第8話「先輩、風邪?」前編

 前回私は車椅子の少年、不尾丸論君と今ここで再会してしまった。




[不尾丸 論]

 「……あぁ、あんたか」




 不尾丸君が私の顔をジッと見てくる。



 どうやら私の事覚えててくれたみたい!



 そう言えば、同じ学校だったんだよね。




[永瀬 里沙]

 「び、美少年……えっ!知り合い!?」




 不尾丸君とは、この前の放課後に知り合ったんだよね。



 あの日溝にハマってたこの子を助けて。



 施設いえまで送ってったし……。




[朝蔵 大空]

 「うん、ちょっとね」



[不尾丸 論]

 「この前はお世話になりました、朝蔵先輩」




 不尾丸君は少々ダルそうに首を掻きながらそう口を開いた。




[朝蔵 大空]

 「あははっ、どういたしましてー」




 私はお礼を言われてつい嬉しくなってしまう。




[朝蔵 大空]

 「あっ!もし時間あったらさ、13時に体育館来て!」




 暇ならこの子にも来てほしい!




[不尾丸 論]

 「体育館?……何?」




 不尾丸君は意味が分からないと言うような表情をしている。




[朝蔵 大空]

 「劇をやるの!見に来てほしいな〜」



[永瀬 里沙]

 「ぜ、是非!」



[不尾丸 論]

 「……メンドクサイかな」




 !?



 メンドクサイって、そんな!




[永瀬 里沙]

 「ふぁっ!?」




 里沙ちゃんは隣で気まずそうに立っている。




[朝蔵 大空]

 「えっとね、実は私が主役で……白雪姫をやるのだから……」




 釣られて私も気まずくなり、発する声が小さくなる。




[不尾丸 論]

 「えっ、あんたが出るの?……ふっ」




 笑われた、鼻で、馬鹿にするように。



 なんだか失礼な子ね……。




[朝蔵 大空]

 「な、なによ」



[不尾丸 論]

 「あんたそう言うタイプには見えない」




 それって私にオーラが無いって事かな!?



 この子、一体私に何を言いたいのー?




[朝蔵 大空]

 「色々あって……でも、頑張るつもり!なんです……」




 泣いても笑っても今日が本番だし……!




[不尾丸 論]

 「ふーん、そっ」




 不尾丸君はそう言って、私から目を離す。




[不尾丸 論]

 「でもね、人の"根"ってそう簡単には変わらないんだよ」




 不尾丸君が車輪を回して私に近付いて来る。




[朝蔵 大空]

 「えっ……」




 人の、根?



 私の根……?




[不尾丸 論]

 「まっ、精々頑張って」




 それだけ吐き捨てて、不尾丸君は私と里沙ちゃんを通り過ぎて向こうの道へと進んで行ってしまった。




[朝蔵 大空]

 「あっ……」



[永瀬 里沙]

 「……ちょっと感じ悪いねぇ」




 素直じゃないなぁ。



 前に会った時もあんなんだっけ……?




[永瀬 里沙]

 「まっ、今どきの1年坊主なんて皆んなあんなもんよねー」




 それとも、何かあった?




[朝蔵 大空]

 「あはは……」



[永瀬 里沙]

 「まっ、うちの"原地"は違うけどね〜」




 原地……確か里沙ちゃんの水泳部の後輩君だよね?




[朝蔵 大空]

 「その子、そんなに良い子なの?」




 私はまだ姿すら見た事が無いけど。




[永瀬 里沙]

 「うん、なかなか居ないんじゃないかしら?あっ、劇見に来てくれるって〜。良かったね大空!」




 と言って里沙ちゃんは私の脇腹を肘で刺してくる。




[朝蔵 大空]

 「え?あ、うん……まあ。私その子の事、全然知らないけどね」




 その原地君って言う子とは、中学だって別だって言う話だし。




[永瀬 里沙]

 「会ったら分かるんじゃない?今日会うと思うし」



[朝蔵 大空]

 「うーん」



[朝蔵 真昼]

 「……?……あ!里沙さん!」



[永瀬 里沙]

 「ひっ……!真昼君っ……」




 里沙ちゃんは真昼の姿を見た瞬間、全速力で逃げて行く。




[朝蔵 真昼]

 「里沙さん?なんで逃げるの?」




 それを真昼がすぐに追い掛けに行く。




[朝蔵 大空]

 「うーん……」




 原地……洋助君…………。



 誰なんだろう、ほんとに。



 ……。




[不尾丸 論]

 「13時か」



[不尾丸 論]

 (そう言えば洋助も行くって言ってたな……)




 ……。




[卯月 神]

 「また人が増えてきましたね」



[加藤 右宏]

 「ダナ!このまま着実に外堀を埋めてッテ……くーっ!結末が楽しミだな!」



[如月 凛]

 「シン〜!!ミギヒロ様〜!!」




 凛が卯月達に向かって走って来る。




[卯月 神]

 「リン?来てたんですか」



[加藤 右宏]

 「ナンダヨ大天使様」



[如月 凛]

 「なんか、向こうのテントで『ダジャレ天国』って言うのがやってるみたいです!なんかすごーく楽しそうで!行ってみませんかー?」




 凛はそう言ってワクワクした表情で瞳をキラキラとさせる。




[卯月&ミギヒロ]

 「「ダジャレ……天国?」」




 ……。



 あれから数時間が経ち……。




[永瀬 里沙]

 「はぁ、はぁ……やっと逃げきれた」




 いきなり息を切らしている里沙ちゃん。



 何かあったのかな?




