正義の味方の勘違い

亜季

第1話 初めまして?

 人生は選択の連続だ。 


 困っている人が居ればどうする?友達と喧嘩してしまったら?仕事でミスをしてしまったら?


 選択次第で自分の望む結果、望まない結果が導き出される。


 「あの時」と思う事も多々あるだろうが、気付いた時にはもう遅い。


 結果は既に出た後、残るのは「後悔」たられば話は存在しないんだ。


 俺は小学校の時にそれに気づいた。何を子供が生意気な事を、人生舐めるな、冷めた小学校だな。と鼻で笑う大人達もいるだろう…。


 だが、歳なんて関係ない。後悔した数が多ければ多い程に早く気付くだろうし、逆に後悔が少なければ気付くのが遅くなるだけ。


 俺はただ、間違いを経験し続けて後悔の数を重ねただけの子供に過ぎない。


 きっとこれからも多くの選択を迫られ間違うだろう。

だから後悔しない結果が出るよう努力だけはしよう。


 他人から見たら失敗に見えたとしても、自分が満足できる後悔しない結果を求めて。



――――――――――――――――――――


 夜8時、コンビニのイートインコーナーが毎晩の食卓だ。


 おにぎりとカップラーメンを買い、お湯を注いだら勝手に決めた指定席に着席。


 家はシングルファーザーと言うやつで、父ちゃんはトラックの長距離運転手。


 当然、家にいない事が多い訳で、必然的にコンビニで晩飯を済ませるのが当たり前になってしまっている。


 寂しいと思う時もあったが、慣れてしまえば何も変わらない何時もの平凡な日常。


 しかし、平凡な日常にも変化は訪れる。そう、明日は人生のビッグイベントとも言える入学式。


 俺、黒崎 仁(くろさき じん)も晴れて中学生である。


 自慢じゃないが俺は嫌われている。もちろん、初めからだった訳じゃない。幼稚園の頃は、運動神経が良くて大抵のことは直ぐにできたし上達するのも早かった。


 おかげでクラスの人気者。それがなぜ小学校では嫌われ者になったかって?

簡単なことだ。母ちゃんの口癖だった「優しくて、強い子に育ってね」を全力で間違ったから。


 母ちゃんは俺が小学校に上がる前にガンで死んだ。


 悲しくて悲しくて、泣き続けていた俺に、父ちゃんが「いつまでも下を向くな!母ちゃんの口癖を忘れたか? そんなんじゃ母ちゃんが悲しむ!」と活を入れられた事を今でもよく覚えている。


 あの時はある人に支えられながら何とか立ち直る事ができた訳だが……まぁ、この話はまた今度。


 悲しみを乗り越えた後、俺は母ちゃんの願いでもあった「優しくて、強い子」になろうと決めた。


 まず最初に「優しくて強い」のは誰かを考えた。

 

 幼稚園ぐらいの子供が思い当たる人物なんてたかが知れていて、あんこが詰まったパンの人や、5人で世界の平和を守り途中で1人2人仲間が増える人達、仮面を被ったライダーさん等々。


 共通しているのは正義の味方。


 実際考え方や、方向性は悪く無かったと思う。じゃ、なにが不味かったか?


 正義の味方になる過程を間違えたのだ。


 紹介した人達の共通点はもう一つある。それは戦う事。


 良い言い方をすれば強大な力に対し、自身の持つ力で対抗し勝利を掴み取る。


 悪い言い方をすれば、暴力には暴力で立ち向かい相手を叩き潰し勝利を掴み取る。


 設定が正義の味方な訳で、敵をやつけた所で誰も文句は言わないし、むしろ感謝されるだけの幸せな物語。


 だから設定のない現実世界で同じ事をすれば当然、結果は違うものになる。


 ここまで話せば予想はつくと思うが…。俺が導き出した答え、それは暴力こそが正義。


 なんでやねん。


 答えが出た事でやる気満々になった幼き俺は、いじめっ子達をことごとく叩き潰した。


 そんな上手く行くはずがないって?正解だ。勝てない相手も沢山いたし、いつの間にかいじめのターゲットにされていた。


 そこで大人しくする事を選べばよかったのだが……負けず嫌いの性格に火がつき、喧嘩で勝つにはどうすればいい?と努力を始めた。


 普通、我が子が喧嘩!喧嘩!と言えば説教タイムに突入するだろうが、家の父ちゃんは普通じゃなかった。


 「喧嘩は力じゃねぇ!相手の動きをよく見て隙きを見つけ出せ!後は脛!みぞおち!顎!最後にテンプルだ!」と喧嘩の極意を丁寧に実践付きで伝授。


 さっきも言ったが俺は運動神経がいい。相手の動きを見極める事と必殺急所狙いを覚えた事で、今まで勝てなかった相手に無傷で勝利。


 なんでやねん……。


 小学性に武士道や騎士道なんてないわけで、1人で勝てないなら2人!それでも駄目なら3人!に増え、さらに自分達だけでは無理だと上級生まで引っ張り出してくる始末。


 上級生となると流石に無傷とまでは行かず傷だらけになりながらも何とか勝利を勝ち取ったが、それも1つ2つ上まで。


 3つ離れれば流石に圧倒的な筋力差の前にただひれ伏し、いじめられる日々に逆戻り。


 力が足りないどうすれば?そうだ……筋肉をつければいい!


