ブラック職場のファミレスに転職してみたら、やり手の美人上司がなんだか優しい(youtube漫画向けシナリオ)

和泉鷹央

第1話 スーパーバイザー雪乃

生田海斗 26歳 新任ファミレス副店長(転職組) やつれた社会人。過去のトラウマで、仕事において他人を信用できなくなっている。

安藤雪乃 28歳 スーパーバイザー(ファミレスグループのエリート) 低身長、幼い容姿で20歳くらいに見える。

奈良瞳  16歳 ファミレスのアルバイト店員 主に土日にシフトに入る。柳瀬の彼女。

柳瀬琢磨 17歳 瞳の彼氏。


真川家 父、母、子供(5歳と4歳の兄と妹)。

尾野  迷惑客。角刈りのいかつい男。

「」はセリフ。『』は心の声


1 混雑した土曜、夜のファミレス。




〇アルバイト店員、柳瀬が客の案内係。

 店の外まで続く待ち客を見て、悲鳴を上げる。


柳瀬「やべーすよ、生田副店長。待ち時間、30分とかありえねー」

生田「料理の提供は間に合っているから、後片付けだけなんとかしたら、どうにかなる。奈良はまだ来ないのか。19時からのシフト入りだろ」


〇店の電話が鳴り、生田が受話器を手に取る。


生田「はい、○○店です」

奈良「すいません、副店長! 部活がさっき終わって! シフトに入るの20時からになります!」


〇通話が切れる。


生田「嘘だろ。おい、俺は片付けに回るからな。おまえ、次のお客様の注文を先に聞いて、席に案内したと同時に料理を出せるようにしとけ」

柳瀬「分かりました!」


〇山積みになった食器を片付ける生田の目の前には、幸せそうなカップルが座っている。


女「ねえ、これ美味しいよ」

男「まじで。俺も欲しい、あーん」

女「えー、やだー。恥ずかしい、ほらあーん」

生田「くそーイチャイチャするなよな。こっちは死ぬほど忙しいってのに』

生田、食器を抱えて洗い場へ持って行く。

事務所の入り口からスーパーバイザーの雪乃が入店してくる。

生田「あ、安藤スーパーバイザー‥‥‥。お疲れ様です!」


〇雪乃は、じろっと生田をにらみつけて、ため息をつく。


雪乃「副店長がそんなに食器抱えて走り回ってるなんて、なにやってるのかしら。あなたに管理職はまだまだ早かったかもしれないわね」



生田『俺の名は生田海斗、26歳。前職では証券会社に勤めていたが、株が暴落して顧客に損失を与えても会社が儲かればいいと言う、最低な上司に愛想が尽きて、このファミレスに就職した副店長二年目だ。証券会社を辞め、年収が低くなった俺のことを恋人は見限って去って行った。彼女は安藤雪乃、26歳。高卒でアルバイトから始め、グループ最下位だったある店を全国一に押し上げた凄腕のやり手だ。スーパーバイザーとしてこの店を管理する彼女の目は厳しくて、俺はいつも叱られてばかりいた』


2 事務所

 


〇生田と雪乃は事務所のテーブルに対面して座っている。

 雪乃は店のデータを印刷した書類をテーブルの上に並べ、生田を叱責する。


雪乃「お客様に安全で品質の良い食事とサービスを提供して、美味しかった。この店に来てよかったっていう、幸せな時間を体験してもらうことが、私たちの幸せにつながるのよ。だから、サービスには手を抜いたらだめなの。それなのに――」


〇バンっ、と叩かれるテーブル。書類の一つを雪乃は指差した。

 右肩下がりの棒グラフに「顧客アンケート調査結果」とタイトルが書かれている。


雪乃「なんなのこの結果は! お客様に満足していただいてないって証拠じゃない!」

生田「はい、すいません。スーパーバイザー」

雪乃「安藤でいいわよ。いいこと、この店はクリンリネス! つまり掃除ができてないの。軒下にはクモの巣が張ってるし、ドリンクのグラスには指紋が残ってる。食器類は油が取れてない。窓もお客様の手垢だらけ! ソファーも拭かれていない。これは日々やる開店業務で必ずやることよ。なのにどうしてできていないの? あなたの怠慢よ、生田君!」


〇生田、言い訳するようにぼやく。


生田「……すいません、安藤さん。流行の風邪で、早朝のシフトに入ってくれるパートさんが、みんな休みで」

雪乃「言い訳は聞きたくないの。なんとかしなさい!」


〇きつく言い渡す雪乃。

 そんな時、店内から子供の泣き声と男の怒鳴り声が事務所に響いて来る。

 


