第9話「レイニーブルー」後編

[朝蔵 大空]

 「ただいまー!」




 そう私は家に入って元気に叫んだ。




[朝蔵 真昼]

 「……」




 そしてすぐ、玄関で寝転んでいる?真昼を私は見つけた。




[朝蔵 大空]

 「……?真昼?」




 私は真昼の名前を呼んでみる、でも真昼からの返事が返って来ない。




[朝蔵 大空]

 「真昼?寝てるの?」




 私は横になった真昼の顔を、しゃがんで覗き込んでみる。



 その真昼の頬が赤くなっていて、ひたいには汗をかいていた。



 息も荒くて、とても苦しんでいる様に見えた。




[朝蔵 大空]

 「大変……」




 私は真昼のおでこにそっと手をやる、すると案の定とても熱かった。




[朝蔵 大空]

 「凄い熱……」




 家には……お母さんは?居ない、気配が無いし、靴が無い、きっとどこかに出かけているんだ。



 真昼を、出来れば病院に連れて行ってあげたい。



 今真昼が頼れるのは姉である私だけ……。



 私だけ?




[朝蔵 大空]

 「そうだ、お父さん!お父さん……」




 私はお父さんに連絡しようとケータイをポケットから取り出す。



 だが、その時点で私の指が止まってしまう。




[朝蔵 大空]

 「……」




 出る訳ない。




[朝蔵 大空]

 「いや、お兄ちゃん、お兄ちゃんにしよう……」




 私はケータイでお兄ちゃんの方に電話を掛けた。




[朝蔵 大空]

 「ダメだ、出ない……もう」




 弟が大変だって言うのに何してるのよっ!!



 大事な物、家族って言ったくせに……。



 もう私が無理してかついで病院まで行くしかない、そう思った時だった。




[朝蔵 大空]

 「あ……メール来てた」




 私はメール欄を見て五木君からメールの返信が届いてた事に気付いた。



 そして何を思ったのか、他人である五木君に電話を掛けてしまっていた。



 ……。






 プルルルっ!プルルルっ!






 部活の筋トレ中、刹那のケータイが鳴り出した。




[部員A]

 「おーい!五木ー!ケータイ鳴ってるぞー!彼女かぁ〜?」



[部員B]

 「リア充めー」




 部員が刹那にケータイが鳴っている事を知らせる。




[刹那 五木]

 「ん?彼女いないけど……」




 刹那が鳴っているケータイのそばまで行き、画面を見て目を見開いた。




[刹那 五木]

 (大空……?)




 刹那は大空の名前を見て少し固まったものの、大空からの電話にすぐに応じる。




[刹那 五木]

 「どうした……?」



[朝蔵 大空]

 『五木君!真昼が熱!凄い熱なの……!』




 電話の先の大空は激しく取り乱していた。




[刹那 五木]

 「真昼君!?何?落ち着いて……」



[朝蔵 大空]

 『どうしよう……!真昼、死んじゃうよっ……!』




 刹那が冷静に話を聞こうとしても全く落ち着く様子が無い大空。




[刹那 五木]

 「あー……待ってて、すぐそっち行くから、待ってろよ?」



[朝蔵 大空]

 「うん……」






 ピッ。






 電話は刹那から切られた。




[刹那 五木]

 「ちょっとおれ抜けるわ」




 急いで制服に着替えようとする刹那。




[部員A]

 「あー?何?」



[刹那 五木]

 「……彼女だよっ」




 そう冗談を言って笑う刹那だった。



 ……。




[朝蔵 大空]

 「どうしよ……」




 五木君、すぐ来てくれるって言ってたけど……。



 私の家、覚えてるのかな?






 ピーンポーン♪






 私が五木君を待っていると、玄関のインターホンが鳴った。




[朝蔵 大空]

 「五木君!」




 私はすぐに立ち上がって玄関を開けた。




[刹那 五木]

 「はぁ……はぁ」




 そこには、五木君が激しく息切れをしながら立っていた、雨の中走って来てくれたんだなと思って私は嬉しい気持ちになる。



 やっぱり、すぐに助けに来てくれる。



 五木君に頼って良かった……。




[刹那 五木]

 「真昼君は?」



[朝蔵 大空]

 「あ、そうなの!真昼が、熱出しちゃって!倒れてて……大変で。私どうしたら良いか分かんなくて!病院とか連れてかなきゃダメだし……」




 私は五木君に説明をしようとして、訳も分からずその場をウロウロする。




[刹那 五木]

