ロリコンヒーローとオタクヒロイン

ざとういち

スポンサー抗争

「ヒーローが出たぞぉ!! 逃げろおおおおおお!!」


 街中を逃げ惑う異形の怪人たち。彼らの背後では、多種多様な鋼鉄の鎧に身を包んだヒーローたちが、獲物を追い詰める肉食動物のような表情で怪人たちを睨んでいた。


「へへへ……。逃がすかよぉ……。お前らをぶっ倒して俺ら“ヒーロー”は甘い蜜を吸わせてもらうぜぇ……」


「や、やめろおおおおお!! ぐわあああああああッ!!」


 ヒーローに襲われ爆殺四散する怪人。辺りでは、無惨な怪人たちの悲鳴がこだましていた。


「そこまでです!!」


「何奴!?」


 そんな悲惨な現場に、光り輝くフリフリの衣装を身に纏った少女たちが舞い降りた。まるで天界から遣われし天使たちのような、神々しいオーラを放っていた。


「て、天使様だ……!! 天使様が俺たち怪人を救いに来てくださったんだ!!」


 ヒーローに襲われていた怪人たちが、救いを求めて一斉に少女たちの元へ駆け寄る、少女たちは笑顔で怪人たちを迎え入れた。


「怪人の皆さん、さぁ、どうぞ! こちらに避難してください……!」


「うぅ……! 慈悲深き天使様……! こんな俺たちに救いの手を差し伸べてくれるなんて……!」


「……あなたたちは私たちの獲物なんですから」


「え……?」


 氷のような冷たい笑みを浮かべる少女たち。次の瞬間、怪人たちは可愛らしいエフェクトに包まれながら次々と消滅していた。


「ギャアアアアアアッ!!」


「あははははははっ!! “ヒーロー”の皆さん!! 怪人は私たち“ヒロイン”が討伐させていただきますね!! スポンサーの皆様、私たちの活躍、とくとご覧あそばせ!」


「クソッタレ!! 出やがったな“ヒロイン”のクズ共め!! スポンサーはテメェらに渡さねぇぞ!! 怪人を“ヒロイン”に渡すな! 俺らで全員狩るぞ!」 


 いがみ合う“ヒーロー”と“ヒロイン”。彼らは、自分たちを支援するスポンサーを巡って日々争いを続けていた。


 街を守るため活躍すればするほど人気が増し、スポンサーから関連商品が販売されるので、“ヒーロー”と“ヒロイン”は、怪人を相手サイドよりも多く討伐しようと躍起になっているのだ。


