第7話「ジンガイーズ!」後編
刹那と千夜、ふたりの間には凍った空気が漂う。
[朝蔵 千夜]
「いーつーきーくん」
刹那に近付いて行く千夜。
[刹那 五木]
「は、はい?」
聞き慣れない声で誰かに名前を呼ばれて、とりあえず後ろを振り返ってみる刹那。
すると、刹那の視界にはやはり見知らぬ女装男子がひとり立っている。
[刹那 五木]
(誰だ……?)
刹那はそれを見て少し考える。
[朝蔵 千夜]
「久し振りだねぇ」
千夜は困惑する刹那にニタニタ笑顔を見せる。
しかし、刹那の記憶に残る千夜の姿は男の格好をしているので、刹那はまだ気付かない。
[刹那 五木]
「あ……あぁ、はい」
刹那は笑顔を作って目の前の相手の調子に合わせる。
その時……。
[朝蔵 大空]
「あ!お兄ちゃーん!!」
自分の兄を見つけた大空がこちらに駆けて来る。
[刹那 五木]
「……え」
[朝蔵 大空]
「来てたんなら言ってよーもう……あれ?」
[刹那 五木]
「……」
[刹那 五木]
(まさか、まさかまさかまさか)
何かを察して珍しく焦りだす刹那。
[朝蔵 大空]
「あっ!五木君、公演は13時ね。間違えないように」
[朝蔵 千夜]
「は?」
刹那と普通に話しだす大空に、千夜は眉間に
[刹那 五木]
「千夜さん、戻って来てたんですね……」
刹那は恐る恐る、そう口を開く。
[朝蔵 大空]
「あれ?」
ここで大空もこの空気に気が付く。
[朝蔵 大空]
「あっ」
あ!
ついにお兄ちゃんと五木君が対面してしまっている!
五木君の表情明らかに硬いし、気まずそう。
お兄ちゃんの顔を見るのが少し怖いんだけど……。
[朝蔵 千夜]
「てか。久し振りにいつきくんに会えてめちゃくちゃ嬉しいー!なにー?結構イイ男になってんじゃないのー?」
千夜は刹那の腕に飛び付く。
[刹那 五木]
「!?」
[朝蔵 大空]
「お兄ちゃん?」
なんだ、意外と大丈夫そう?
[朝蔵 千夜]
「いつきくん、今暇そ?」
[刹那 五木]
「あ、はい、えっと……」
[朝蔵 千夜]
「じゃあさ!じゃあさ!文化祭一緒に回ろ?君が隣に居れば変なのに絡まれる事も無さそうだし!」
お兄ちゃんが五木君の背中を押す。
[刹那 五木]
「え、ちょ」
[朝蔵 千夜]
「ほら行こーー!!」
お兄ちゃんは五木君を無理やり連れて向こうの廊下の方に消えて行ってしまった。
[朝蔵 大空]
「あれれ?」
あんなに仲良かったっけ、あのふたり。
……。
校外の
[朝蔵 千夜]
「おかしいだろっっ!!!」
パンッ。
[刹那 五木]
「痛っ」
千夜にペットボトルを顔に投げ付けられる刹那。
[朝蔵 千夜]
「どうなってる?」
千夜は怒ったような口調で刹那にそう問い掛ける。
[刹那 五木]
「え?どうなってるって……」
すっかり怯んでしまって、得意の口が回らない刹那。
[朝蔵 千夜]
「はー?だからさ俺、大空には近付くなって言ったよね!?なんだよあのメールも!!ふざけてるのかキミ!?」
周りに人が居ない事を良い事に、千夜は刹那に怒鳴り散らかす。
[刹那 五木]
「え……?あ、あぁ……そ、それは大空が」
[朝蔵 千夜]
「あ?」
千夜は更に刹那に圧を掛ける。
[刹那 五木]
「……っ、大空からおれに話し掛けて来たんです、ほんとに」
刹那は歯を食いしばりながらそう答えた。
[朝蔵 千夜]
「嘘つくなよ」
千夜は刹那の言った事を信じていない。
[刹那 五木]
「ほんとです!」
刹那は必死な目で千夜に訴えていく。
[朝蔵 千夜]
「それは……何、いつどこで?どう言う時?どーっしてもな用事があったから話し掛けただけじゃないの。勘違いしない方が良いよ、ねぇ?」
容赦なく言葉で畳み掛けていく千夜。
[刹那 五木]
「……放課後。あいつが『久し振り〜』みたいな感じで……あはっ、あはは……」
この状況に、情けなく愛想笑いをするしかない刹那。
[朝蔵 千夜]
「ふーん、そっかそっか」
それにニコニコと千夜は笑い返す。
[刹那 五木]
「あの、お兄さん?」
[朝蔵 千夜]
「君にお兄さんって言われたくないんだけど……あー無理無理。ほんとにお前、何してくれてんの?」
千夜は呆れたような表情で刹那の事を見る。
[刹那 五木]
「おれは別に……」
[朝蔵 千夜]
「……?とりあえずもう喋らないで、近付かないで?」
千夜は冷たくそう言い捨てる。
[刹那 五木]
(まさか帰って来てたなんて、せっかくやり直せそうなのに……!)
