第6話「夏本番」前編

 本日も夏が始まり暑い暑い朝。



 そう言えば、文化祭が終わったら夏休みだー。



 卯月くんと、プールとか……?



 キャー!♡///



 なんか恥ずかしいなぁ〜。




[朝蔵 大空]

 「暑い……食欲無ーい」




 体力の無い私は夏バテでこの通りすっかり食欲を無くしている。




[朝蔵 葵]

 「ちゃんと食べなさーい大空。食べなきゃ体動かないんだから」




 それはそうだけど……。



 それにこんなに暑くても学校に行かなきゃいけないんだよねー……。




[加藤 右宏]

 「ばくばくばくっ!!」




 真正面のミギヒロは物凄いスピードで茶碗のご飯を口にかき込んでいる。



 今日も今日とて行儀が悪いなぁ……。




[朝蔵 葵]

 「ほらミギヒロちゃんを見習ってー」




 こんな乞食こじき悪魔と人間の私を張り合わせないでほしい。




[朝蔵 葵]

 「はい頑張って、ご飯もう一杯!」




 そう言って私の茶碗に白飯を足して渡してくるお母さん。




[朝蔵 大空]

 「いやもう要らないんだってば……」




 でも仕方無い、一度よそってしまわれた物は食べるしかない。



 私は気合いで食べようと茶碗を手に取った。




[朝蔵 千夜]

 「おっはよー♪」




 その時、リビングのドアが開けられてお兄ちゃんが中に入って来た。




[朝蔵 大空]

 「あれお兄ちゃん?今日は早いんだね」




 今は私も学校へ行く前の時間。



 この時間ならお兄ちゃんは大体いつもまだ寝ているはず。




[朝蔵 千夜]

 「って言うか、朝帰り♡」




 また飲みかな?



 それでこの元気さは凄い、私も見習った方が良いかな?




[朝蔵 葵]

 「あら千ちゃん、ご飯食べるの?」



[朝蔵 千夜]

 「うん!頂こうかな♪」




 そしてお兄ちゃんもテーブルに加わって、私達は一緒に朝ご飯を食べ始める。




[朝蔵 千夜]

 「ねーねー、もうすぐ土屋の文化祭だよね?君達クラスで何やるの?」




 ご飯を食べる途中でお兄ちゃんが私達に文化祭の事について話し掛けてくる。



 そう言えばお兄ちゃんも土屋うちの卒業生だったね。




[朝蔵 真昼]

 「普通に屋台」




 真昼は答えるのが面倒臭いようで、お兄ちゃんの顔を見ずにそれだけ答える。




[朝蔵 大空]

 「私の所はクラスでって言うか……何故か合同っぽくなってるんだよね」



[朝蔵 千夜]

 「合同?」



[朝蔵 大空]

 「うん、劇をやるんだけどね。演目は白雪姫」




 って言っても、もはや普通の白雪姫じゃないんだけど……。



 ほんとにあのストーリーで大丈夫かな?




[朝蔵 千夜]

 「へー!面白そうじゃん、お兄ちゃんも遊びに行って良いよね?劇見たいし!」



[朝蔵 大空]

 「うん!見に来てほしい!」




 文化祭当日は人がたくさん来てくれると良いなー。



 その分緊張する事になりそうだけど、全然人が来ないとかよりはマシ。




[朝蔵 千夜]

 「真昼ちゃんも良いよねー?」




 続けて真昼の方にも許可を取ろうとするお兄ちゃん。




[朝蔵 真昼]

 「どうぞ」




 真昼はやっぱり里沙ちゃん以外には冷めてるよね。



 あ、でも学校には一応五木君も居るんだよね。



 お兄ちゃんと会わせたらまた喧嘩しだしそうだな。



 ふたり、昔から仲悪そうだったし、そこだけ気を付けなきゃ。



 ……。



 午前の文化祭の準備の授業での事。




[2組男子A]

 「うわマジで居るじゃん嫉束」



[2組男子B]

 「こりゃ俺らもう目立てねぇな」



[2組男子C]

 「横に居るのは笹妬……?」




 舞台の上で胡座あぐらをかいてざわつく男子達。




[笹妬 吉鬼]

 「緊張してる?」



[嫉束 界魔]

 「うん、ちょっと」




 2組のメンバーの中に混ざる嫉束と笹妬。




[朝蔵 大空]

 「あれっ!?」




 体育館の端に、嫉束君と笹妬君が居る事に気付いた私。



 なんで笹妬君がこんな所に居るの!?




[朝蔵 大空]

 「笹妬君じゃん!」




 私は笹妬君の名前を呼んで、笹妬君の元まで駆け寄る。




[笹妬 吉鬼]

 「ん、まあ一応……」




 そう気まずそうに答える笹妬君。



 もしかして笹妬君も王子役に……!?




