リアドラ ーReturn to the Draftー

Tsuyoshi

第1話 プロローグ

 天界と魔界の中間にある異空間、狭(はざ)間(ま)の世界。その空間の中心にある、役所のような巨大な建物。そこの三階にある『転(てん)生(せい)課(か)』の窓口。

 『転生の女神』とネームプレートに書かれた女性が窓口に座り、相談者と話をしている。相談者は悪魔のようだ。


「―――何を甘い事を言っているのです? そんな心持ちではメダルは集まりませんし、天界への転職は無理ですよ」

「うぅ・・・・・・」


 悪魔は女神に相当叱(しっ)責(せき)され、がっくりと肩を落としながら窓口を後にする。


「では、次の方どうぞ」


 女神がそう言うと、ピンポーンという軽快な電子音と共に、番号が電(でん)子(し)板(ばん)に表示される。表示された番号と同じ番号札を持った相談者、次は天使が、女神が座る窓口に向かう。


「―――銅が二枚で銀一枚と同等で、銀二枚で金一枚と同等の価値となります。貴方は天界の方なので、魔界に転職するためにこれからは悪(あく)行(ぎょう)を積んで、メダルを獲得して下さい。それと・・・・・・・・・んん? あっ・・・・・・」


 女神がメダルの説明を相談者にしていると、窓口前の待合席で妙に騒がしい人物がいる事に気が付いた。その待合席に目を向けると、彼女にとって驚きの人物がいたようで、目を丸くしていた。



 待合席には、多くの天使や悪魔、神族や妖怪、神獣や魔獣に混じって、堕天使ゼクスと妖狐ダンテが隣同士で座っていた。ゼクスは虎やヒグマが可愛く見える程の巨大な体躯をしており、その存在感は周りの者から注目を浴びていた。ダンテは狐本来の大きさだが、六本に分かれた尾を持ち、金色の美しい毛並みをしていた。


「久しぶりだなぁ、ダンテ。まさかこんなとこでお前と会うなんてなー」

「本当だね。僕、ずっと君に会いたかったんだよ、ゼクス」


 厳つい体格に似合う豪快な笑いを飛ばしながら話すゼクスと、席の上に行儀よく座り、ゼクスの顔を見て再会を喜ぶダンテ。六尾が嬉しそうに左右に揺れている。


「それで? お前、何でここに来たんだ?」

「―――僕は稲(いな)荷(り)神(しん)様に命を救われてね・・・・・・。あのお方の側で天(てん)狐(こ)として修業してみたいと思ったんだ。それで転生について話を聞きたくて、ここに来たんだよ。そういうゼクスは何でここに来たの?」


 ゼクスの質問に、時々言葉を詰まらせながら、ダンテは自身に起きた事と、天界を目指すきっかけを彼に話した。そしてゼクスにも、ここに来た理由を尋ねる。


「俺は天界も魔界も両方経験した上で、革命を起こしたいと思った。その為には、一度天界に戻る必要がある。それだけだ」

「革命! 何それ、かっこいいね!」


 真面目な表情で、自身が持つ強い意志をダンテに話すゼクス。ダンテの中では、おそらくゼクスは組織改革の事を話しているのだろうと想像していた。



 ピンポーン。新しく番号が表示された。


「おっ! 俺の番だ。ダンテ、お前も来いよ。話聞きたいだけなら、俺と一緒に聞きゃいいだろ」

「えっ、でも順番が・・・・・・」

「いいから、いいから。来いって」


 ゼクスはダンテと一緒に窓口に向かう。そこには転生の女神が静かに待っていた。


「今回はどのようなご用件でしょうか・・・・・・?」

「転生について話を聞きたい」


 そう言って、ゼクスはドカッと座り、足を組む。その横で、礼儀正しく足を揃えて座るダンテ。


「・・・・・・椅子のサイズが小さいようですね。すぐにお取替え致します」

「いや、このままでいい。立つのが面倒くせぇ」


 ゼクスの巨(きょ)躯(く)に普通の椅子は小さすぎるようで、女神は椅子の交換を申し出た。が、ゼクスはそれを断る。椅子の足が悲鳴を上げている。二人のやりとりの様子を緊張した面持ちで見つめるダンテ。

 女神は姿勢を崩さず、冷静な口調でゼクスとダンテに問う。


「お二人・・・・・・という事ですと、今回はペアでの挑戦という事で宜しいですか?」

「ペア? 挑戦? なんだそりゃ?」


 ゼクスが聞きなれないワードに反応する。それについて女神は眼鏡を片手でくいっと上げ、手元の資料のページを捲(めく)る。そしてゼクスの方を向き、一礼した。


「失礼致しました。それでは説明させて頂きます」


 開いた資料をゼクスとダンテの方に向け、説明を始める。


「―――このように、一定数のメダルを集める事で、転職が可能となっております。多少条件が厳しくなりますが、それでもお一人で挑まれるよりも、お二人で。つまり、ペアで挑戦された方が、一人当たりのメダル割合が少なくなり、成功率も上がるかと思われます」

「うーん・・・・・・思ったより厳しいなぁ」


 女神の説明を受けて、ダンテは一人で挑戦する事の厳しさを感じていた。しかし、その横のゼクスは、


「ふーん。じゃあ俺はソロで良いや。ダンテ、お前もソロで良いよな?」


 と、一人での挑戦を選択しようとしていた。


「えっ、いや僕は話を聞きに来ただけで・・・・・・」


 突然、自分も一人での挑戦を受けるような話の流れに、女神の話を聞きに来ただけのダンテにとっては寝(ね)耳(みみ)に水だった。そんなダンテにゼクスは、


「どうせ、お前も後でこの挑戦っての、するんだろ? だったら今決めちまえよ」


 と、ダンテに挑戦を促す。ここでダンテは考えた。天界に行って、天狐として修業する為には、彼の言う通り、どの道この挑戦を受けなければならない。それならと、


「ゼクス。僕達、ペアで挑戦しないかい?」


 ダンテはゼクスに打診してみた。ダンテにペア挑戦を提案されたゼクスは、はじめ首を縦に振らなかった。しかし、ダンテの説得や、女神の説明を受けて、渋々ながらそれを了承した。

 話がまとまったところで、女神は彼らに向かい、


「では、ペアでの挑戦という事で宜しいでしょうか?」


 と問うと、ゼクスとダンテは「おう」「はい」とそれぞれ頷く。二人の返事を聞いてから、女神は書類にサラサラとペンを走らせ、女神の印鑑を押す。


「ではこれからお二人には人間に転生して頂き、人間界で善(ぜん)行(こう)を積まれて下さい。まずは金のメダルを五枚、それを目標に頑張って下さい」

「人間だと?」


 冷静な女神の説明に、一瞬困惑するゼクス。その隣でいつの間にか人間の青年姿に化けているダンテ。ダンテは既に腹を括(くく)ったようだ。


「よし、やるぞ!」

「あ、こちらの方で、人間の体は用意しておりますで、変化されなくても大丈夫ですよ」


 女神がダンテにそれを伝えると、彼は「そうなんだ」と変化を解いた。


「ペアによる挑戦での場合、男女ペアの挑戦となりますが」

「は?」「え?」


 予想外の条件に、ゼクスとダンテは顔を見合わせた。


「俺は絶対、男以外ありえねぇ!」

「僕も男じゃなきゃ嫌だよ!」


 絶対に男の体が良いと主張し合う二人を見つめながら、女神は静かに彼らに尋ねる。


「それでは、この転生制度・・・・・・『リアドラ』なさいますか?」

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