ショッピングは楽しいぞ 3
私服になるとアンさんからは完全にシスター要素は消えてしまう、その辺でスタバを啜ってる大学生にしか見えない。今日はジーンズにTシャツとブーツを履いただけのシンプルな格好だ。けれど元々背が高くスタイルが良いので十分おしゃれに見える。尻ポケットには当然の様に煙草のセットが入っていて、首からはいつものロザリオとネックレスがぶら下がってた。
僕らは適当に朝ご飯を食べると大型の四輪駆動車に乗り込み、片道約200kmの旅へと繰り出した。ここに来た頃の僕は時速80km以上で走ることでさえ罪の意識を感じていたはずなのに、今じゃもう「時速100km以上出せば2時間で行けるな」とか計算するようになった。僕も段々染まってきてしまった。
「普段は足らないものがある時はもう人の住んでない家からいただくの。でも前はスバルが来た時、せっかくだからって行ったのよね~」
「あれ楽しかったですね」
「俺、ショッピングモールって初めて」
レオンが後ろの座席ではしゃいでいる。おやつまで持ってきて遠足に行く子供みたいだ。
「俺、バスケのボールとー、バスケのネットとー、ナイキとプーマのジャージ欲しいな~。ねぇ、ナイキとかってまだある?」
「ナイキとかプーマって何の事?」
助手席のアンさんがきょとんとしている。レオンは後部席のシートベルトをびょーんと伸ばしながら運転席と助手席の間に入り込んでいた。
「服のブランドだよ。知らないの?」
「え~、200年前の老舗なんてアンちゃんが知るわけないじゃない~」
「老舗って……」
若者の象徴のマークが泣いてるよ。ちなみに前行った時には店ありましたよ、アンさん。
2223年の世界では車道を整備する団体もいないのでたまに木の根っこでコンクリートが盛り上がっている。それらに気を付けつつ道を進むと、風雨で汚れた巨大なショッピングモールが見えてきた。僕らは入り口のチェーンと動物除けの電流柵のスイッチを外すと、広すぎる歩道を徐行で車のまま走り、直接メインの出入り口を目指した。
人の気配がないゴーストタウンな廃墟は、風化のせいなのか汚れているけど幻想的な雰囲気を醸し出している。
メインの出入り口とそこを塞いでいた板には
【必要な物だけ。持っていきすぎるな】
という警告が真っ赤なスプレーででかでかと書かれていた。アンさんが言うには彼女が小さなころにはすでにあったらしい。
他にも「ここに住むな」、「暴力禁止」、「譲り合いの心」、「神は見ている」、「←いねーよバーカ!」など、様々な文句がスプレーアートの様に色んな言語で書いてあった。
車を降りて過去の偉人たちの軌跡を見ながら、天窓から差し込む光を頼りにショッピングモールへと足を踏み入れた。
小さな町くらいの大きさのショッピングモールのメインの商品は衣服だ。手に取ったショッピングカートは日本の倍はありそうな大きさで、レオンが試しに乗ってみると寝転がれた。グラビアの写真が撮れそうだ。
レンガの床は所々抜けていて、特に酷いところは警告するように派手な色のスプレーで囲んである。僕らはカートを押しながら薄汚れたモールの案内図を見た。各服飾ブランド、家電売り場、ゲームセンター、もう何の店も無いけれどフードコートなどの名が平面図に無数に記されている。
「まず、レオンの服ね。男の子の服ってどこにあるかしらね」
「ミキハウスか西松屋がいいですよアンさん!超高級ブランドなんで」
「スバルばかにしてんだろ」
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