転生したら不思議なポッケを持った男として居候していた

白瀬隆

第1話 眠り

何ものにも縛られらい男、無頼として生きてきた。人からものを貰うこと、施しなど俺は期待していない。だから給与を与えられる生活などしていない。会社都合と書くと可哀想だから、自己都合にしておくよという定型句を添えられたが、コンビニ店員の仕事は半年前にやめた。屋根の下で眠れる最後の夜。これからどうなるのだろうかと普通の人は思うだろう。しかし俺はタフだ。そんな心配などしていない。実際にこのような状況に立たされると、心配する前に振り切っているのかもしれないが、とにかく何の恐れもない。たまたま最近、神と仏がバチバチだっただけだ。しばらくしたら世界は元に戻る。


そう思いたいと願いながら、俺は床についた。泣き濡れたという表現をする人は、本当の絶望を知らないのではないだろうか。むせび泣き、慟哭した。言葉なんて出ないし、ただただオウオウというオットセイみたいな声が出た。督促状で鼻をかむと痛いと知っている人がどれだけいるだろうか。とにかく今の俺はアシカさんなんて飲み込めるほどに獰猛なオットセイだ。


しかしオットセイでいられる時間も長くなかった。泣きすぎると人間は意外とスッキリする。ご飯を食べなければならない。部屋にはもちろん食料などないはずだが、漁ると何か出てくるかもしれない。俺は冷蔵庫の扉を開けた。見事に空の冷蔵庫のはずだったが、目立つところに何かある。いや、どう見てもイオンで艶かしく売っているアレが置いてある。女ものの下着。白いレースのパンツだ。


俺は童貞だし、そんなものが家にあるはずがない。恐ろしい話だ。しかしこの中にチョコレートが入っているある可能性も否定できないので、俺は心の中でチョコレーツッと叫びながらパンツを手に取った。


あれ?脚を入れる穴がない。


そう思うやいなやパンツはひらひらと舞い降り、俺のTシャツのお腹の部分に貼り付いた。指でつまんでも剥がれない。カンガルーのようにお腹のポケットができてしまった。

「こんにちは、僕ソラえもんです」

一人つぶやいてみた。俺の名前、坂上空右衛門の自己紹介ができてしまった。38歳の男が一人で猫型ロボットごっこ。泣けてくる。明日からどこで暮らそうか。考えても仕方がないので眠ることにした。

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