第8話「かくしごと」後編

 そして翌朝。



 朝のホームルームの時間にて。



 静まる教室からスタート。




[二階堂先生]

 「よし、今から席替えするぞ」






 うおぉーーーーーー!!!!!






 キメ顔をした二階堂先生の突然の席替え宣言に、クラスの人間がドッと湧いた。



 楽しみにしてワクワクと嬉しそうにしてる人と、仲良い人と離れるかもしれない事に残念がる人が半々。




[永瀬 里沙]

 「じゃあね〜」




 笑って手を振りながら私にそう告げる里沙ちゃん。



 嬉しそうに見える。




[朝蔵 大空]

 「酷いよっ!」




 もちろん里沙ちゃんのそう言うノリだって言うのは長い付き合いだから分かってるけど。



 ちょっと傷付くなぁ〜。




[二階堂先生]

 「俺の席替えはくじ引きだから〜、文句言うなよー」




 二階堂先生が自分の足下あしもとから大きめの箱を持ち上げて教卓の上に置いた。




[二階堂先生]

 「それじゃあ出席番号順に来い」




 教室の全員が出席番号1番の子が出てくるのを待っている。




[朝蔵 大空]

 「……」




 だけど誰も出て来る気配が無い。




[二階堂先生]

 「どうした1番」




 二階堂先生が私の事を見てくる。



 ──『朝蔵』の"あ"。



 あっ。




[朝蔵 大空]

 「私じゃん」




 察した私はすぐに席から立ち上がって二階堂先生が持っている箱の前まで歩いて出ていく。



 それから続けて出て来た2番と3番が私の後ろに着いた。




[二階堂先生]

 「はい、どうぞ」




 私は目の前の箱の穴に上から手を突っ込んでゴソゴソと中の様子をうかがうように掻き回す。



 箱の中でたくさんの紙のような感触が手に感じる。



 どーれにしよーぉかなっ?




[朝蔵 大空]

 「これで……」




 私はその中のひとつの紙切れを掴み取って引き上げる。



 するとオーソドックスな、二つ折りにされた白い小さな紙が出てきた。




[朝蔵 大空]

 「えーっと……」




 私はふんわり折ってあった紙を開いて見てみた。



 するとそこには、『1列目の最後』と手書きで書いてあった。




[朝蔵 大空]

 「おぉ……」




 つまり窓側の1番後ろの席と言う事ですね!?



 まさに主人公の座る席!!



 私の胸が高鳴る。




[永瀬 里沙]

 「やっほー、どこだった?」




 里沙ちゃんも紙を取ってきたようだ。



 あーん、でも里沙ちゃんと席が遠かったらやだなぁ……。



 友達とはなばなれになるのは寂しいし。




[朝蔵 大空]

 「ここー!」




 私は里沙ちゃんに自分が持っている紙を開いて見せる。



 里沙ちゃんはそれを覗き込んで注視した。




[永瀬 里沙]

 「おっ、じゃああんたの右斜め前が私って事になるねー」



[朝蔵 大空]

 「やったー、よかったぁ」




 やった!また里沙ちゃんと席が近くなった!!



 これはもう、私と里沙ちゃんは運命の赤い糸で繋がってるに違いないよね?




[卯月 神]

 「……」




 私はふと右横に意識が行く。



 卯月君とは結局あんまり喋らなかったけど、最後の挨拶ぐらいはしとこうかな?



 うーん……。



 やめとこっ!



 小心者しょうしんものの私は卯月君に声を掛ける事を辞めといた。




[二階堂先生]

 「よし、これで全部だな」




 先生の言葉にワラワラと机を動かしだす者ども。



 私は左斜め後ろに動かすだけだから移動が楽だ。



 席替えの苦手な所は今より遠い所に移動する時に別の誰かに道を塞がれやすい事、それもお互い様だけど。




[文島 秋]

 「またよろしくな」



[木之本 夏樹]

 「おう」




 文島君は廊下側の1番前の席。



 木之本君はその後ろ。




[巣桜 司]

 「こ、こんにちは……」



[朝蔵 大空]

 「おー司君、今度は逆に司君が私の前になるのね」



[巣桜 司]

 「あははっ、そうですね!」




 司君、にっこにこ!