 「……大空」



[朝蔵 大空]

 「え?」




 五木君が玄関で靴を脱いだかと思うと、私の左腕を掴んできた。



 それで私の足は止まる。




[刹那 五木]

 「落ち着いて?」



[朝蔵 大空]

 「……う、うん」




 五木君は真昼の様子を少し観察した後、真昼を抱きかかえて階段をのぼって行く。



 私はそれを追いかける。




[朝蔵 大空]

 「びょ、病院は……?」




 病院でちゃんとてもらわないと。



 私がそう尋ねると……。




[刹那 五木]

 「ふっ、大袈裟。落ち着けよ、マジで」



[朝蔵 大空]

 「え……」




 私、大袈裟なの……?



 真昼は五木君の手によってベッドに寝かされた。




[朝蔵 大空]

 「真昼っ……」




 私は真昼のそばに駆け寄る。




[刹那 五木]

 「しっ」




 そうすると五木君は私に『静かに』とでも言うような仕草をした。




[刹那 五木]

 「あのね、真昼君ただの風邪だから。寝かせておけば治るやつだから」



[朝蔵 大空]

 「えっと……」




 私はあまりの五木君の冷静さにうろたえてしまう。




[刹那 五木]

 「風邪薬は?無いの?あるなら持って来て。あと水もね」



[朝蔵 大空]

 「あ、うん……!」




 私は急いでリビングにある救急箱から風邪薬を取って来る。




[朝蔵 大空]

 「真昼?」



[朝蔵 真昼]

 「お、お姉ちゃん……?」




 私が呼ぶと真昼は目を開けて私を見た。



 私は真昼に薬を飲んでもらうように頑張る。



 真昼が薬の粒を口に入れたら次はコップの水をゆっくり飲ませる。




[朝蔵 真昼]

 「ん、ゴクッ……はぁ」




 真昼は薬を飲むと、目を閉じて眠った。




[刹那 五木]

 「はい、ちょっと出て」



[朝蔵 大空]

 「……?」




 私は真昼の部屋から五木君に追い出されて廊下に出る。



 すると五木君も部屋から出て来て真昼の部屋の扉を閉める。




[朝蔵 大空]

 「えっと……」



[刹那 五木]

 「お前さ、もうちょっと冷静になれよ。電話の時もデカい声だったし。部活抜けて急いで来たのにコレかよ」




 そっか、五木君サッカー部の練習があったのに、それでも駆けつけて来てくれたんだ。




[朝蔵 大空]

 「ご、ごめんなさい、真昼が死んじゃったらどうしよって……私、どうしたら良いか分かんなくなっちゃって……」




 私は申し訳ない気持ちがいっぱいになって目から涙がこぼれる。




[刹那 五木]

 「……ごめん。まあ、お前は昔からブラコンだよな。そう考えるとしょうがないかっ」




 五木君の表情は怒った顔からニヤニヤに変わった。




[朝蔵 大空]

 「えっ……」




 わ、私がブラコンだってバレてる!?



 なんで!?隠してるのに!!




[刹那 五木]

 「あーあ、おれキャプテンなのに。めっちゃ怒られるんだけど、どうしてくれるの?」




 そう言って五木君は私に目線を合わして意地悪そうに聞いてくる。




[朝蔵 大空]

 「ご、ごめんなさい!」




 私は勢い良く頭を下げた。






 ゴツンっ!






[刹那 五木]

 「いった……」



[朝蔵 大空]

 「いてっ!?」




 五木君と頭がぶつかってしまった!




[刹那 五木]

 「おい……」




 五木君は痛そうに自分の頭をさする。




[朝蔵 大空]

 「あ、あの……本当にごめんなさい!」



[刹那 五木]

 「い、良いっ。てか、また声大きいし。あと、そんな素直に謝られるとなんか、な」




 私は声が大きいと言われて、ハッとして自分の口を手で押さえた。




[刹那 五木]

 「はぁ、お前って奴は。相変わらず……」




 五木君は何か言いかけて黙った。




[朝蔵 大空]

 「何?」



[刹那 五木]

 「……いや、お間抜けさんだと思ってさ」




 五木君がクスクスと私の顔を見て笑ってくる。



 だが私は怒る気にはなれなくて、視線を五木君の胸下辺りまで下げる。




[刹那 五木]

