第20話:夜会会場にて




「これはこれは、セザール・ヴァレール・フォルタン第三王子殿下!本日はシャーロットをよろしくお願いします」

 屋敷奥から出て来たウェントワース侯爵は、セザールへと挨拶をする。

 態々わざわざフルネームで名を呼んだのは、王族としての節度を守るように釘を刺したのだ。


「勿論ですとも。今日はずっと一緒にいるつもりですよ」

 セザールが爽やかに笑う。

 ハッハッハッ。フッフッフッ。

 ウェントワース侯爵とセザールは笑いながら、馬車へ向かって歩き出す。

 セザールにエスコートされているシャーロットも、当然それに続く。



 ジョナタンとティファニーは、まるで居ないかのように存在を無視されていた。

 ジョナタンは拳を握り、ワナワナと体を震わせる。

 今までシャーロットを迎えに来てもまともにエスコートをしなかったくせに、他人に取られると惜しくなったらしい。


「何だそのドレスは。シャーロットに対抗したのか?似合いもしないくせに」

 ジョナタンの鬱憤うっぷんは、真っ赤なドレスを着たティファニーへと向かった。

「私だってこんなドレス着たくないわよ!でも、これ以外は着付けないとメイドが言うんですもの!」

 ティファニーも不満をジョナタンへとぶつける。

 婚約して初めてのパーティーは、険悪なものになりそうである。




 王宮の1番大きな舞踏会場で、本日の夜会は行われる事になっていた。

 王家主催の夜会では、爵位順に名を呼ばれ、入場する決まりだ。

 ウェントワース侯爵が呼ばれ、当主の侯爵が一人で入場する。

 本来ならば妻を伴うのだが、正当な理由があれば一人でも問題無い。

 ウェントワース侯爵夫人は、正当な理由で領地へとこもっていた。


 そして、次の公爵家が呼ばれてしまう。

 長女のシャーロットは、婚約者のジョフロワ公爵家と一緒に入場するのでいつもの事だが、次女のティファニーまで居ない事に、会場内はザワつく。

 この後は公爵家と王家しかいない。

 まさか姉妹二人共公爵家へと嫁ぐのか!?と疑心暗鬼になっているのだ。



「ジョフロワ公爵家」

 公爵家の中でも序列がしたなので、ジョナタンの家が呼ばれた。

 ジョフロワ公爵夫妻が入場する。

 その顔はとても暗い。

 その理由はすぐに判明した。


 嫡男のジョナタンが婚約者を伴って入場したからだ。

 いつも通りに派手な真っ赤なドレス……と思い、婚約者であるウェントワース侯爵令嬢を見た。

 ウェントワース侯爵令嬢に間違いは無かった。

 ただし、妹の方である。


 姉とは違い、完全にドレスに着られてしまっていた。

 あちこちで失笑が起こる。

 主に男性達だ。

 皆、婚約者や妻に咎められている。


 次々と他の公爵家が入場してきていたが、人々の話題はジョフロワ公爵家令息と、その婚約者の事だった。

 ティファニーは俯いたまま、唇を噛む。

 よりによって、今までで1番派手なドレスで露出も多い。


「あの悪趣味なドレスは公爵令息の趣味だったのか」

「それにしても、向き不向きが有るだろうに」

「あの姉を捨てて選んだ妹にしては……なあ?」

「よっぽどの床上手なのではないか?」

「姉と違って身持ちが緩そうだもんなぁ」

「それを言うなら身持ちが悪いだろ」

「いやいや、緩いの方が合ってるだろ」



 男達が下卑た話をしていると、王家の入場となった。

 皆口を閉じ、頭を下げる。

 国王夫妻が呼ばれ、次いで第一王子が一人で入場する。

 第二王子と婚約者エリザベス、そして第三王子とシャーロット。


 会場内がソワソワした雰囲気になった。

 顔を上げて確認したい。

 隣の人と話をしたい。

「皆の者、おもてを上げよ」

 この場で王家以外で顔を上げている唯一の人物、宰相の声が会場内に響いた。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る