[朝蔵 大空]

 「あっ」




 そう言えば私の隣は……。




[狂沢 蛯斗]

 「よいしょっと……」




 ゲッ……狂沢君。



 ちょっとやだなぁ。



 司君は嬉しそうだからこう思うのは悪いけど……。




[狂沢 蛯斗]

 「すみません!」




 皆が移動し終わったタイミングで手を挙げる狂沢君。




[二階堂 先生]

 「ん、狂沢か?どうした?」




 それに先生が気付いて応える。




[狂沢 蛯斗]

 「ボクは背が低いので、背の高い永瀬さんの後ろでは黒板がよく見えません!」



[永瀬 里沙]

 「わ、悪かったわね……」




 確かに里沙ちゃんは女の子の平均身長より大分だいぶ高いよね。




[二階堂 大空]

 「そうか……じゃあ卯月、替わってやれないか?」



[卯月 神]

 「はい」



[二階堂先生]

 「悪いな」




 2列目の1番前に座っていた卯月君。




[朝蔵 大空]

 「えっ」




 狂沢君と卯月君の位置が逆になるって事は、また私の隣が卯月君?




[狂沢 蛯斗]

 「助かりました」



[卯月 神]

 「いえ」




 なんだか2年生最初の席替えの結果は、代わり映えの無い景色になってしまった。



 これは、偶然なんだよね?



 ……。



 

[卯月 神]

 「朝蔵さん」




 今は午前の国語の授業の時間だ。




[朝蔵 大空]

 「ん?何?……えっ」




 何も言わずに自分の机を私の机にくっ付けてくる卯月君。




[朝蔵 大空]

 「な、何?」




 私は突然の卯月君の行動に動揺する。




[卯月 神]

 「教科書忘れたので、一緒に見ても良いですか?」




 そう言う卯月君の机には確かに国語の教科書が見当たらない。



 卯月君が何か物を忘れるなんて珍しいな。




[朝蔵 大空]

 「あ、なんだそんな事か。いいよ」




 と言って私と卯月君は同じひとつの教科書を共有する。



 ん?



 なんかこの感じ……覚えがある。






 ──『一緒に読もっ!』






 何……この記憶、私が絵本を持ってて……誰かがいて……。



 これ、誰なの……?




[朝蔵 大空]

 「あっ、鳥」




 窓の外を見たら鳥の大群が遠くに飛んで行くのが見えた。



 凄い数だなぁ……。



 良いなぁ、私も人生に1度は空を飛んでみたいな。



 私にも、翼があればな……。






 キーン♪コーン♪カーン♪コーン♪






[二階堂先生]

 「今日はここまで、腹減ったー……」




 と言って教室から出ていく二階堂先生。



 席を離れて個人行動をし始める生徒達。



 お昼休みの時間だ。




[朝蔵 大空]

 「ん?何これ」




 国語の授業で使ったノート閉じようとすると、隅に書いた覚えの無い文字が見えた。



 そこには、『早く思』と小さく書かれていた。



 "早く思"って何?



 しかも私の字じゃないし。




[朝蔵 大空]

 「消しちゃお」




 私は消しゴムを動かし、その字を消そうとする。




[朝蔵 大空]

 「あれ?」




 と思ったが字はなかなか消えない、多少薄くなったが消えはしなかった。



 どんだけゴシゴシしても、文字は完全には消えてはくれない。




[朝蔵 大空]

 「もーいいや」




 頑張ってもダメだったので私はその字を消すのに諦めた。



 そう言えばさっきの授業……。




[朝蔵 大空]

 「ねぇ?これ書いたの卯月君?」




 まさかと思って問い掛けようとして横を見ても、卯月君はいなかった。



 早く思って何?



 卯月君が書いたの?




[狂沢 蛯斗]

 「食べません」




 ん?




[巣桜 司]

 「えっ……でも」



[狂沢 蛯斗]

 「食べたくありません」




 狂沢君と司君?何をモメているんだろ?




[巣桜 司]

 「でも、ちゃんとお肉も食べた方がいいよ…?」




 お肉??



 あれ?



 でも狂沢君、前に唐揚げ食べてたよね?



 私があげたやつ。




[狂沢 蛯斗]

 「いや大丈夫です」



[巣桜 司]

 「そんなっ……豚さん残されて悲しいって言ってますよ?」



[狂沢 蛯斗]

 「死肉しにくは言葉を発しません」




 死肉って……なんか表現グロいなぁ。



 さすが狂沢君。




[狂沢 蛯斗]

 「巣桜君食べて良いですよ」




 そう言って豚肉を司君の方に押し付ける狂沢君。




[巣桜 司]

 「わ、分かりました……」




 狂沢君、豚肉嫌いなのか。




[永瀬 里沙]

 「大空〜ご飯行こー」



[朝蔵 大空]

 「あ、うん」



[巣桜 司?]