[朝蔵 大空]

 「えっ!笹妬君も入ってくれるの?」



[笹妬 吉鬼]

 「違っ、俺はこいつの付き添いで……」




 ここで笹妬が言う"こいつ"とは、嫉束の事である。




[卯月 神]

 「…………」




 少し離れた所から大空と笹妬の事を見ている卯月。




[朝蔵 大空]

 「えっ!えっ!入ってよ、笹妬君カッコ良いし、絶対似合うと思う!絶対!絶対!」




 私は興奮してガチ勧誘をしてしまう。



 まるで街の怪しいお店のキャッチみたいに。




[笹妬 吉鬼]

 「えぇ……」




 笹妬君も困惑している。




[卯月 神]

 「…………」



[永瀬 里沙]

 (ちょっとちょっと大空ー、彼氏の前でそう言う振る舞いは良くないんじゃないかしらー?貴女の彼氏は卯月君なのよー?)




 そして里沙も少し離れた所で大空達の様子を伺う。




[笹妬 吉鬼]

 「お、お前がそこまで言うなら、まあやってやらなくもない」




 意外と簡単に押されてしまう笹妬。




[朝蔵 大空]

 「ほんと!?」




 やった!笹妬君みたいなイケメンが入ってくれたら文化祭が更に盛り上がる!




[嫉束 界魔]

 「……吉鬼も押しに弱いね」



[笹妬 吉鬼]

 「な、なんだよ」



[嫉束 界魔]

 「ま、好きな子の頼みは断れない。それは僕も共感するよ。でも、負けないから」



[笹妬 吉鬼]

 「はい?」




 なんの事か理解出来てない笹妬。




[朝蔵 大空]

 「里沙ちゃんやったよー!笹妬君も入ってくれるってー!!」




 笹妬君が入ってくれる事になって私は喜びながら里沙ちゃんの元まで走って抱き着く。




[永瀬 里沙]

 「えっ、マジで?」




 喜びまくる大空に対して、ビビるような反応をする里沙。




[朝蔵 大空]

 「これでイケメン揃ったね!文島君、本番も入ってくれるんだよね?」



[文島 秋]

 「あ、うん。数合わせでね」




 この通り、文島君も練習の時数合わせとして入ってくれていた。




[木之本 夏樹]

 「い、いつの間にこんな増えたんだよ」



[永瀬 里沙]

 「知らん!よーし皆んなそろそろ打ち合わせするよー」




 体育館で集まって劇の練習を始めようとした時だった。






 ガチャン。






 体育館の扉が開かれた音がした。




[刹那 五木]

 「すまん遅れた、まだ間に合う?」



[永瀬 里沙]

 「……!?」




 あれ、五木君だ。




[永瀬 里沙]

 「え、ちょ、なんの用?」



[刹那 五木]

 「……?おれもやるんだけど、王子」



[嫉束 界魔]

 「うわ」



[笹妬 吉鬼]

 「出た」




 嫉束も笹妬も里沙も、刹那の突然の登場に引いてしまう。



 

[刹那 五木]

 「お前言っとけって言ったじゃん」



[朝蔵 大空]

 「あ、ごめん忘れてた」




 そう言えば!




[永瀬 里沙]

 「え、嫌なんだけど私」



[朝蔵 大空]

 「なんで?」




 私には里沙ちゃんが五木君を嫌がる理由が分からなかった。




[永瀬 里沙]

 「なんでって、それはあんたもよく……」



[刹那 五木]

 「里沙」




 その時、五木君が里沙ちゃんの肩に手を置いた。




[永瀬 里沙]

 「ひっ、何?」



[刹那 五木]

 「ちょっと外来てくれるかな?」



[永瀬 里沙]

 「……」




 あ、里沙ちゃん大人しく五木君に着いて行っちゃった。



 そして取り残される私達。



 ……。




[永瀬 里沙]

 「で、何?」



[刹那 五木]

 「気付いてる?あいつが記憶喪失になってんの」




 いきなり本題を出してくる刹那。




[永瀬 里沙]

 「!!……大空が?」




 刹那の言葉に驚く里沙。




[刹那 五木]

 「そ、原因は分からないけど。中学の時の記憶がちょこっと消えてるっぽい」



[永瀬 里沙]

 「まさかあの子、忘れてるの?」



[刹那 五木]

 「うん」



[永瀬 里沙]

 「あんたが大空を事!?」



[刹那 五木]

 「うん。だから、おれは別の中学に行ってた事にしちゃった。あいつ今元気にしてんでしょ?だったら……」



[永瀬 里沙]

 「最低っ!あんたがいじめをやってた事実は変わらないし、大空にも今からでも本当の事言いつけてやるから、もう帰って!」




 里沙は刹那に怒鳴る。




[刹那 五木]

 「大空におれの事言うの?忘れてるなら忘れたままにさせた方が良くない?また学校行けなくなるかもよ?」



[永瀬 里沙]