[永瀬 里沙]

 「はいはい!準備終わった人から並んで!並んで!もうすぐ本番だよ〜」




 つ、ついに始まるのね!






 バタっ……!!






[嫉束 界魔]

 「すみません!遅くなりました!」



[笹妬 吉鬼]

 「すんません」




 遅れてやって来た嫉束君と、笹妬君が控え室に入って来る。






 キラキラキラ……☆






[永瀬 里沙]

 「鼻血ブシャーーー!!!」



[朝蔵 大空]

 「!?」




 里沙ちゃん、鼻血吹き出してどっか飛んでった……!



 こ、これは!!




[刹那 五木]

 「おぉ、やっぱイケメンは違うね」



[笹妬 吉鬼]

 「……?あぁ」



[嫉束 界魔]

 「着替える時間無くて……そのまま」




 これは、執事!!!



 嫉束君と笹妬君の、タキシード姿〜!!



 ちょ、直視出来ません!




[刹那 五木]

 「そう言えば喫茶店と掛け持ちか、お疲れっ。はい着替え」




 五木君が嫉束君と笹妬君の分の衣装を渡す。




[嫉束 界魔]

 「ありがとう!着替えてくる!」



[永瀬 里沙]

 「あぁ……もう少し見させて……執事、性癖……執事、がはっ……!」




 里沙ちゃん、生きてる??



 

[巣桜 司]

 「が、頑張って下さい!狂沢君!!」



[狂沢 蛯斗]

 「べ、別に貴方に言われなくとも……あ、ありが……」



[木之本 夏樹]

 「おいそこイチャつくなよ!本番だぞ!?真剣にやれ、真剣に」



[巣桜 司]

 「ひゃっ!?ご、ごめんなさい!焼きそば買って来ますっ!」



[文島 秋]

 「木之本、シー……」




 木之本君達も張り切ってるなぁ……。



 って言うか、『焼きそば』とか聞いたらお腹空いてきちゃう。




[刹那 五木]

 「じゃあ遅く参戦した者同士、頑張りましょうかね」



[嫉束 界魔]

 「おう!」



[笹妬 吉鬼]

 「おう」




 あそこもあそこで謎の結束力が出来ている!



 どうしよう。



 私、実は……めちゃくちゃ緊張してるんだよねー!!

 


 さっきから胸がドクドク苦しくて、舞台に立ったら頭真っ白になっちゃいそう!




[朝蔵 大空]

 「くっ……」




 何か緊張がほぐせる物があると良いんだけど……。



 そう思って私は周りを見渡した。




[卯月 神]

 「朝蔵さん」



[朝蔵 大空]

 「ん?何、卯月君?」




 卯月君、どうしたんだろう?




[朝蔵 大空]

 「……?」



[卯月 神]

 「布団が吹っ飛んだ!」



[朝蔵 大空]

 「えっ」



[卯月 神]

 「……」




 まさか。




[朝蔵 大空]

 「な、なんにも面白くなかったけど。ありがとう」




 私がそう言うと、卯月君は何も言わずに男子達の方に戻って行った。



 い……今の何ーー!?



 卯月君なりに私の緊張を解こうとしてくれたって事ー?!



 逆に集中切れる!




[朝蔵 大空]

 「でも……」




 さっきより緊張がマシかも。




[永瀬 里沙]

 「皆んな〜、失敗しても良いから。とびきり楽しいものにしよーねー!」




 今なら行ける!行くしかない!



 さぁ、舞台へ!



 ……。






 ざわざわ……。






 薄暗い体育館にはそれなりに人が集まっている。




[不尾丸 論]

 「洋助!」




 不尾丸がゆらゆらと杖をつく。




[洋助と言う男]

 「……?」



[不尾丸 論]

 「やっぱお前、見に来てたんだな……やっぱり、"先輩"目当て?」



[洋助と言う男]

 「……まあね」




 やがて舞台に、役者達が出て来る。




[朝蔵 大空]

 『こっ……小鳥さーん、歌を歌ってみてくれなーい?』



[小鳥役]

 『『『ぴよぴよぴよぴよぴよぴー』』』




 もちろんそこには、衣装を身にまとった大空が一生懸命演じている。



 演技力は素人らしく並だ。




[不尾丸 論]

 「あははっ、丸出しって感じー?」




 不尾丸は舞台の上の大空の事を指さして笑う。




[朝蔵 大空]

 「?……なっ……!」




 あの子、見に来てるじゃない!