 「おいおい」




 私が席を立ち上がろうとした時だった。




[巣桜 司?]

 「司がせっかく作ってやったって言うのに食わねぇのかよ」




 へ?今の司君?



 なんかいつもと口調違くない?




[狂沢 蛯斗]

 「なんですか?」



[巣桜 司]

 「あっ!いやなんでもありません!」



[狂沢 蛯斗]

 「なんです?文句あるなら言って下さい」




 焦って何かを誤魔化そうとしている司君、それにイライラしている狂沢君。




[巣桜 司]

 「ご、ごめんなさいぼく御手洗に行ってきますー!」




 司君は走ってどこかへ行ってしまった。




[狂沢 蛯斗]

 「まったく、言いたい事あるんなら言えば良いのに……」




 今の本当に司君だったのかな、なんか雰囲気が全然違った気がする。



 まるで司君とは別の意思があるみたいな感じだった。



 ……。




[巣桜 司]

 「はぁはぁ……」




 息切れをしながらトイレの鏡と向き合う巣桜。




[巣桜 司]

 「誰も居ないよね……?」




 誰も居ない男子トイレに巣桜ひとり。




[巣桜 司]

 「もう……困るよ。つばさ君」




 鏡に映る自分を見て誰かの名前を呼び掛ける巣桜。




[巣桜 司]

 「ボクは巣桜司、ボクは司なんだ!」




 巣桜は鏡に向かってそう叫んだ。



 ……。




[加藤 右宏]

 「どいつもこいつも……」



[卯月 神]

 「狙い通り、訳ありな方が多いようだ」




 高台で校舎を見下ろす卯月とミギヒロ。




[加藤 右宏]

 「まあオレ様にかかればこんなモンダ!」




 ミギヒロは誇らしげに胸を張る。




[卯月 神]

 「調子に乗らないで下さい。彼女、目的を忘れています。あまり恋愛に積極的ではないようですし、先が思いやられます」



[加藤 右宏]

 「うーん……副作用がどうも邪魔するモンダなぁ」



[卯月 神]

 「彼はどうですか?」




 卯月の視線の先に嫉束界魔。




[加藤 右宏]

 「嫉束か……あいつはトニカク、あの熱狂的なファンが邪魔ダナ。あいつを苦しめる元凶だし、おもてでアクションを起こすのは危険だ。こいつの攻略ではかなりの慎重さと、ここぞって時の大胆さが同時に試されるな」



[卯月 神]

 「あの一匹狼の彼は?」




 卯月の視線の先に笹妬吉鬼。




[加藤 右宏]

 「笹妬か、あいつは……オレ様でもよく分からないぞ。分かるのはレアキャラって事だけで……」



[卯月 神]

 「それ、なんの情報にもならないですよ」



[加藤 右宏]

 「トニカク地味ーな学校生活をしているようだな。誰ともつるまず、誰にも頼らない。遅くに登校し、時間になったらすぐ帰る。色々謎だ、あっ!周囲の人間に恐れられてるって言うのもポイントだな!」



[卯月 神]

 「ふーん……ではあの人達は?」




 卯月の視線の先に狂沢蛯斗と巣桜司。




[加藤 右宏]

 「狂沢の奴はエキセントリックで強引。カメラが好きなようだな。あと、大空はあいつに苦手意識を持っているな」



[卯月 神]

 「それだけですか?」



[加藤 右宏]

 「は、ハイ……あっ、そう言えば。さっき巣桜の野郎が変なモーションをしてたな」



[卯月 神]

 「彼は何か抱えているようですね」



[加藤 右宏]

 「アア、別の人格って言うのカナ?転校してきた理由も怪しいシ。大人しそうに見えて実は凶暴なのかもしれん」



[卯月 神]

 「さすがの僕らも精神的な中身については読み取る事が出来ません」



[加藤 右宏]

 「マーまた出てきてくれるノヲ待つしかナイナ」



[卯月 神]

 「そうですね。僕はあの彼が1番気になります」




 卯月の視線の先に刹那五木。




[加藤 右宏]

 「刹那か、あいつはひと言で言うと思春期野郎ダナ」



[卯月 神]

 「朝蔵さんが過去の事を忘れているのを良い事に、嘘をついていました」



[加藤 右宏]

 「嘘つきは泥棒の始まりだぞ〜」



[卯月 神]

 「それは知りませんが。あの人、過去にとんでもない事を起こしたみたいですね……」



[加藤 右宏]

 「その事ならあの女が詳しいんじゃねーノカ?」




 ふたりは永瀬里沙に視線を向ける。






 「かくしごと」おわり……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る