第10話「こんなことに褒められてもなんにも嬉しくないんだが?」
いや、いやいやいや!!
いくら俺達が昔から一緒に過ごしてた幼馴染同士だからって、さすがにこの歳になって異性と同じ部屋っていうのはマズくないか!? それに俺達、今は恋人同士でもあるわけだし……。
「大丈夫、ちゃ~んと許可が出ればの話だから! それと、もう蒼真の部屋に優花ちゃん用のお布団敷いちゃってるし、パジャマも用意してあるからね!」
「お、おばさん……っ!?」
(後片付け任せられたのそれが原因か……!!)
というか、ナチュラルに思春期真っ盛りの男子高校生の部屋に入るこの家族、どうなってんだ。しかもそんな部屋に、幼馴染とはいえど現在進行形でお付き合いしているカノジョを、さも当然のように割り当てるとは……。
特別、部屋の中を漁られても変な物が出てくることは無いし、あってもストーリーの良さに心を打たれて残してあるR15指定の純愛小説ぐらいだ。それも、優花から
如何にも読書家男子の部屋として申し分ないほどの本が揃っていること以外、特別特徴が無い自室だが、いくらなんでも『泊める』前提となると話が変わる。
いつものように妹の部屋で寝泊まりするのかと思いきや、まさかの実親特権により却下。
何故今日に限って俺の部屋での寝泊まりを強制してくるのか、そんなのは想像するまでもない。要するに、この母親は狙っているのだ。俺達の関係性が、今晩、一歩前進することを。
「………」
俺は視線を母さんへ向ける。
この人が俺達のことを具体的にどうしたいのかまでは予想できないが、とにかく家族が寝静まった時間帯に、俺が彼女へ手を伸ばすことを理想としていることは間違いない。
「……あらあら。あんたのその顔は、私の意図に気づいちゃったのかしら? 私の息子ながら、さすがに頭の回転が速すぎない?」
「こんなことに褒められてもなんにも嬉しくないんだが?」
子は親に勝てないとよく言うが、こういうことを言うのかと初めて思い知った気分だ。
すると、顔の熱を若干逃がしたのか、頬がほんのりと赤く染まった優花がそっと右手を上げた。
「……わ、私は別に、いつも通り美結ちゃんと一緒の部屋でも大丈夫ですよ。もしも寝る時間が遅くなってしまいそうになっても私が居ますし、きちんと10時半前には就寝しますから!」
「! だって! お母さん!」
「うーん、優花ちゃんのことを信頼してないってわけじゃないんだけど、この子ったら話したい欲があるとどうにも時間を気にせず、押し通しちゃうことが多いのよ」
さすが母さんだ。優花の改善すべき点を心得ている。
「ゔっ……。た、確かに、数週間前も友達と長電話して寝るの遅くなったけど……」
「自覚があるのなら尚更ダメね。いくら明日がお休みでも、義務教育中のお子様はきちんと睡眠時間を確保しなきゃダメよ。お兄ちゃんなんて、中学生の頃は読書に夢中になって寝過ごしたーなんて事案が、両手で数えきれないほどあったんだから!」
「ぐっ……」
母さんの言葉の矢が心臓に刺さった感覚を覚え、俺は軽く胸を抑えた。
美結(娘)の話をしていたはずが、何故か時を遡り、駄目な例として中学時代の俺(息子)が引っ張り出された。なんで俺に飛び火してんだよ……。
「…………はぁああ」
今日1番のため息を吐き、俺はそっと顔を上げる。
どうやら母さんは、是が非でも自分の筋書きを邪魔させるつもりはないようだ。
ただ、その筋書きが成立するのは、あくまでも俺達が“普通の恋人”である場合の話。おそらく俺の部屋へと訪れた時点で、彼女の人格は素へと入れ替わる。
その際の彼女は、名目上『恋人』ではあるものの、どちらかと言えば趣味が合う気策すぎる幼馴染に近い。時折どきまぎさせられはするが、母さんが望むような進展は絶望的に近い。
……とはいえ、恋人同士になって同じ部屋に泊まるのは今日が初。
ここから先の筋書きは、残念ながら想像不可能だった。
「……わかった。これ以上ここでもめてても仕方ないし、今日のところはそうしよう。それに、既に俺の部屋にあるらしい布団を再度運び直すっていうのも面倒だしな」
「そ、そう……だね」
「むぅ、私も優ちゃんとガールズトークしたかったのにぃ~!」
「ごめんね、美結ちゃん。明日の朝にでも、また次の時にでも一緒にお話ししようね」
頬を膨らませる妹の頭に、優花はそっと手を置く。
昔から知る彼女の優しい表情と、お姉さん身溢れる口調に美結も首を大人しく縦に振る。
『どっちの優花であっても、優花である限り大好きなお姉ちゃんでいるのに違いはない』――妹のその言葉は紛れもない真実だ。
その確信は今の彼女の仕草に表れているだけでなく、ただ単に、美結の実兄としての経験からの確信。なにより、俺が1番よく知っている。美結がどれだけ優花のことが好きなのかを。
「――さて、と。話もまとまったことだし、早速由里さんに電話かけてみるわね! その間、先に蒼真がお風呂入って来ちゃいなさい」
「へいへい」
両手が打ち合わさった音を合図に、俺達はリビングから解散。
美結は優花の手を嬉しそうに引きながら共に2階へ向かい、俺は母さんに言われた通り風呂場へと向かう前に、2人と共に二階にある自室へ向かい、タンスから着替え用の下着と、今晩は少し冷え込む予報と出ていたことを思い出し厚めの寝巻、それからハンドタオルを手にし、脱衣所へと降りて行った。
さすがに異性の相手が今夜自分の部屋にいるとわかっている以上、いつものように、着替えは自室ですればいいという考えに落ち着くわけにはいかないからな。うん、俺は冷静だ。
ちなみに水無月家へのお泊り許可は、電話開始数秒で降りたと後で優花に聞いた。
やはり母親は強かった。
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To Be Continued...
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