[不尾丸 論]

 (くだらな、これなら施設うちで毎年季節ごとにやってるお遊戯会の方がまだ良いわ。こんなの見ても時間の無駄だな)



[洋助と言う男]

 「先輩……大空先輩」




 そんな大空に見とれる男がここにひとり。




[不尾丸 論]

 「洋助……?」



[嫉束のファンA]

 「ねぇ、嫉束君の出番まだー?」



[嫉束のファンB]

 「私らこんな小娘のド下手な演技見に来た訳じゃないんだけど」



[嫉束のファンC]

 「早く嫉束君出してー、時間の無駄〜」




 観客にはSFCの一員だと思われる生徒もちらほら見られる。




[不尾丸 論]

 「ふふんっ」




 不尾丸はそれを見て静かに笑う。




[不尾丸 論]

 (そうだ、馬鹿みたいじゃん。こんなの……)



[洋助と言う男]

 「無駄じゃない」



[嫉束のファンC]

 「……は?」



[不尾丸 論]

 「!?」



[不尾丸 論]

 (おいっ……!)



[嫉束のファンB]

 「何あれ1年?うちら先輩なのに、生意気じゃない?」



[嫉束のファンA]

 「水泳部の原地はらち洋助ようすけじゃない?」



[原地 洋助]

 「……」




 原地は鋭い目付きでファンを睨む。




[嫉束のファンB]

 「はっ?良い子で素直って評判と全然違うじゃん、怖……」



[嫉束のファンA]

 「めんどいからあいつが居ないとこ行こ」



[嫉束のファンC]

 「チッ……そだね」




 原地のひと言で気分を悪くした嫉束のファン達は、どこかへ移動して行った。




[不尾丸 論]

 「すげぇな、お前」



[不尾丸 論]

 (塁の奴もそうだけど、こいつもおかしい。なんでこいつ、あの先輩の事になると……)



[原地 洋助]

 「…………だーって、ボクの大好きな大空先輩が悪く言われて、ムカついちゃったんだもーん!」




 原地は声色を変えて調子の良い喋りをする。




[不尾丸 論]

 「き、キモい……」




 不尾丸はそれに対してちょっと引いてしまう。




[原地 洋助]

 「もー!キモいとか言わないでよ〜!もー!!」



[不尾丸 論]

 「やめろ、やめろ」



[不尾丸 論]

 (なんだよ、洋助まで……)



[永瀬 里沙]

 『それでは皆さんお待ちかね……王子の登場です!!』






 キャーーー!!!






[不尾丸 論]

 「うるさ……」




 非常に低クオリティ、と言うか安物のコスプレ衣装を身にまとった美男子達が舞台に上がってくる。




[モブA]

 「あーなるほど、小人の代わりに、王子を7人にしたって事か……」



[モブB]

 「ちょっと面白いじゃん」




 体育館内はよく盛り上がり、もはやアイドルのライブ会場。



 そしてなんだかんだあって……。




[永瀬 里沙]

 『大変!姫が倒れてしまいました!姫を眠りから救う事が出来るのは、愛のキス……そう、つまりでのキス!!!』



[不尾丸&原地]

 「「は?」」




 !?




[嫉束 界魔]

 「きた……!」



[笹妬 吉鬼]

 「お、俺パス……うわぁあ」



[嫉束 界魔]

 「頑張ろう!!」




 嫉束と笹妬が、顔を近づけ合う。




[刹那 五木]

 「凄げぇ!ほんとにキスしてるように見える!狂沢君!あ、間違えた。エビト王子!おれ達も!」



[狂沢 蛯斗]

 「っ!何言ってんですか貴方」




 狂沢は顔を近付けてくる刹那を拒む。




[木之本 夏樹]

 「……クソっ!ヒデアキ!気合い入れろ!」



[文島 秋]

 「おう!」




 次々と王子達がでお互い顔を見合わせ、"キス"をする真似をする。






 ギャーーー!!!






 観客は喜ぶ者も居れば、目の前の光景に目も当てられない者も居る。




[二階堂先生]

 「がーははははっ!!!」




 こうやって馬鹿笑いをする者も居る。




[原地 洋助]

 「エ"ッ……」



[不尾丸 論]

 「もっとキモいのきたわ」



[朝蔵 大空]

 『皆んな!ありがとう!皆んなのおかげで、目覚める事が出来たわ〜!皆んな、愛してる〜!!』



[卯月 神]

 『姫、私は姫以外の人とキスを交わすのはどうしても出来ませんでした。だけど信じてほしい、私の貴女に対する愛は本物です。だから、私と結婚して下さい』




 卯月の棒読みが舞台に響く。




[朝蔵 大空]

 『わ、私も!貴方の事を1番に愛しているわ!私は、貴女の愛を信じる!』




 音楽も流れ、感動のクライマックス。




[不尾丸 論]

 「……2年生って馬鹿だな」




 と、言葉をこぼす不尾丸だった。






 つづく……。

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