「チッ……。今日のところは引き分けか……。次はこうは行かねぇぞクソ“ヒロイン”共が……!」


「それはこちらの台詞です。脂ぎったおじさま方。“ヒロイン”が“ヒーロー”よりも優れていること、次こそ証明いたしましょう」


 “ヒーロー”と“ヒロイン”がお互いに同じ数の怪人を討伐し終えると、彼らと彼女らは街から姿を消した。


 ◇


「“ヒーロー”の諸君。今回もご苦労であった」


 都心から離れた地下にある“ヒーロー”の基地では、トップである総司令官が、彼らの戦いに労いの言葉を掛けると共に、今後の戦いについての会議を開いていた。


「“ヒーロー”は“ヒロイン”よりも親御さんへの受けが悪い……。受け入れられる層も限られる。だが、我らはあんな小娘共に屈する訳にはいかん」


「とにかく“ヒロイン”よりも多くの怪人を討伐するのだ。なるべくカッコ良く。必殺技とフォームチェンジを駆使するのだ」


「はっ! 総司令官!」


 会議を終え、“ヒーロー”たちは、次なる戦いまでの間、それぞれの日常へと戻っていく。


「赤沢! 景気付けに飲みに行こうぜ!」


「お、おう。そうだな群青。“ヒーロー”にも休息は必要だもんな……!」


「相変わらず硬い奴だな……。ちょっとは肩の力を抜いたらどうだ?」


「これが俺には普通なんだからしょうがないだろ……」


 赤沢真紅あかざわしんく。赤い鎧に身を包んだ戦士、ヴァーミリオンに変身するヒーローである。


 彼の同僚である群青海ぐんじょうかいと共に、夜の居酒屋へと繰り出した。


「くぅ〜ッ! この一杯があるから俺たちは戦えるってもんだなァ!」


「あんまり飲み過ぎるなよ? いつ怪人が現れるか分からんのだからな」


「また硬いこと言いやがって。怪人なんざ酔ってたってぶっ潰してやらァ!」


「まったくこいつは……。ん……! あれは……」


 居酒屋に設置されている一台の小さなテレビでは、“ヒロイン”が広告塔を務めているコマーシャルが流れていた。


『シュワッと爽快! マジカルソーダ!』


「チッ……。“ヒロイン”の広告か……。せっかく良い気分で飲んでるってのに胸糞悪いぜ」


 画面に映る“ヒロイン”を睨みながら酒を煽る群青。日頃のストレスから、“ヒロイン”への恨み言が止まらない。


「あれは“ヒロイン”の慈愛野じあいのエミだな……。いけ好かない小娘だぜ。いかにも爽やかなアイドルって感じに振る舞いやがって……。お前もそう思うよな。赤沢……」


「えっ!? あ、あぁ……。そうだな……」


 浴びるように酒を飲む群青。それに釣られるように、赤沢も次第に飲む量が増えていった。


「う……。ちょっと飲み過ぎたか……?」


「まったく……。だから言っただろうが……。大丈夫か? 帰れるか?」


「あ、あぁ……。タクシーで帰るから大丈夫だ……。じゃあな赤沢……。また飲みに行こうぜ……」


「おう……。次は気を付けろよ……」


 群青は千鳥足を引きずりながら、通り掛かったタクシーを止め乗り込むと、夜の街から走り去っていった。


「まったく……。しょうがない奴だ……」


 群青とは違い飲む量を抑えていた赤沢は、徒歩で自宅へと帰り始めた。


「あ。あれは……」


 自宅へ向かう途中、大きな看板が赤沢の目に止まった。その看板には、先ほど居酒屋のテレビで流れていた慈愛野エミの姿が大きく貼り出されていた。


「誰もいないよな……」


 赤沢は周りに人がいないことを確かめると、スマホを取り出し、看板を撮影し始めた。


「よし……」


 大量の慈愛野エミの看板の写真を保存し、満足そうにスマホをポケットにしまうと、赤沢は何事もなかったかのように再び歩き始めた。


「ただいま……と」


 帰路についた赤沢。その部屋は、慈愛野エミのポスターやグッズで溢れていた……。


(俺には絶対に誰にも知られてはいけない秘密がある……)


(それは、“ヒロイン”の慈愛野エミさんにガチ恋していることだ……)


(やましい気持ちなどない……! 純粋に俺は彼女の真っ直ぐな人柄に心を惹かれているんだ……。そんな彼女のグッズを買って、俺は慈愛野さんを陰ながら応援しているだけだ……! 本当だ……! 嘘じゃない……! 信じてくれ……!)


(それに、慈愛野さんは現役女子中学生……。俺の恋心は叶う訳もない……。ましてや俺は“ヒーロー”だ……。こんなことが誰かにバレたら終わる……。いろんな意味で何もかもが……)


 叶わぬ恋に思い悩む赤沢。居酒屋で飲んだにも関わらず、冷蔵庫から缶ビールを取り出した。慈愛野エミのことを考えると、飲まずにはいられなかった。


 ◇


 一方。“ヒーロー”たちが会議をしていた頃の“ヒロイン”たち。


「“ヒロイン”の皆さん。今日もお疲れ様でした」


 メルヘンチックな可愛らしい雲や虹で溢れている“ヒロイン”たちの世界。“ヒロイン”たちのまとめ役である女神様が、彼女たちを広場に集めて労をねぎらう言葉を掛けていた。