3 入り口 レジ前 



〇真川家、父、母、兄(5歳)、妹(4歳)。

 子供たちが待ちきれず、泣き出す。


兄「お母さん、お腹空いたー!」

妹「私もお腹空いた‥‥‥うえーん」


〇妹が大声で泣き始める。


母親「ちょっと、良い子だから待ちなさい。みんな待ってるでしょう」

父親「そうだぞ。なあ、俺たばこ吸ってきていいか?」

母親「あなたこそ、子供たち泣き止ませてよ!」


〇「うええーん」と子供たちの泣き声が唱和する。

 角刈りの男、尾野が舌打ちをする。


尾野「あーあ、ガキのしつけもなっちゃいねえのかよ、最近の親わよー」

母親「すいません」

尾野「うるせーんだよ! 公共の場では静かにしなかいゃいけねーって学校で習っただろうが! ガキにどんな教育してんだ、おい!」

父親「あんた、なんなんだ。失礼じゃないか!」

母親「すいません、静かにさせますから」


〇子供たちは更に泣く。


尾野「うるせー!」


〇一気に雰囲気が悪くなる店内。

 先ほどの幸せそうなカップルがびびって手を握り、震えている。


女「なにあれ、なにあれ、怖いんだけど」

男「うわっ、モンスタークレーマーじゃん‥‥‥最悪なとこにきちまったかも」

女「私こわいー」


〇案内役をしていた高校生アルバイト柳瀬がおろおろとして、店奥から現れた生田に目で助けを求める。



生田「なんだ、どうした?」

柳瀬「お客様の子供が待ちきれなくなって泣いたら、あのお客様が怒鳴り始めて‥‥‥」

生田「案内係はお前だろ。とりあえず声掛けしてこい」


〇柳瀬、尾野の方を見る。

 尾野は真川家父親と睨み合っている。

 柳瀬、どうにかしようと、間に割って入る。


柳瀬「おっ、お客様ーっ。そんな大声で叫ばれたら困ります」

尾野「ああっ? 何が困るってんだ? さんざん人を待たせておいて、満足に案内できないのはこの店の方だろうが! 俺が我慢してるってのに、こいつらが我がままを言ってるから教育してやってるんだよ!」

柳瀬「ああうっ‥‥‥それは」

父親「あんた他人の家のことに口出ししてくるなよな。何様のつもりだ?」

尾野「ああ? てめえの教育が悪いから、こんな出来損ないが――」

生田「お客様! それ以上、暴言を吐かれる様でしたら、退店していただきます! 静かにしていただけませんか。大声で叫ばれたのでは話になりません。店内の他のお客様のご迷惑になります」


〇生田、びしっと注意する。

 雪乃、後で腕組みをしながら事の成り行きを見守る。

 柳瀬、客にびびって幾多の後ろに隠れている。


尾野「ぐっ‥‥‥。ふざけんなよ、俺は客だぞ。お客様に帰れって命令していいと思ってんのかよ!」

生田「ここは皆様に利用していただく場所です。他のお客様が嫌な気分になる行為は迷惑行為となります。静かにおまちいただけないでのあれば、大人しく退店していただきます」

尾野「お前っ! こんな馬鹿げたこと言って通用すると思ってんのか? 俺がここの運営会社に苦情を入れたら、お前なんて――」


〇脅しに掛かる尾野。

 生田、少し引き気味でそれでも引かず、忠告する。


生田「クレームは店の宝物です。いただくことで改善すべきものが見えてまいります。もし、お声を頂戴いたしましたら、真摯に受け止めて同じことが起こらないよう、努めてまいります。連絡先をお伝えしたほうがよろしいでしょうか」

