第13話 フウジンは本物なのか?
「誰かきました」
長くなっていく木のや草花の影を見ながら、窓辺でお茶を楽しんでいたレインはがたりと立ち上がる。
森から侵入者が現れた時のために仕掛けをしておいたのだ。草むらに隠して張ったロープに足をかけた者がいれば音が鳴るようにしておいた。
(フウジンさんの追手かも。逃げなくては)
力も知識も赤子同然のフウジンを守れるのは自分以外にいない。
レインはいつでも逃げ出せるよう、貴重品をまとめておいた革の鞄片手に立ち上がる。
「行きましょう。フウジンさん。馬は私が走らせますから、落ちないよう私の腰にしっかりつかまってくださいね」
「レイン、一つ確かめておきたいんだが」
一向に慌てる気のないフウジンはカップを傾け、そっと手元に戻す。
「お前、俺が自分を源竜だと思い込んでる頭のおかしい人間、と思っているな」
「い、いえ、というより、今はそれどころではなくてですね」
「まあ、仕方がないかもしれんがな」
フウジンはやれやれと長い髪をかきあげ、立ち上がる。そのまま玄関へとスタスタ歩いて行ってしまった。
「あの! そっちは違います。馬は裏庭の方です!」
「さっき、倉庫でこんな精霊石を見つけてきた」
外に出たフウジンは一つ伸びをし、いつの間にか手にしていた石を軽く投げて横から奪うように掴みとる。
「確かに今のオレは、精霊石を使わねば精霊を使えない。その点は人と変わらん。だが、果たして人がこのように精霊を扱えるかな?」
言い終える前に、フウジンの髪が宙に浮き、渦を巻いた。竜巻のように舞い上がる。
逆立った髪は一瞬の間をおいて手折れるように落下した。完全には落ちずに空中で広がっていく。浮いた髪にひっぱられるようにしてフウジンは俯いた。
それはレインの見たどの人間よりも美しい横顔だった。
「――――」
通常、使用中に石は光るものだが、あんなにも溢れるほどの光量は見たことがない。フウジンが話しかけるたび、呼応した白銀の光は幾何学的な模様を描きながら土に向かって伸びていく。
風の向きが急に変わりレインはもろに正面で受けた。体ごと吹っ飛びそうになったが伸びてきた手に支えられる。
「もう大丈夫だ。見てみろ」
そう言われて、おそるおそる目を開く。
一瞬いつもと変わらないように見えたが明らかな大きな変化があった。草が伸びていたところに大きさな穴が空いている。大型な馬車が通れそうなほどの大きさだ。
「あれを、一瞬で掘ったのですか?」
「穿ったのではない。土の精霊に話をつけて一時的に除けてもらっているのだ」
「精霊とそんなに具体的な話を……? 聞いたことがありません」
信じられないことに、穴の周りは土埃が一切舞っていない。
綺麗に開けられた円の形は、退いてもらっている、という表現がぴったりだった。
使用者によって精霊の性質は変化する。
フウジンが人間離れした存在であることだけは間違いがないようだ。
「遠くの地へと続いている。俺たちが通れば元に戻る。追われる心配もない。さあ、行くぞ」
はい、と頷こうとして、レインは背中に強い衝撃を受けた。
「……っ!」
薄れゆく視界の中で、フウジンの姿が水面の中のように歪んでいく。その顔はひどく慌てていて人間臭くて、どうしてか懐かしいと思いながらレインは意識を手放した。
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