[刹那 五木]
「……っ!それは!おれは……おれは、反省してます。千夜さんが心配しているような事は、もうしません!」
[朝蔵 千夜]
「はぁー?」
次の瞬間、千夜は足に勢いを付けて蹴るような素振りを見せる。
[刹那 五木]
「……!?」
バゴンッ……!!
刹那はそれに驚いて後ろに倒れてしまう。
[朝蔵 千夜]
「大空が許しても、俺は許さないから」
倒れ込んだ刹那の腹部を、千夜は足でグリグリと踏む。
[刹那 五木]
「いっ……」
腹に押し込まれる痛みに刹那は反抗する事無くただ耐える。
[朝蔵 千夜]
「善悪の判断がつかないクソガキは、こうやって教育しないとすぐに調子に乗るからなー?」
[刹那 五木]
「……ごめんなさいっ、ごめんなさい」
その時……。
[アリリオ]
「ちょっとちょっと」
[刹那&千夜]
「「!!?」」
この少年、アリリオがいつの間にかふたりの横に座っていた。
[アリリオ]
「お兄さーん、あんまり"被検体"をいじめないでくれませんか?死なれたら困るので……はい」
アリリオは千夜の方に話し掛けている。
[朝蔵 千夜]
「は?」
千夜は名前も知らない相手に威嚇をする。
[アリリオ]
「……『記憶消去』それから『ワープ』」
次の瞬間、その場にアリリオだけが取り残される。
[朝蔵 千夜]
「あれ?」
いつの間にか、街中に佇んでいた千夜。
[朝蔵 千夜]
「俺何して……」
[千夜の友達]
「お!アサノちゃんじゃーん!何してんのー?暇なら遊び行こーよ〜!」
[朝蔵 千夜]
「……んーまぁいっか!遊ぼ〜」
そして刹那はと言うと……。
[刹那 五木]
「いてっ!痛たた……」
自分の腹を抑える刹那。
[狂沢 蛯斗]
「ちょっと」
その時、刹那の真後ろの方で声が聞こえてくる。
[刹那 五木]
「え?」
[狂沢 蛯斗]
「重いんですけど」
刹那が飛ばされた場所は、椅子に座っていた狂沢の膝の上だった。
[巣桜 司]
「狂沢くーん、ジュース飲みますかー……?えっ!?刹那君!?い、いつ来たんですかー?」
隣に来た巣桜も驚いている。
[刹那 五木]
「あ、あれれ〜?」
その場で固まってしまう刹那。
[狂沢 蛯斗]
「重いって言ってるじゃないですか!」
……。
私と里沙ちゃんは、多目的ホールの前を通った。
[永瀬 里沙]
「あ!大空ここ」
突然里沙ちゃんがどこかに指を差す。
[朝蔵 大空]
「ん?」
[永瀬 里沙]
「お化け屋敷じゃない?」
私が大嫌いな物。
[朝蔵 大空]
「えっ……」
まさか里沙ちゃん、入るつもり?
私は無理、絶対無理。
[永瀬 里沙]
「ワクワク!☆」
入る気マンマンだーー!!
[朝蔵 大空]
「わ、私ここで待ってるね?」
入るものか。
[永瀬 里沙]
「あははー!あんた昔から怖いの大苦手だもんねー、じゃあソロプレイで行って来まーす!」
[朝蔵 大空]
「ホッ……」
良かった……入らずに済みそ。
[永瀬 里沙]
「なーんて言うと思った?」
[朝蔵 大空]
「えっ」
里沙ちゃんは私の手を引き、お化け屋敷の中へと引きずり込む。
[朝蔵 大空]
「あ、ちょ、里沙ちゃん!」
ほんとに、本当に嫌なのに!
[永瀬 里沙]
「さーなんでも掛かって来なさい」
[朝蔵 大空]
「里沙ちゃん、やばい、やばいよ」
うわぁ暗すぎ、里沙ちゃんの顔とかなんにも見えないし。
はぐれないようにピッタリ着いて行かなきゃ終わる!
