石は元芸能人という事なのだろうか。

 まだレオンが手嶋玲音だったころにバラエティ番組で活躍する姿をテレビ越しに見たことがある。笑顔で愛想を振りまきながら仕事をしていたレオンは、今思えばとても変なデザインの衣装を着せられていた。僕が着ろと言われたら拒絶するダサさだった覚えがある。

 それでも特に違和感を覚えなかったのは多分レオンの容姿が大人顔負けなほどに整っていたからだ。顔がいいと何でも似合うというのは定説だけど僕はそれを今嫌というほど実感している。多少変なデザインの服を試着させてもレオンだと着こなせてしまうのだ。くそ、遊びがいがない。


 色々選んでいくうちに、レオンはカジュアルで少し大きめの動きやすい服が好みだということが分かった。それならほんとにナイキとかの方がいいだろうという話になりスポーツコーナーへと移動する。背中や胸に大きなマークの入ったジャージやTシャツをカートに入れたあとは、備えで冬用の上着なども選んだ。ボトムスを僕が探していると、カートにはいつのまにか新品のバスケのボールとボールの空気入れが入っていた。

 今日は必要な物だけと言った矢先にこれかよと叱ろうかと思ったけど、まぁいいか。

 ショッピングは楽しい方がいい。今日は見逃してやる。


 午前中はレオンの服だけで時間がつぶれたので、昔はマクドナルドやケンタッキーなどのチェーン店が入り、家族連れでにぎわっていたであろう元休憩スペースで持参した弁当を食べていた。

 限りある物資である服は取りすぎないようにと心掛けてはいたけれど、結局大小合わせてレオンの衣服だけで30着ぐらいになってしまった。持ち帰るのが大変だ。

 アンさんは「早く着替えたいわね」と楽しそうにニコニコしているけど水通ししてクローゼットにしまうのは僕だから、この量はちょっと勘弁してほしい。

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