 「……なんだよほんとに。あーあ、もう帰るわ」




 五木君は不機嫌になって帰ろうとする。



 私は呼び止める事はしなかった。




[刹那 五木]

 「じゃあな」






 バタン……。






 五木君はあっさり家から出て行った。



 ……。



 そして夕方から夜になる。




[朝蔵 葵]

 「もーなんでお母さんに電話しなかったのよー?」




 文句を言いながら夕飯の皿洗いをするお母さん。




[朝蔵 大空]

 「うん……普通はそうするべきだったよね」




 でもあの時の私はお母さんに電話するより、何故か先にお父さんやお兄ちゃんに電話をかけようとした。



 そのくらい判断力が弱っていた。




[朝蔵 大空]

 「良かった、熱下がってる……!」




 私は真昼に体温を測らせていた。



 すると、熱は大分だいぶ下がっていた。




[朝蔵 真昼]

 「はぁ、あっつ!」




 真昼は布団を蹴ってそして起き上がる。



 そしてパタパタと上着の首元の布を仰ぐ。




[朝蔵 大空]

 「ちょっと真昼、安静にっ……」




 まだ寝てた方が良いのに……。




[朝蔵 真昼]

 「ねぇ」



[朝蔵 大空]

 「ん?なぁに?」



[朝蔵 真昼]

 「散歩行かない?」



[朝蔵 大空]

 「え……」




 久し振りの姉弟で夜の散歩。



 春の夜は割と静か。



 最寄り駅までの道をふたりでゆっくりと歩いて行く。




[朝蔵 大空]

 「もう大丈夫なの?」



[朝蔵 真昼]

 「うーん、うん」




 真昼は私の問いにダルそうに答える。



 ほんとに大丈夫なのかしら……。




[朝蔵 大空]

 「やっぱりまだ寝てた方が良かったんじゃない?戻る?」



[朝蔵 真昼]

 「はっ、お姉ちゃんしつこい、大丈夫だって言ってるじゃん」




 真昼はそう言って微かに笑う。




[朝蔵 大空]

 「そう……」




 私、心配しすぎなのかな……?




[朝蔵 真昼]

 「これ言って良いのか分かんないけどさ。刹那五木、家に呼んでたよね?ははっ、まだ縁切ってなかったんだ?」



[朝蔵 大空]

 「あ、うん。気付いたら、電話しちゃってて」




 真昼を助けたくて、五木君に助けてもらいたくて。




[朝蔵 真昼]

 「ふーん。あいつの事、許したの?」




 許したって……。




[朝蔵 大空]

 「うん、まあね。私もいつまでも怒ってないよ」




 私に何も言わずに急に引っ越しちゃった事なんて。




[朝蔵 真昼]

 「へー、あんな事されたのに随分寛容かんようですねー」




 真昼はジト目で私の事を見てくる。




[朝蔵 大空]

 「う、うん?」




 されたって言われてもそんな特に酷い事されてないけど……。



 なんか皆、五木君の事ちょっと悪者にしすぎじゃない?



 そう言えば里沙ちゃんも。



 そりゃ私もあの時は泣きじゃくったけど……。



 あれ?




[朝蔵 真昼]

 「どーしたの?」




 私はあゆむ足を止めてしまった。



 それは私がここである矛盾に気付いてしまったから。




[朝蔵 大空]

 「……え?」




 なんで里沙ちゃんが五木君の事知ってるの?




[朝蔵 真昼]

 「お姉ちゃん?疲れた?」



[朝蔵 大空]

 「あ、ごめん。い、行くよ」



[朝蔵 真昼]

 「……?」




 私の記憶だと、里沙ちゃんは五木君と出会ってすらいないはず。



 中学だって、五木君は同じじゃない。



 でも私が里沙ちゃんと会ったのは中学から。



 五木君は引っ越して中学は別になったはず。



 おかしい。



 でも、五木君は確か、私の記憶が正しいって……。




[朝蔵 真昼]

 「……ねぇ、お姉ちゃんなんか変だよ?」




 その時だった。






 ガララ……。






 前から誰かが歩いて来るのが見えた。



 私と真昼は少し身構えた。



 向こうから歩いて来るのは、キャリーケースを引いてくる派手な……人。




[朝蔵 真昼]

 「……あれ?あれーもしかしてー……」






 「レイニーブルー」おわり……。

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