炎巫時翔伝~後宮巫女のやり直し~

深水えいな

第一章 明琳、処刑される

第1話 巫女、処刑される


 幼い頃から、何度も夢の中に現れる男の人がいた。


 紅の長い髪に、絹のように真っ白な肌。


 切れ長の美しい紅玉の瞳に神様が作ったみたいに整った鼻と口。


 彼は何度も私に言った。


「君は炎巫エンフになる運命だ」

「この国を統べる巫女――炎巫になり、この国を救ってくれ」


 その言葉を信じ、私は巫女になるために都へと向かったのだけれど――。







 麗らかに晴れた秋の日。


 青く澄んだ空に、重苦しい役人の声が響いた。


「これから罪人の処刑を行う」


 今日、九月十四日は私、ホン明琳ミンリンが処刑される日。


 私は深く頭を垂れて、その瞬間を待った。


 栄養不足で霞んだ目に、骨と皮ばかりの自分の手が映る。


 自慢だった長い紅髪あかがみも、今では痛み乾燥して枯れ草のよう。


 毛布も厠所かわやも無い、食べるものすらほとんど無かった幽閉生活。


 わずか数ヶ月と言えど、私にとってはあまりにも長く辛かった。


 私は秋の空を泳ぐように飛ぶ蜻蛉とんぼを見ながらぼんやりと思った。


 ああ、早く私を処刑してくれないかしら。


 処刑場には、百人は下らないであろう見物人たち。


 あるものはこちらを指さし、またあるものは眉をひそめながら興味深げにこちらを見ている。


「この者は、偽りの予言で一ノいちのきさき様を惑わし、その結果、一ノ妃様はお顔に二度と戻らぬ傷を負われた。――その罪、死罪に値する!」


 声と共に、斧を持った処刑人が現れる。


 処刑人は、私の顔を見ると一瞬顔を曇らせた。


 私があまりにも若いので躊躇したのかもしれない。


 だがやがて、意を決したように処刑人は斧を振り下ろした。


 こうして、私、紅明琳の人生はわずか十七年で幕を閉じた。





 ……かと思われた。



 


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る