エピローグ


 アトリエの大きなガラス窓から、昼下がりのやわらかい日差しがたっぷりと差し込んでいた。


 クリスタは作業台に置かれた古代語の本の上で惰眠をむさぼっており、ブラックは蠱惑的な瞳を細めて小説を読んでいた。魔法でページをめくっているのか、紙の擦れる小さな音が静謐なアトリエに時折響く。


 お昼のゆったりとした時間が好きだ。


 こうして好きなときに、好きなことをして過ごす時間が何よりも素敵だと思える。


 私はクリスタとブラックの邪魔にならないよう、静かに椅子を引いて父さんの作業台の前に座った。


 父さんの残した手帳を広げる。


 癖のある父さんの文字をぱらぱらと読むと、自然と背筋が伸びた。


「父さん、私ね、Cランクになったよ」


 レックスさんとツンドラ地帯から来た商隊を見に行った数日後、スフェーン式懐中時計の発案者になったことと、“黒蛋白石(ブラックオパール)”を発見した功績を認められて、Cランクに昇格した。


 鑑定士バッヂが銀から金にグレードアップし、何度も指でバッヂを撫でた。


 父さんのように、人の役に立つ立派な鑑定士になりたい。


 私も、父さんに近づけているだろうか。


 私の声に気づいたのか、ブラックが小説から目を離してこちらを見た。


『あなたの欲しいものは、時間がかかるわね』


 希望と願望が見える彼女が黒目を光らせ、妖艶に微笑む。


 その目は楽しげな三日月に形どられていた。


『そうだね。少しずつ進んでいくよ』

『……私も力を貸すわ』

『ありがとう。頼りにしているよ』

『勘違いしないでよね。色々助けてもらったお礼もあるし、仕方なくってところよ』


 ブラックが早口に言って、ぷいとそっぽを向いた。


 恥ずかしがり屋な精霊さんだ。


 もう一度お礼を言うと、クリスタが大あくびを一つして、ふわふわと私とブラックの間に飛んできた。


『オードリーの目はすごく綺麗になってきたよね。もっともっと人生を楽しんでね〜』


 あふあふとあくびをまたして、クリスタが両手を伸ばす。


『目玉をもらうのが楽しみだなあ』

『可愛いのに恐いよ』

『だって目玉って綺麗なんだよ。あ、見る?』

『見ない、見ない』


 空中に革袋を出現させたクリスタが袋に頭を入れて、ごそごそとやり始めた。


 ブラックが呆れた様子で『見ないって言ってるでしょ』とクリスタのお尻をぴしゃりと叩く。


 いつもの調子のクリスタと、なんだか楽しそうなブラックに笑ってしまう。


 まだまだ人生は続く。


 鑑定士として、人として、もっと成長していきたい。


 そして死後の世界があるのならば、再会した父さんに私の仕事ぶりがどうだったかを聞いて、褒められたかった。


 父さんの使っていた懐中時計は改修して、作業台にある上部の本棚部分にフックをつけてかけてある。


 スフェーン式懐中時計はカチ、カチと細い秒針が確かな時を刻んでおり、3と描かれた文字盤下では、若草色をした“楔石(スフェーン)”が静かに輝いていた。







第2章 おわり


――――――――――――――――

読者皆様


 ここまでお読みいただきありがとうございました&お疲れ様でした^^

 第2章はこれにて終了でございます。

 続きはまたの機会にアップできればと思います…!


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 それでは引き続きよろしくお願いいたします!

 

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没落令嬢のお気に召すまま 〜婚約破棄されたので鑑定士として独立ライフを満喫します〜 四葉夕卜 @yutoyotsuba

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