「“ヒーロー”たちは野蛮で愚かで欲にまみれた薄汚い男たちです。彼らのような大人に、純粋無垢な“ヒロイン”が負ける訳にはいきません」


「怪人たちを懲らしめると共に、“ヒーロー”に自分たちの立場を分からせてあげましょう」


「はいっ!!」


 ヒロインたちは女神様の言葉に元気良く返事を返した。彼女たちにとっては、怪人も“ヒーロー”も大差ない存在なのだった。


「ほんと男は馬鹿ばかりで、関わり合いになりたくもありませんわね。あなたもそうでしょう?慈愛野さん?」


「えっ!? う、うん! そうだね……!」


「わたくしの話を聞いておりましたか? まったく、あなたはどこか抜けてるんですからしっかりしてくださいな」


「えぇ〜? そんなことないよ早乙女さん〜……」


 お嬢様口調の“ヒロイン”早乙女麗華に説教される慈愛野エミ。“ヒーロー”の赤沢真紅がガチ恋している“ヒロイン”の姿がそこにあった。


「あっ! 慈愛野さん! 早乙女さん! これから私たちショッピングモールに行くんだけど2人も一緒に行かない?」


「良いですわね。わたくしもご一緒いたしますわ。慈愛野さんも行きますわよね?」


「あ、うん! 行く行く!」


 エミと麗華は、他の“ヒロイン”たちに誘われ、ショッピングモールへ買い物に出掛けた。


「いや〜、やっぱ広いね〜。次どこ行こっか〜」


 和気あいあいとショッピングを楽しむ“ヒロイン”たち。目当ての店がないかと辺りを見回す。


「あ、見てよこれ」


「えーなにこれー?“ヒーロー”のグッズじゃーん! ワゴンに入れられて半額で売られてるー! めっちゃウケるねー! それでもたくさん売れ残ってるしー!」


「無様ですわね。やはり普段の粗暴な振る舞いが災いしているのでしょうね。市民の皆様はちゃんとそこを分かっていらっしゃるようですわ」


「わたくしたちはこうはなりたくありませんわね? 慈愛野さん?」


「ふぇ!? そ、そうだね!」


「また聞いてませんでしたの? わたくしはあなたが心配でしょうがありませんわ……」


「だ、大丈夫だよ〜……。あ、私ちょっとトイレ行くから、みんなは適当にその辺ブラブラしててよ……! 終わったらメッセージ送るからさ……!」


「おっけおっけ〜。いっといれー」


 トイレへ向かうエミ。麗華たちはエミに言われた通りに、店内を適当にうろつき始めた。……トイレに向かったはずのエミは、柱の影から姿を現した。


「これまだ売ってたんだ……! 買い逃してたからラッキー……!」


 エミはワゴンで売られていた赤沢真紅が変身する“ヒーロー”ヴァーミリオンのソフビを手に取ると、人目を気にしつつ急いでレジへと向かった。


「いや〜、みんなおまたせ〜」


 そして、ソフビをバッグの奥深くに隠すと、何事もなかったかのように麗華たちの元へ合流した。


「ふぅ〜……ただいま〜」


 “ヒロイン”たちとの買い物を終え自室へ戻ったエミ。彼女の部屋は、“ヒーロー”のグッズで溢れ返っていた。特に、赤沢真紅の“ヒーロー”、ヴァーミリオンのグッズの数が頭一つ抜けて多かった。


(実は私はヒーローオタクでめちゃくちゃグッズとか持ってるんだよね……)


(特にヴァーミリオン様は私の推しの“ヒーロー”……! 体から発する熱を利用した必殺技の数々は最高にカッコいい!)


