第18話:暗躍する者




 何も解決しないまま、明日は王家主催の夜会の日である。

 そう。あの、ティファニーが真っ赤なドレスを着て、ジョナタンの婚約者として初お披露目するパーティーだ。

 『茜』は、エリザベスとしてダニエルのエスコートで参加する。

 シャーロットは、セザールのエスコートで参加する事になっていた。


「結局、セザール様のエスコート……」

 シャーロットがポツリと呟く。

「え?嫌なの!?」

 セザールが驚く事に、シャーロットは驚く。

「婚約者でも婚約者候補でも無いのに、おかしいでしょう!?」

 シャーロットはセザールに名前呼びを許可されている程度には、友人となっていた。

「保護者!僕はシャーロット様の保護者でしょう!」

 セザールもシャーロットを名前で呼ぶ。


 もう、婚約してしまえば良いのでは?

 ダニエルと『茜』はそう思っているのだが、敢えて口には出さない。

 まだシャーロットの事を諦めていないのか、ジョナタンとドリーの動きが不穏なのだ。


 ジョナタンは、どうせ婚約するならティファニーよりシャーロットの方がだとでも思ったのだろう。

 実際にシャーロットの方が才色兼備と名高い。

 最近は、劣化版を掴んだ男と揶揄されている。


 ドリーは、シャーロット相手だと「真実の愛を貫いた」となるが、ティファニー相手だと「親友の婚約者を寝とった」になってしまう。

 おこなっている事は変わらないのに、不思議である。



「ドレスを贈りたかった」

 セザールは、エスコートが決まってから、ずっと同じ事を言っている。

「なぜそうなります!?嫌ですわよ、赤いドレスはこりごりです」

 シャーロットがフンッと顔を背ける。

「あのような下品なドレスを贈るわけが無いだろう?深い紅の上品なドレスだよ」

 セザールがまるで拗ねてる子供を宥めるように言う。


「私のドレスは上品な深い緑色です」

 シャーロットの言葉に、セザールはニヤリと笑う。

 顔を背けているシャーロットは気付いていない。

「知ってる。僕のジャケットと同じ生地だよね?」

 音がしそうな勢いで、シャーロットがセザールの方へと顔を向けた。

「何してくれてるのですか!?」

 叫ぶシャーロットを、セザールは笑顔で見ている。


 もう一度言おう。

 もう、婚約してしまえば良いのでは?

 ダニエルと『茜』は、そう思っていた。




「そろそろ真面目に話し合おうか」

 ダニエルが仲良くじゃれているセザールとシャーロットに声を掛けた。

 今回の夜会で、シャーロットがセザールのパートナーになったのには、もう1つ意味が有った。


 『茜』の存在である。


 エリザベスとしての記憶は有るが、基本が日本人の異世界人である。

 常に補助が出来るように、側に居られるセザールのパートナーとして、シャーロットを選んだのだ。


「これはまだ非公開情報なのだが、ドリーがマルリアーヴ伯爵の実子として引き取られた」

 ダニエルが声を潜めて告げる。

「庶子では無く?」

 『茜』が質問する。

 ゲームでは、実の子では有ったが、庶子扱いだったのだ。


「死産だったので届けなかったが、実はメイドが盗んでいた……と届けられた」

 嘘だと判っているが、証拠が無いので認めるしかないのだろう。

 既にメイドは亡くなっていて、これ以上調べようが無いとされたらしい。

「不穏ですね」

 シャーロットが呟く。

「不穏だな」

 ダニエルも同意する。


「それにエリザベス様の件も、まだ犯人が捕まってませんからね」

 セザールが言うと、ダニエルは更に苦虫を噛み潰したような顔になった。



 

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