尾野「この、俺を馬鹿にするのか?」

生田「とんでもございません。ただ、このまま迷惑行為を続けられたら、警察を呼ぶと言ったことも考えなくてはいけなくなります」

尾野「くそっ! こんな店、二度度くるかよ。おら、そこどけ!」


〇尾野、怒鳴り散らしながら退店していく。

 生田とアルバイト柳瀬は顔を見合わせて、ほっと胸を撫でおろす。

 子供たちがべーっ、と尾野に向けて舌を突き出す。


兄「おじさん、ありがとう! あの人、とっても怖かった!」

妹「……うん。大きな声、怖い‥‥‥ありがとう」


〇妹、上目遣いに生田を見る。

 生田、じーんと心に感動を覚える。


生田『ああ、子供ってなんて可愛いんだ。こんな小さなお客様から感謝されるなんて……あのおっさん、怖かったけど頑張ってよかった!』

母親「ありがとうございました、うちの子たち怯えてしまって」

父親「いやあ、本当に助かりました。俺もあのおっさん、殴ってやりたいくらいだよ」

母親「何言ってるのよ、そんな暴力事件起こしたら、あなたが警察に捕まるでしょ」

兄「お父さん、カッコよかったよ! 店員さんも!」

妹「うん……お父さん、私、怖かった」

父親「よしよし、もう大丈夫だぞ」


〇ひしっと子供たちを抱きしめる父親。母親は微笑んでそれを見ている。後ろにアルバイト柳瀬がやってくる。


柳瀬「お待たせいたしました。席のご用意が整いましたので、案内いたします」

母親「まあ、ちょうどよかったじゃない。ほら、ご飯をいただきましょう」

父親「そうだな、あんな嫌な奴のことなんか忘れて美味しいご飯にしよう」

子供たち「うん」

生田「四名様、ご案内です。どうぞ、ごゆっくりとお過ごしください!」


〇柳瀬に案内されていく真川家。

 その後ろ姿を見送る生田に、雪乃がちょっと手招きをする。



4 店内、事務所



〇設置されている自販機で飲み物を購入する雪乃。

 コーヒー二本が、テーブルに置かれ、雪乃が座る。

 対面して座る生田。


雪乃「最初はどうなるかと思ったけれど、なかなか良かったわ」

生田、コーヒーを飲みながら、「ありがとうございます」

雪乃、ちょっと感心した顔で「どうしてああなったと生田君は思うのかしら」

生田「ホールの人員が足りてないのが原因です。シフトが埋まらないから、料理の提供は出来ても、片付けがままならない。それで、どんどん案内が遅れて行くのが原因です」

雪乃「そこまで分かっているのに、どうして改善できないの?」


〇事務所の裏口が開いて、遅刻したアルバイトの奈良瞳が「お疲れ様です」と挨拶。

 座っている二人を見て「副店長‥‥‥」と驚く。


奈良「遅くなってすいません! 副店長、安藤スーパーバイザー!」

雪乃「安藤さん、でいいいわよ。奈良さん、よね? どうして遅刻なんてしたの。あなたがこれなかったせいで、問題が起きたのよ。これからはきちんとして頂戴」

奈良、青い顔で「はっ、はい! すぐにシフトに入ります! 申し訳ありませんでした」と頭を下げて制服に着替えに向かう。


〇雪乃、険しい顔で。


雪乃「生田君。これもあなたの管理ができてないせいだわ。さっきの対応は良かったけれど、スタッフの管理くらいちゃんとして頂戴。人を揃えることもあなたの仕事の内でしょう?」


〇雪乃は立ち上がり、事務所を出て行く。

 残された生田「あ、はい。お疲れ様です!」と見送りの返事をして、肩を落とす。


生田「そんなにうまくいくなら、こんなに苦労してないって‥‥‥もう二十時か」


〇着替えた奈良がタイムカードを押しに来る。

 シフト表を見て、ため息をついている生田を見て、


奈良「どうしたんですか、副店長。シフト表に何か?」

生田「ああ、明日の朝。開店準備するパートさんがいなくてな。俺の帰宅は、明日の昼過ぎだな」

奈良「げっ、まじですか! 明日、日曜日だし、私、朝ならこれますよ。今日、遅刻したし‥‥‥お詫びに‥‥‥出ましょうか? ホールの準備ならできますし」

生田「え、まじで? それは助かるな。是非、頼むよ」

奈良「分かりました!」

 


