交換日記から物語は始まるか?

amegahare

交換日記

「僕と日記を交換してくれませんか?」

 私の生きている世界では双方が合意すれば、日記を交換できる制度がある。そして、政府から各々の日記には色が割り当てられている。

 私の日記は虹色。

 どちらかというと、私の日記の色は人気があるようで、よく日記の交換を申し込まれる。

「あなたの日記は何色ですか?」

 私は今まで日記を交換したことがない。だって、虹色を気に入っているから。でも、冷たく断るわけにはいかず、相手と最低限のコミュニケーションをするようには心掛けている。


「僕の日記は虹色です」


 あれ、私と同じ色だ。珍しい。しかし、ここで疑問。なぜ、虹色を手放そうとしているのか?


「虹色って、人気のある色だと思うけど、なぜ交換したいの?」

 と、素直に聞いてみることにした。

 私を捉えた彼の優しげな眼は大きくなり、頬は少し赤色に染まった。

「だって、僕と日記を交換しれくれたら、君は僕のことを忘れないでしょ」

 そういって、彼は恥ずかしそうに顔をマフラーに沈めた。

 同じ色の日記を交換しても代わり映えがしない。でも、彼の日記が私の日記になる。そして、私の日記が彼の日記になる。


 そういうのも悪くない。


 夕暮れの時の空を眺めて、もう少し思案することにした。そして、この先の未来に想いを馳せてみることにした。


「僕の提案、どうかな?」


 突然の日記交換の申し出に私は戸惑っている。彼の存在は知っていたけど、今まで意識して生きてきたことはない。私の視線は泳ぐ泳ぐ。

 改めて彼を見てみる。髪の毛や肌は適度に手入れされていて清潔感がある。身長も私よりは高い。服のセンスも悪くない。

「う~ん」

 唸る私。彼は私の目を真っ直ぐ射抜くように見つめてきてくれる。

 でも、どうにも顔が好みではない。何というかトキメカナイ。そう、ときめかない。心が全くときめかない。自分でも驚くくらいに。

「そうね、、、」

 私はどうしたものかと悩む悩む。このままキープの意味で日記を交際をしてみても良いかもしれない、という悪魔の囁きが聞こえてくる。ダメダメ!恋はいつでも全力でなくちゃダメだよ!ときめかない恋なんて不純だ、という天使の助言が聞こえてくる。


「う~ん」

 また、唸る私。いっそのこと、私が悪女ならどうするだろうか。彼の心を弄ぶのだろうか。

「俺の日記じゃ、だめかな?」

 彼は少し不安げな様子を混ぜながら、再度尋ねてくれる。

「う~ん」

 さらに、唸る私。「私は悪女、私は悪女、私は悪女」と、心の中でとりあえず念じてみる。まったく心がときめかないが、ここは悪女になりきってOKの返事をしようか、という考えが頭をよぎる。

「そうね、、、」

 また、私は同じセリフを呟いて、考え込む。

 そして、決心した。

 にっこりと微笑みながら、彼の目を見つめて、ゆっくりと口を開いた。彼の目が微かな希望の光で揺らいでいるのを確かめながら。


「ごめん、無理。だって、心がときめないから」


 私は悪女にはなりきれない。自分の心に偽って、彼と日記を交換することはできない。彼の目は、さきほどの希望の光は消失して、絶望の闇が覆っていた。

 そして、彼は弱々しく呟いた。


「この悪女め、、、、」


 どうやら私は悪女になってしまったらしい。


(了)

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