……。
[永瀬 里沙]
「あれ?大空?」
ふと里沙が後ろを振り返り、大空の名前を呼んでみる。
[永瀬 里沙]
「……あらやだ、別の道に行っちゃったのかしら」
……。
[朝蔵 大空]
「まさか……」
私、普通に里沙ちゃんとはぐれてる?
気を付けてたつもりが……。
終わった。
[朝蔵 大空]
「え、え……」
そうだ、後ろ、後ろに戻ろう!
入口に戻ってリタイヤだ。
私は引き返そうと、振り返る。
[お化けA]
「ばぁ」
[朝蔵 大空]
「ひっぎ……」
振り向いた瞬間、お化けが私を驚かしてくる。
[朝蔵 大空]
「キャー!」
私は再び前を向き直し、全力疾走でお化けから逃げた。
[お化けB]
「生きてる人が居るなぁ」
[お化けC]
「どこだ」
[お化けD]
「こっちこっち」
[朝蔵 大空]
「ひぃ……」
私はどこかに腰を下ろして、ただその場で震えていた。
[朝蔵 大空]
「私、私……私ここで死ぬんだ」
その時、誰かが私の肩に触れた。
[朝蔵 大空]
「きゃっ!!」
死ぬんだ!!
[???]
「貴様、動けないのか?」
[朝蔵 大空]
「えぇ?」
何?男の人??
誰だろう……しかも『貴様』って言われた?
なんなの……って……!
その時、私の手の平に温かい物が絡まって来た。
私、手!手を握られてる!?
[???]
「我が貴様を救ってやろう」
やっぱり『貴様』って言ってる……。
な、なんなのこの変な喋り方。
[朝蔵 大空]
「あ、あの?」
私は手を引かれるまま、歩いて行く。
[朝蔵 大空]
「……」
変な人、でも助けてくれてる?
このままこの人に着いて行けば、外に出られるかも。
[朝蔵 大空]
「きゃっ……」
途中、私は足がもつれて倒れてしまいそうになる。
足元がよく見えないから。
[???]
「……っと」
だが、この男の人が支えてくれたおかげで私は倒れずに済んだ。
[朝蔵 大空]
「あ、ありがとうございます?」
[???]
「フッ……礼など要らない、我は貴様が転ぶ事を予知していた」
[朝蔵 大空]
「はい?」
調子狂っちゃうな……。
て言うかこの人本当に誰?
暗くて顔が見えないし……。
私の知ってる人じゃないよね?
[???]
「もうすぐ終焉だ……」
[朝蔵 大空]
「……?」
いずれ、私達は明るい所に出た。
[朝蔵 大空]
「はぁ……」
どうなるかと思ったけど、終わって良かった……。
[朝蔵 大空]
「あっ」
改めてお礼言わなきゃ!
そう思い、私は隣に居る人の顔を見ようと見上げてみる。
そこには……。
[???]
「……」
[朝蔵 大空]
「えっ?」
『暗い紺色のサラサラした髪に、赤紫色の切れ長の目の』男子がこちらを見ていた。
か、カッコ良い……。
[???]
「……」
その男子は、何も言わずお化け屋敷の中へと戻って行った。
[朝蔵 大空]
「あっ」
しまった、見とれていたみたい。
お礼、言えなかった……。
私は少しだけ後悔する事になった。
[永瀬 里沙]
「ぷはぁ!あーあ大した事無かった無かった……あれ?大空、先に出てたのね。やるじゃない、あっもしかしてぇ……リタイヤしたー?」
誰だったんだろう……。
[朝蔵 大空]
「あ、ううん」
[永瀬 里沙]
「……?そろそろお腹空いたし、
[朝蔵 大空]
「……あー」
気になる、さっきの人の事がちょっと。
……。
キーン……キーン……。
[永瀬 里沙]
「なんか変な音しない?」
音がした方を見ると、車椅子の人がこちらに向かって来ていた。
[朝蔵 大空]
「あっ!
[永瀬 里沙]
「あ、ああ……」
私の掛け声に里沙ちゃんは私の方に体を寄せてくる。
[朝蔵 大空]
「あれ?」
男子の制服……1年の青いネクタイ、この子……あれ?
[不尾丸 論]
「……」
[朝蔵 大空]
「あっ!」
あの日の、施設の……。
[不尾丸 論]
「……?」
[朝蔵 大空]
「不尾丸、君?」
「ジンガイーズ!」おわり……。
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