 間違って……はいない。


 ボクサー並みの筋トレと父ちゃんの熱血指導により、バッキバキの肉体改造に成功した俺は、3つ上の上級生にすら勝利を収めたのだが、悲しい事に一度勝ったら終わりと言うわけではなかった。


 生意気な奴がいると聞きつけた別の上級生達との勝負、負かした奴等からのリベンジマッチ、挙げ句の果には1対多数の大乱闘。


 来る日も来る日も喧嘩、喧嘩、喧嘩。


 当然、周囲からは見事に不良認定を頂戴し正義の味方どころか、嫌われ者のボッチが完成した訳だ。


 めでたし、めでたし……めでたくないわ!


 とにかく、小学校ではことごとく選択肢を間違えてしまった訳で、中学では同じ過ちを繰り返すわけにはいかない。


 幸い、俺が明日から通う予定の中学校は5つの小学校が集められるモンスター中学で、知らない奴らも多く通うはず。


 初対面ならば俺に対する悪いイメージもまだ先入観程度、定着はしていない。上手く立ち回れば「あいつ意外に良いやつじゃん。」までは持っていける……はず。


 後は、笑顔と謙虚な気持ちを忘れずに接すれば友達が出来るのも遠くないはず。


 たくさん!作る!友達!


 そんな密かなる決意を胸にラーメンが出来上がるのをジッと待っていた時だった。隣の椅子がスッと動いき反射的に振り向くと、彼女は居た。


 腰のあたりまで伸びた銀色の髪。白いシャツの袖は少し折られていて、そこから見える腕は細く、肌は日の光を知らないように白い。


 なんだこいつ?すげー白いな!ハーフか?と考えながらも直ぐに視線を戻した。


 だってあまりジロジロ見ていて変な人だと思われても嫌だし、そもそも知らない人だし。


 そう思いながら食事を再開したのだか……なんか凄い見られてない?


 え?なに?近い近い……怖いんですけどぉ!?


 底しれぬ恐怖と疑問を抱きながらも、しばらくの間は無視を決め込んだが、耐えきれず、ビビりながらも意を決して振り向き、目が合った瞬間抱いていた恐怖も疑問も吹き飛び……。


 見惚れてしまった。別に着飾ってるわけでも、化粧をしているかけでもない。クラスで1番かわいい女の子とか、そこらのアイドルとか、そんなレベルじゃない。


 前髪を留めている何処にでもあるようなヘアピンですら一級品に見えてしまう程に綺麗でかわいくて、見惚れるなと言う方が無理だ。


 特に印象的なのは今も俺の事を恥ずかしそうに見ている、大きくて綺麗な瞳。


 なんなのこの子?天使なの?


 こういう時、紳士な男はきっと「お嬢さん、何か僕に用があるのかな?それともエスコートして欲しいのかな?」とか言うんだろうが…。


 緊張で目つきは悪くなるわ、唇はカッサカサに乾く わ、なんならちょっと鼻息まで荒くなりながら放った一言が


「ラーメン食うか?」


 やらかした…。


 男同士でも引くような言葉をこの子に言う奴なんて、明日から部屋に籠もった方が良いんじゃないだろうかと本気で思う。


 彼女の反応もどうせ同じような…


「り…凛(りん)です!これからよろしくお願いします!」


 どちらの凛さんでしょうかね?もしかして緊張してるのはこの子も同じか?


 フフフ……まさかこんなにも早く挽回のチャンスが来るとはな!さっきは失敗したが二度も同じ事は……。


「仁だ。夜露死苦!」


 ブレないなぁ〜俺は。もう考えるのやめよ悲しくなるわ。


「凛!自己紹介が終わったらなら帰るよ!」


 コンビニの出入り口で母親?いや、ばあちゃん?がこの子を呼んでいる。


 あの人どっかで見た事あるような……思い出した!前の家に住んでるばあさんじゃねぇーか。あの家に子供なんて居たか?孫か?


 不思議に思う俺を他所に何処ぞの凛さんは立ち上がりばあさんの所に向かっていったのだが、途中で振り返り、胸のあたりで小さく手を振り「バイバイ」と微笑みながら小さな声で別れの挨拶をしてくれた。


 咄嗟に軽く手を振り「またな」と不器用にも伝えれたのは俺評価で◎


 その後、家に帰ってからもあの子の事がしばらく頭から離れなかったのは言うまでもない。


 これが凛との最初の出会い、物語の始まりのお話。

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