この島の民は観光客を生贄としてしか見ていないフシがある
L.L.Snow
序章:神はかく語りき
神の名前は神である。
神はこの島を庇護すべく恩恵を与える神であり、また島民からの信仰を一身に貰い受ける神であり、伝えねばならぬ事がある為に、こうして語りかけている。
知っての通り、島は赤道に近く、大陸から離れた海上に浮かび、暖かな気候と独自の動植物を包有する生命の溢れる処である。島にはニンゲンが名付けた固有名もあるが、島は神と同一であり、故に神は親愛を込めて「島」と呼称している。なので、神は島をただ「島」と述べる。
まず、今現在の島を語る前に、知っておいて貰う必要のある知識を授けよう。神の庇護する島は、神々の立場から見て、この世界では少しばかり特殊な立ち位置に存在している。
遥か遠く、気が遠くなる程の昔に世界は発生し、世界は神々の庇護の下に運営されていた。そして、世界は神々の赴くままに様々な生命が生まれては死んでゆき、いつしかニンゲンが誕生した。ニンゲン達もまた神々の庇護下にあったが、彼らは他の動植物と異なり、神を意識する様になったのだ。
ニンゲンは世界の中に神々の息吹を感じ取り、彼らには見えぬ神々に向かって感謝を捧げるようになった。それが今日まで続く、祈りだ。神々はニンゲン達の祈りと言う行為にいたく興味を示した。そして、ある一神がニンゲンの一つの祈りに、特別の恩恵を与えたのだ。そうして、ニンゲン達は神々の実在を信じた。神々はニンゲン達の祈りと信じる精神から新しいチカラを得た。これが即ち、信仰である。
今は昔、神々がニンゲン達に特別の恩恵を与えていた時代、ニンゲン達は競い合うようにして儀式をより複雑により強力により信仰深く作り上げていった。類に漏れず、神の庇護する島の島民達も儀式によって信仰を示しており、知っての通り、現在でも島の儀式は創造が尽くされている。
島の豊かな恵みと今もなお繁栄する動植物は、神の恩恵であると言える。だが、近年において島外から多くのニンゲン達を誘致し続けているのは、島民の努力の賜物であると神は感じている。
島の玄関口は海からの船舶だけである。島には幾つかの港があり、そこが島と外界を繋げる唯一の出入り口となっている。ごく最近にニンゲン達が発明した飛行機を乗り付ける為の飛行場と言うのは、島を切り崩し海を埋め立てなければならず、神としては度し難いと感じおり、島民も同じく考えている様なのは神としても嬉しい限りである。
島には毎日の様に大小の船が行き来している。その中でも観光客をどっさりと乗せた船は島民達に特別な歓びで迎え入れられる。観光客が荷物を抱えて港に降り立つと、そこには潮の濃密な香りと南国の熱気に加えて、楽隊を組んだ島民達による歌曲が降り注ぐ。
歌曲は、古くから、島に訪れる者に島民が最初に贈る祝福であり、神を称え敬い畏れる信仰の旋律である。島の年長者や一部の者は古い時代の歌曲を今に伝えては居るが、現在の島に訪れる観光客は若い者が多いこともあり、島民達はアレンジを加えていき、地に響く重低音と軽快な拍動に乗せた爽快な歌詞で新しい歌曲を作り上げている。もちろん、そこには神への深い信仰が潜まれており、歌曲を聴く観光客達の鼓動を神の信仰へと誘う。
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