 「えっ……」




 私はそこで、言葉に詰まってしまう……。




[刹那 五木]

 「おれもあの時の事は後悔してるし、今の大空が気にしてないのも事実でしょ?それをわざわざ言うのも違うと思うよ」




 私はこいつが昔から怖くて仕方が無い。




[刹那 五木]

 「そうだね、感謝するよ。大空の傍に居てくれてありがとう。1年の頃はもう少し元気が無さそうに見えたんだけどな、お前ひとりでここまで回復出来たのは正直凄いと思うし」



[永瀬 里沙]

 「……」




 ダメだ、こいつの前だと言葉が上手く出て来ない。




[刹那 五木]

 「……ほんとはね、もう二度とあいつの前には現れないって決めてたんだよ?でもあいつから話し掛けて来たんだから仕方無いよね?」




 こんなの嘘だ。



 でも何故だか逆らえなかった。




[刹那 五木]

 「それにおれみたいなのが一番、良い塩梅あんばいでしょ?人望もルックスも申し分無いっ!」




 頷くしかなかった。



 ……。




[刹那 五木]

 「と言う訳でおれも参戦する事になったんで、よろしくお願いしまーす」



[嫉束 界魔]

 「このメンバーで戦うんだね!負けないよー!王子役を勝ち取るのは僕だよ!」




 その瞳に炎を燃やして奮起する嫉束。




[狂沢 蛯斗]

 「何言ってるんですか?」



[嫉束 界魔]

 「え、僕なんか変な事言った?」



[巣桜 司]

 「あ、あれ?王子って7人必要でしたよね?」



[刹那 五木]

 「ふーん、そう言う事か」




 この会話の意味を一瞬で察してしまう刹那。




[木之本 夏樹]

 「つぅか……」




 その時木之本が何かに気付く。




[男性陣]

 「「「……?」」」



[木之本 夏樹]

 「なんか人数多くね?」



[文島 秋]

 「6、7、8……あ、ほんとだそこの彼で8人になったから」




 ここで文島が言う"そこの彼"とは、刹那の事である。




[刹那 五木]

 「……君は固定なんでしょ?」




 刹那は先程からだんまりの卯月に言葉を投げ掛ける。




[卯月 神]

 「ん、まあ……」




 気まずそうに刹那から目を逸らす卯月。




[嫉束 界魔]

 「…………よーし分かった、エビ君を外そう」




 "エビ君"、つまり狂沢蛯斗を蹴落とそうとする嫉束。




[狂沢 蛯斗]

 「ボク!?」



[刹那 五木]

 「よし、狂沢君を外そうっ!」




 それに乗っかっていく刹那。




[巣桜 司]

 「あっ!あっ!それはダメです!ぼく狂沢君が居ないとー……」



[狂沢 蛯斗]

 「なっ!?」



[刹那 五木]

 「へぇ、ふたりってそう言う関係なんだ?ヒューヒュー!じゃあふたりまとめて退って事で」




 巣桜と狂沢に向かって冷やかす刹那。




[巣桜 司]

 「えっ!」



[文島 秋]

 「あ、大丈夫僕が抜けるからさ……」



[狂沢 蛯斗]

 「ボクに恥をかかせないで下さい巣桜君!」




 狂沢が巣桜にまた怒鳴る。




[巣桜 司]

 「ご、ごめんなさーい!」



[嫉束 界魔]

 「ちょ、ちょ、ちょっと待って!王子役ってひとりじゃないの?7人もいるの!?僕聞いてないよー!」




 ようやく状況が分かってきた嫉束。




[笹妬 吉鬼]

 「あほくさ」



[木之本 夏樹]

 「おかしいよな!」



[文島 秋]

 「お前の案じゃなかったっけ?」



[木之本 夏樹]

 「俺は"7"も要るなんて言ってない!あの女が言ったんだ!」




 そう言って木之本は里沙の方を指さす。




[永瀬 里沙]

 「何よ!あとあんた達うるさいから少し静かにして!」



[朝蔵 大空]

 「あははは……」



[文島 秋]

 「てか、別に僕が抜ければ良い話じゃないの?元々数合わせなんだし……」



[刹那 五木]

 「よし!皆んな!ここはジャンケンで決めよう!」



[狂沢 蛯斗]

 「良いでしょう」



[文島 秋]

 「聞いてる?」




 何故か終始無視されてしまう文島。




[刹那 五木]

 「ほら、君も」




 刹那がジャンケンのに混ざっていない卯月を引き寄せる。




[卯月 神]

 「え?はい」



[刹那 五木]

 「せーのっ!」




 そして刹那の掛け声と共に……。




[文島 秋]

 「あ、聞いてないね」



[永瀬 里沙]

 「もう、男子って。ほんと馬鹿……」






 つづく……。

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