5 ホール


〇店の中は落ち着いている。

 柳瀬と奈良が、生田と客のやりあったときのことを話題に挙げている。


奈良「え、そんなクレーマー最悪じゃん、まじでないって」

柳瀬「だろ? 副店長、かっこよかったんだぞ」


〇食事を終えた真川家がレジで精算をしている。

 生田がレジの担当。


生田「この度はご迷惑をおかけしまして、申し訳ありませんでした。料理とサービスはいかがだったでしょうか?」

母親「さっきはとても助かりました。お料理もおいしかったわ」

兄「うん、ハンバーグ、美味しかった」

妹「また食べたいの」

父親「おう、またこような。来月も寄らせてもらいます。ここなら楽しく食事できる」

生田「ありがとうございます。次回のご来店をお待ちしております」


〇柳瀬と奈良、生田の三人で真川家を見送る。


奈良「あ、明日の朝ですけど柳瀬君も出れるって言ってますよ」

生田「いいのか? 日曜日なのに」


〇柳瀬、奈良とうなづいて「大丈夫ですよ」と笑顔で応える。


生田『お前、恋人と一緒に居たいだけだろ、このリア充カップルめ』



6 翌朝。店の厨房。



〇食材の仕込みをしている生田。

 店奥の入り口、ピンポンが鳴らされる。

 ドアホン画面を見たら、雪乃が映っている。


生田「あれ? まだ7時半だぞ。誰だ? 業者はもう来たし‥‥‥安藤さん、なんで!?」

生田『まさか、昨夜の件でクレームが入ったとか。やべえ」


〇生田、青い顔になる。

 私服姿の雪乃。ジーパンにシャツで活動的な恰好。

 スタイルの良さが目立つ。


雪乃「開店準備のスタッフがいないって聞いたから、手伝いに来たの。制服はあるかしら」

生田「スーパーバイザーって‥‥‥店のシフトに入ったらだめだったんじゃないですか。本部にバレたら部長から怒られますよ。俺がやりますから大丈夫です」

雪乃「あのねえ、ここは私が管理してるの。人が足りないなら、誰だってヘルプに入らなきゃ、店が回らないでしょ」

 

〇着替えてきた雪乃。ホールスタッフが着る、可愛いらしいワンピースの制服。


生田『うわっ、安藤さんってスタイルいいし、見た目が幼いから年寄り若く見えて、とっても可愛い‥‥‥。いやいや、違う。でも、良い人なんだな。叱っても最後に助けてくれる上司ってなかなかいないもんな』


〇雪乃、ポケットから紙を取り出す。

「勤怠表 生田海斗」と書かれている。


雪乃「あなた、もう半年間、ずっと残業が100時間越えてるわ。どうしてもっと早くに言わなかったの」

生田「それは‥‥‥」

 

 ×   ×    ×


〇フラッシュバック。


上司「お前がしくじったって俺は責任取らんからな。全部、自分でやるんだ。それが社会人だろ!」


 ×   ×    ×


〇口ごもる生田。雪乃は腕組みして「あなたの前職、私の友達の旦那が同じ会社なの」と告げる。

「え?」と驚く生田。


雪乃「営業成績トップの証券マンだったって聞いたわ。でも上司のミスを押し付けられて辞めたって。私はミスを押し付けるような上司じゃないの。もっと信頼して欲しい」

生田「あ、はい‥‥‥。すいません。知ってらしたんですね」

雪乃「それに、あなたって研修の時からいろいろと他人のことまで気にかけてるのが見えていて、それはいいところだけど。もっと‥‥‥自分を大事にして欲しい」

生田「すいません。安藤さんがそんなに俺のこと考えてくれてるって知らなくて。誰かに迷惑かけるならつい、自分でやろうって‥‥‥」

雪乃「だから、それをこっちに振れっていってるのよ。心配だから‥‥‥」

生田「は? 今何か?」

雪乃「もう、何でもない。話終わり! ほら、開店準備!」


〇タイミングよく、裏口のドアが開く。

 頬を赤く染める雪乃、それをまじまじと見つめる生田。

 雰囲気の良い二人を見て、やってきた奈良と柳瀬が、え? と顔を見合わせる。


奈良「副店長? なんで安藤さんまで」

柳瀬「まさか、安藤さん。副店長のピンチに駆けつけた?」

奈良「え、もしかして二人って――」

雪乃「うるっさいわよ! さっさとシフトに入る!」

奈良&柳瀬「はーい」

生田「あれ、その‥‥‥安藤さん、さっきの奈良の言葉って、え? え?」

雪乃「もう、いいから! それいいからっ! 忘れなさい!」


〇ふんっと顔を真っ赤にして背を向けホールに向かう雪乃。

 呆然と立ち尽くす生田。

 二人のことを陰から見てへー? と楽しむ奈良&柳瀬


生田『この一件以来、安藤さんはヘルプと称してときたま、俺と二人の時間を共有しようとする。厳しい上司の彼女はとてもおっかないが、優しいし良い女性だ。もうすぐクリスマスだし、俺は彼女をデートに誘おうと思っている。休みが取れたらの話だけど、こういう時こそ、普段はたらない店長にお願いするのも悪くないはずだ。クリスマス、彼女に最高の時間と贈り物をサービスしたいと、俺は考えている』



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ブラック職場のファミレスに転職してみたら、やり手の美人上司がなんだか優しい(youtube漫画向けシナリオ) 和泉鷹央 @merouitadori

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