第9話「なんで全部聞いてんだよこの妹っ!!」
「――おーい、お兄ちゃん達や~。お風呂、お母さんが先に入ってて~って伝言!」
「母さん、そういえば何やってんだ?」
ここの後片付けを任せた張本人が全然戻って来ないという違和感にようやく意識が戻る。
美結はたった今お風呂から上がったばかりなのか、まだ髪の毛が微かに濡れている。やはり髪を伸ばせば、それだけ乾かすのも大変にはなるよな。横にいる幼馴染だってそうだ。
「さぁ、なんかゴソゴソとタンスの中をいじってたのは見たけど、何してるかまでは」
「ったく、仕方ないな」
俺はため息を吐き、拭き終わった食器類を全て棚の中へと戻す。
父さんはいつも仕事の帰りが遅く、平日の真夜中まで水無月家の家庭は完全に女所帯。そのため、基本母さんと妹が先に入り、最後に俺が入浴しに行くんだが、今日ばかりは譲られるしかなさそうだ。
「……それじゃあ、私は自分の荷物を片づけ次第、失礼しますね」
「えぇ~! 今日ぐらい泊まってもいいじゃん! ねぇ優ちゃん、せっかく明日は休日なんだし夜遅くまでガールズトークしよっ!」
修学旅行の夜みたいなテンションだな。
いつの間にか人格が戻っている優花は、必死に懇願してくる美結に少々困り顔を浮かべる。それもそのはず。今日の彼女は泊まるつもりでこっちに来た訳じゃないだろうし、せっかくの誕生日、優花の家族だって夜遅くなるかもしれないが「おめでとう」とお祝いしたいはずだ。
彼女もそれがわかっているのだろう。だからこそ、今日は自分の家へ帰る必要がある。
俺は、どうしても優花と一緒に居たいらしい美結に声をかけようとするが、その直後、騒がしいリビングに母さんが入って来た。
「あらあら、今度はなんの騒ぎ? さすがに夕方じゃないんだし、大声出しちゃうとご近所さんに迷惑かかっちゃうわよ?」
「あぁ、いや……美結の奴が、今日は優花に泊まっていってほしいってごねててだな」
「むぅ! ごねてるわけじゃないもん! それにお兄ちゃんだって、本当は優ちゃんに『帰らないで』って思ってるくせに!」
「え?」
「ちょ! 今朝のことはやめろマジで! てか聞き流せって言っただろうが!」
「1人でぼんやりリビングの天井見つめながら『……あいつ、今日は泊まらずに帰っちまうよな。まぁ、考えてみたらあいつの家族だって今日ばっかりは日付回らずに帰って来るだろうし、当然だよな』なんて、後ろに私が居ることにも気づかず、ぼーっとしてたお兄ちゃんが悪い!!」
なんで全部聞いてんだよこの妹っ!!
「……それ、本当に?」
「……っぐ」
リビングという密室な空間。
当然、近距離で行われていた俺達兄妹のやり取りを聞き逃すなんて奇跡は起きず、俺は早朝での恥ずかしい出来事を彼女に全て知られてしまった。
弁解する暇も、誤魔化す余地も無く。こんな羞恥心に支配されてしまっている中、横を向けば、俺の今朝の出来事を知った優花が上目遣いで見つめてくる。
逃げきることは不可能、背中を向けることは許されない。
妹による絶対的な包囲網にまんまと捕らえられてしまった俺は、一度「はぁ…」と息を長めに吐き、隠さず、正直に打ち明けることにした。
「…………お前の誕生日ぐらい。付き合って、最初の誕生日ぐらい……少しだけ欲張りになったっていいだろ。……一応、彼氏なんだし」
「~~~~~っ、……!!」
包み隠さず漏らした本音に、優花の顔は熟したての
幼馴染の頃から微かに感じていた独占欲よりも、もっと強い、自覚してしまった彼女の彼氏としての本音。
自覚している分、言葉にするととここまで羞恥心に苛まれるのだとようやく気づく。
すると、
「……え、えっと。迷惑に、ならなければ」
「――え、いいの!? それじゃあ今日、私と夜遅くまでガールズトークしてくれる!?」
おい、稀に見ないお兄ちゃんの頑張りを全て掻っ攫おうとしてないかこいつ。
美結が優花のことをこよなく気に入っているのは先程の会話からでも把握済みだが、やはり近所に住む貴重な同世代ということや、昔から知っているお姉さんという点からも、妹の中で彼女は特別な存在なのかもしれない。
と、そこへ割り込むのは我が家の母――『水無月
「はいはい、ストップ。その前に、今日ウチに泊まるってこと、由里さん達にも電話しなくちゃいけないから、泊まれるかどうかはそこから。それと――もし許可が出ても、親の前で堂々と夜更かし宣言をする人に、大事な大事な優花ちゃんを預けられません!」
「えぇ~……」
「――だから、今日のところは蒼真の部屋で寝泊まりしてもらってもいいかな?」
「「…………は(え)?」」
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To Be Continued...
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