最強な彼女と平凡な僕と

kuro

序章

プロローグ

「五年後、一の月にむかえに来る」

 神造世界、デウス=ア=ステラ。ゾディア王国おうこく

 王都の片隅にある孤児院こじいんの前に、ある小雨の降りしきる朝一人の赤子が捨てられていた。いや、捨てられていたという言葉はあやまりだろう。何故なら、赤子は小さなかごの中に丁寧に布で包まれ、その上で書置きを胸元に置かれて残されていたからだ。

 その奇妙な状況に、孤児院の院長も職員たちも首をかしげた。しかし、赤子が孤児院の前に残されている以上、孤児院に入れない訳にもいかない。

 赤子は孤児院へと早急に入れられた。更に奇妙な事に、赤子を包んでいた布には王都でも有名な宗教のいんが入っていた。にもかかわらず、神殿しんでんの関係者は皆この赤子について知らないと首を横に振っていた。

 印は本物であり、偽物ではないとのこと。しかし、神殿の関係者は一切関与していないと一斉に首を横に振っている。印は本物だとみとめているにも関わらずだ。

 謎はふかまるばかり。孤児院の職員たちは大層気味悪がったが、院長は断固として赤子を捨てる事を良しとしなかった。無垢な赤子を捨てる訳にはいかない。赤子に罪など一切ないと。そう言って赤子を育てる決意けついを述べた。

 そして、そんな話の最中。職員と院長が話している間、赤子に近付く幼児の影が一つだけあった。頭に二本の小振りなつのを生やした、小さな女児。明らかに人間ではないだろう。

 子供は昨日一歳になったばかりのおさない女の子だ。をレインという。

 彼女、生まれて間もない頃に諸事情あり親元に居られなくなった結果、孤児院に預けられた子供だった。

 その事情は、孤児院の院長と一部の職員しか知らされていない。というのも、彼女が親元に居られなくなった事情に密接にかかわってくるからだ。

 そんなレインが、生まれて半年程度の赤子へそっと近付いていく。興味津々とばかりに、赤子へとそっと手を伸ばす。

 瞬間、赤子はそれに気付いたのかレインに向けて無垢にわらい掛けた。どこまでも純粋で無垢な笑顔。その笑顔に、レインは思わず手を止める。しかし、やがて彼女は同じように赤子に弾けるような笑みを向けた。

 それは、王都の片隅にある孤児院での何気なにげないエピソード。一人の赤子と女児の何気ない出会いの物語ものがたりだった。

 そして、物語はこの二人を中心にして展開てんかいされてゆく。そのほんの始まりだった。

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