第3話:ヒロインはやはりピンク




 『リズ』がウェントワース侯爵家で猫可愛がりされて数日。

 シャーロットの妹のティファニーが友人を連れて帰って来た。

「サロンへお茶を用意してちょうだい」

 ティファニーが命令すると、メイドが戸惑った表情をみせる。

「何よ」

 それに気付いたティファニーが問い掛けると、メイドは「今、サロンにはリズ様が」と素直に答えた。


「は?リズって誰よ」

 聞いた事の無い名前に、ティファニーの雰囲気が険悪になる。

 シャーロットが使っているならそう言うだろうから、ティファニーの友人では無いのだろうと、予想しての態度だ。

「侯爵令嬢の私より上の身分なの?」

 シャーロットの足はサロンへと向いた。


 サロンへと到着したティファニーは、ノックもせずに扉を開け放った。

 そして室内を見回し、「誰も居ないじゃない!」とメイドを怒鳴りつける。

 と、その時、シャーロットの後ろを付いて歩いていた少女がサロンの中へと駆け込んだ。


「まぁ!可愛い猫ちゃん!」

 1番日当たりの良い特等席に籠とクッションが置かれ、そこで黒猫がビックリした顔で固まっていた。



 『リズ』は焦っていた。

 突然の大声に驚き起きると、目の前に少女が自分を覗き込んでいた。

 言葉と声音は好意的だが、『リズ』を覗き込む表情はむしろ嫌悪感丸出しである。

 そして、近距離に居る『リズ』にしか聞こえない音量で、怨嗟を呟く。

「名前も色もエリザベスと一緒かよ。ムカつくな、クソが」

 伸びてきた手から、『リズ』は飛び退いた。


〈怖っ!何この子、怖っ!!え?ピンク髪にピンク眼ってヒロインだよね?〉

 サロンの隅まで逃げた『リズ』は、少女を観察する。

「あれ?どうしたの?驚かしちゃった、ゴメンね」

 声は可愛く謝っているが、『リズ』に向けられた顔は無表情だった。




 無事にメイドにより救助された『リズ』は、シャーロットの部屋に居た。

「サロンと違って2階ですので、お庭には出られませんが」

 そう言って、ベランダへ通じる窓は開けてくれた。


 当主にベタ惚れされた『リズ』は、昼間はサロンで過ごしていた。

 庭に通じる窓があるので、出入り自由だったのだ。

 シャーロットの飼い猫で、侯爵にも可愛がられている『リズ』は、それは手厚く世話をされ、その愛くるしさからも使用人に大人気だった。



 天気が良かったので、日向ぼっこをしようと『リズ』がベランダへ出ると、先程のピンク髪の少女とティファニーが庭に居た。

〈庭でお茶するなら、サロンから私を追い出す必要無いじゃない〉

 不満を抱えながらも、二人を上から観察する。


「ねぇ、ドリー。最近、ジョナタンとはどうなの?」

 ティファニーの声が聞こえる。

〈ジョナタン?確か、シャーロットの婚約者で公爵子息よね〉

 『リズ』が前世の記憶から、ジョナタンの情報を引っ張り出す。

「ん~どうって、ジョンとは良いお友達なだけよ」言いながら、ドリーと呼ばれた少女は、ピンクの髪を耳に掛ける。


「そんな事言って~。その見事なピンクダイアモンドだって、ジョナタンからのプレゼントでしょう?」

 上から覗き込んでいる『リズ』には見えないが、ドリーはピンクダイアモンドの耳飾りをしているようだ。

「これは、この前街に行った時にお礼で貰ったのよ。深い意味は無いわよ」

 フフッと笑うドリーを見て、『リズ』はケッと表情を歪める。


〈謙遜も過ぎると嫌味だわ。それって、ヒロインの街デートイベントの事よね?婚約者には米粒みたいなクズダイヤが付いたイヤリングを買って、一緒に選んでくれてありがとうとか言って、店で1番高いピンクダイアを買って貰うのよね〉

 本当は漫画なので金額表記は無いのだが、社会人はデザインと石の大きさと種類で値段を予想していたのだ。


 余談だが、社会人読者からジョナタンの評価がガタ落ちになったイベントである。



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