D-2

『おかえりなさい』

 そう言うと、彼の目がきらきらと瞬いた。

 ――夢か。

 暖かい日差しで目を覚ます。

 ここに来てから、どうしてもぐっすり眠ってしまう。

 コーヒーの匂いがして、彼が飲んでいるのかと思ったら、私の分まで淹れてくれたらしい。コーヒーだけじゃない。この数日間、彼はなぜか私の食事を用意してくれていた。倒錯的な状況に、少し笑ってしまう。


「……カナン。なぜ、死にたいんだ?」

 彼が、私の名前を呼んだ。

 私のなかで何かが弾けた。光の粒が降り注いでいるような、幻覚を見た。

 光の粒は地面に落ちたあともちかちかと輝いていたのに、背後から黒い波が襲ってきて真っ暗になった。

「……死にたいんじゃなくて、殺されたいんです。あなたに」

 あなたに殺されることに、意味があるのに。

「――――あなたが、救世主だから」

 籠を壊してくれた人。

 そこが、籠の中だということすら知らなかった――私を救ってくれた救世主。

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