第4話:お助けキャラ・ティファニー




 ピンク髪のヒロインは、漫画では素直で天真爛漫な少女だったが、現実では違うらしい。

 いや、皆の目にはそう映っているのかもしれないが。

 『リズ』の前で見せた本性は、純真とは程遠かった。

 アクセサリーイベントの時、ヒロインはまだ平民だったはずである。

 なので今日の行動は、平民が侯爵令嬢の飼い猫に危害を加えようとしたのだ。


〈ありえないわ……あれ、捕まってたらどうなってたんだろう〉

 『リズ』の背中の毛がブワッと逆立った。

〈それからティファニーって、親友という名のお助けキャラだったよね。まさかの悪役令嬢の妹だったの!?そりゃ、悪役令嬢の情報が筒抜けのはずだわ〉

 作中には「ティファニー」としか出て来なかったのだ。



「そういえば、またパーティーのドレスの話をしに商人が来てたのよ」

 ティファニーの声が聞こえる。

「ジョナタン様から好きなドレスを作るようにって手紙が添えられてたの。だから、彼の趣味と正反対の露出多めのデザインで、ジョナタン様の瞳の色と正反対の赤を選んでやったわ」

〈は?シャーロットのフリでもしたの?〉

「でも、それじゃバレるでしょう?」

 ヒロイン、ドリーが心配気な声を出す。


「大丈夫よ!姉には似合うドレスだし、姉は婚約者からだと思うから大人しく着るわよ。で、ジョナタン様は姉が選んだと誤解するわけ。最高でしょ?」

〈最悪だよ!!〉

 ベランダから二人を見下ろしながら『リズ』は背中の毛を逆立て、フシャーッと怒りの声を出すが、無論気付かれはしない。



〈どうりで漫画のパーティードレスと、シャーロットの普段着の趣味が違うわけだわ!シャーロットは婚約者からの贈り物だと思って着ていたわけでしょう?そりゃドヤ顔で婚約者に見せるよね!〉

 『リズ』がいきどおっていると、さらにティファニーがとんでもない事を言い出す。


「明日辺り、今度は宝石商が来るのよ。だから、また赤いルビーにしてやるわ。まるで本命は王子様よ!って主張してるみたいで、絶対にジョナタン様は不快に思うわよ」

 得意気に言うティファニーの言葉に、ドリーは「大丈夫?」と心配はするが、止める様子は無い。

 要は同じ穴のムジナなのである。



「大体、侯爵家の長女だからって理由だけでジョナタン様の婚約者に選ばれるっておかしいでしょう?私でも良かったはずなのに!」

 どうやらティファニーの本音はその辺のようだ。

「だからドリー、平民でも貴女はジョナタン様のお気に入りですもの!姉になんて負けないでね!」

 ティファニーは、姉への対抗心や劣等感でドリーの後押しをしているのではないか、と『リズ』は分析をする。


 そして、ドリーが伯爵家の庶子である事は、現時点では判明していない。

 おそらくティファニーは、平民のドリーではジョナタンと結婚出来ないので、姉と婚約破棄した後に自分と結婚するように説得するつもりなのだろう。


〈明日、宝石商が来たら、絶対に邪魔してやる!〉

 肉球まで真っ黒な前足をキュッと丸め、顔の前で握り拳を作り……猫の本能でペロリと舐める。

 そのまま身繕いへと移行した。



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