第1部
第1話「さっきからジロジロ見すぎだぞ! なんだぁ? 遂に幼馴染でだ~いすきな彼女様が側に居なくなって「うぇーん!寂しぃよぉー!」ってなったのかなぁ~?」
物心つく前から、俺の隣には幼馴染という存在がいた。
その幼馴染――
しかし彼女の内面は、ある日を境にまるで男の子のように変化し、口調までもが徐々に悪化していってしまったんだ。現実はこんなものだと初めて実感した瞬間である。
◇
季節は陽気な気温が続く4月中旬。
この日、月ノ宮学院高等学校ではとあるイベントごとが発生していた。
登校した直後から彼女の下駄箱に大量の手紙とお菓子が入っているであろう包みが入っており、開けただけでまるで溜め込んだ水が一気に流れ込んだように床へとばら
朝礼のために教室へと入って来た先生も腰を抜かしていた。
さすがにこの事態は想定していなかったのか、優花もこっそりため息を吐いていたように見えた。
そう、今日は『咲良優花』の誕生日である。
(あの量を
早朝でのやり取りがまだ可愛く思えてきた俺も「はぁ…」とため息を吐いた。
ふと視線を上げると、クラスメイトの女子達にも手伝ってもらって大量の紙袋を後ろのロッカーへと運ぶ優花が映った。
「ごめんなさい、みんなにも手伝わせちゃって……」
「いいのいいの! というか、最初から処理しておくべきだったかなぁって反省してるとこ」
「そうだね。優花ちゃんが来る前に、机の上のやつぐらい片づけておくべきだったよ」
「そんな! 気にしなくていいですよ! むしろ、最初からこういった場合を想定しておかなかった私にも責任がありますから」
「来年はチョコとか手紙とか禁止! とかでもいい気がするよね」
「そうそう! ほんと男子って諦めが悪いんだから! 優花ちゃんには既に心に決めてる人がいるっていうのに!」
「でも、こうしてみなさんからの気持ちを頂けること自体は嬉しいですから。大丈夫です。来年も同じことになるとは限りませんが、なんとか対処法だけは考えておきますから」
「いいや! 絶対増える! 来年が高校生活ラストチャンスってなることを踏まえれば絶対今年より増えるよ!」
「そ、そうでしょうか……?」
休み時間である現在、後ろからほのぼのとした会話が聞こえてくる。
優花は、興奮した状態の2人のクラスメイトを
一体誰が想像できるだろう。
あんなにも友達想いな心優しい高嶺の花が、本当は素行が少年染みていて、家では安物のパーカーに短パン素足というみっともない格好をしているだなんて。夢見ることは自由だが、現実を知ると後悔する。まさにこのことだろうな。
だがあんな格好をするようになったのは昨日今日のことではない。
あれは言わば彼女を守る装備のようなもの。素でいられることでの安心感とやすらぎを得るための手段だ。
「………」
考え事をしていた最中、俺のスマホに一通のメッセージが届く。
宛先の名はS、メッセージアイコンはどうしてかアジサイの花という謎チョイスの変わった人物は、噂をすればの優花だった。
『さっきからジロジロ見すぎだぞ! なんだぁ? 遂に幼馴染でだ~いすきな彼女様が側に居なくなって「うぇーん!寂しぃよぉー!」ってなったのかなぁ~? もぉ~しょうがないなぁ。こうなれば今日の主役とも言えるこのワタシ優花様が、寂しがりなキミに今日1日優花様のおひざ独占権を差し上げようではないか! どうだい若き功労者よ!――9:58』
ぶんなぐりてぇ。
なんだこの自己主張が激しすぎるメッセージ。確かに貴女様の方は見てましたとも。そのときにクラスの女子達と話していた会話も耳に入ってしまいましたとも。だがな――誰もこんな出生3ヵ月みたいな感情は抱いてねぇ。つかこのツッコミもおかしいか。
というか何気に「今日私の誕生日で~す!」アピールしてきてるのが余計腹立つんだが。
そういうのってサラッと言うもんじゃないの? 最近読んだラブコメのヒロインは自分が誕生日であることさえ主人公に教えてなかったぞ。そういうのが普通誕生日イベントのお約束なんじゃないの?
と、ここまでを考えてようやく理解した。
そうだ。相手は高嶺の花と呼ばれる咲良優花ではなく……変人な幼馴染であることを。
普通のラブコメ常識は通用しない。どうせこれに対して真っ直ぐ返事を返しても『えぇ~、真に受けちゃったの~! そっかそっか~そんなに構ってほしかったんでちゅね!』的な解答をされるに違いない。……なんか鳥肌立ってきた。
ともかく、このメッセージに一々返しをつけてたらキリがない。
そもそもあいつのペースに乗せられたまま、都合よく解釈されるのが嫌だ。
(……となれば、俺が取るべき最善策は1つ。逃げないこと!)
返さない、見なかったという解答はそもそも論外だ。
メッセージに既読が付けられてしまっている上、幼馴染としてここは負けるわけにいかないという謎のプライドが『おい逃げんな』と邪魔をしてくる。
ただ、今は休み時間が終わるギリギリの時間帯。
そのため、俺は最善でかつ有効的なメッセージを素早く打ち込み、送信した。
その勢いで俺は後ろのロッカーまで教材を取りに行くため席を立ったが、その隙にまたもや新規メッセージが届く。
『そんなに寂しいなら昼休みに構ってるやるから安心しとけ――9:59』
『
……なんで俺が
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【次回、10月11日(金)夕方投稿予定】
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