 “ヒロイン”でありながらヒーローオタクだった慈愛野エミ。彼女は目を輝かせながら、憧れの“ヒーロー”ヴァーミリオンへの想いを膨らませていた。


 ◇


 “ヒーロー”と“ヒロイン”が各々の日常を送る中、怪人たちも集会を開いていた。


「“ヒーロー”と“ヒロイン”め……。どこまでも我らの邪魔をしおって……。その上、街中は奴らの広告とグッズで溢れている……。我らも起用しろクソ人間共めが……」


 数々の異形の怪人たちのトップに立つ悪の首領は、“ヒーロー”、“ヒロイン”たちに幾度も野望を阻止され苛立ちを募らせていた。


「何か奴らを陥れられる作戦はないものか……」


「首領様。ワタクシめに名案がございます」


 怪人たちの中から、黒いローブを纏った怪しい風貌の怪人が挙手をした。


「名案だと? なんだ? 言ってみろ」


「“ヒーロー”と“ヒロイン”は互いに憎しみ合い、とても仲が悪いです。それを利用して、我々が手を下さずに潰し合いをさせるのです」


「ほう……。それは興味深い……。では、具体的にどうするのだ?」


 ローブの怪人の背後から、別の怪人が姿を現す。スケルトンボディでマネキンのような姿の怪人が2体、不気味に佇んでいる。


「こちらの怪人、スカムの能力で奴らを撹乱させてみせましょう」


 ◇


 数日後。


「怪人が出たあああああッ!!」


 街に出現した数人の怪人たち。物を破壊し、人々を追い回す。平和なひとときは一変し、街は阿鼻叫喚に包まれる。


「そこまでだ!! “ヒーロー”参上!!」


「“ヒロイン”のわたくしたちが悪を成敗しますわ!!」


 “ヒーロー”と“ヒロイン”たちがそれぞれ姿を現した。だが、お互いを軽蔑し合う彼らは共闘などせず、完全に分かれて戦いを始める。


「今だ。やれスカム!」


「御意」


 ローブの怪人の指示に従い、スケルトンの怪人スカムが、“ヒーロー”と“ヒロイン”を撹乱させる作戦を開始する。


 2体のスカムは、“ヒーロー”側と“ヒロイン”側、それぞれの戦いに紛れ込む。


「よっしゃあ!! “ヒロイン”共よりも怪人をぶっ倒すぞォ!!」


 青い鎧に身を包んだ群青が、1体の怪人にトドメを刺そうとしていた。その時。


「うおっ!?」


 群青の前に、ハートの意匠が特徴的な“ヒロイン”が立ちはだかった。その“ヒロイン”は、慈愛野エミが変身するラブハートであった。群青は邪魔をされ、苛立ちの表情を向ける。


「なんだテメェ……? “ヒーロー”の邪魔をする気か? それでも”ヒロイン”なのかよ?」


「……」


 エミは何も喋らず群青をただ見据えている。その間にも、他の“ヒーロー”が怪人たちと戦いを繰り広げている。


「よし!! こいつはいただいた!!」


 “ヒーロー”の一人が、群青が取り逃がした怪人を今度こそ仕留めようとしていた時であった。


「ぐおああああッ!?」


 “ヒーロー”の背中に、ラブハートの鋭い蹴りが突き刺さった! 不意を突かれた一撃に、“ヒーロー”はたまらず気を失った。


「何をするラブハート!? 血迷ったか!?」


 “ヒーロー”たちはラブハートを取り囲み、抗議しようと彼女に詰め寄った。だが……。


「ぐわあああああああっ!?」


 取り囲まれてもお構いなし。ラブハートは周囲にいた“ヒーロー”たちを薙ぎ倒した! その瞬間を目撃していた群青はラブハートを睨みつけた!


「テ、テメェ……!? ついにやりやがったな!?」


 “ヒロイン”が“ヒーロー”を倒すという暴挙に、群青の怒りは頂点に達した。ラブハートはそんな群青に構わず、戦いの場から姿を消した。


 一方。“ヒーロー”たちから少し離れた場所で、“ヒロイン”たちも怪人と戦いを繰り広げていた。


「覚悟しなさい!!」


 “ヒロイン”の可愛らしい衣装に身を包んだ早乙女麗華が、怪人を仕留めようとしていた。


「な、なんですか!? あなたは!?」


 そんな麗華の元にも、先ほどのラブハートと同じように、今度は赤沢真紅が変身するヴァーミリオンが姿を現した。


「“ヒーロー”が“ヒロイン”の邪魔をすると言うのですか!? 恥を知りなさい……!!」


 ヴァーミリオンは何も喋らない。そして、怪人と戦闘中の“ヒロイン”2人に視線を移した。その2人は、エミたちと買い物をしていた“ヒロイン”であった。


「ふんッ!!」


「きゃああああああッ!?」


 ヴァーミリオンが突如、口から火を吹き“ヒロイン”たちを焼き払った! 炎を浴びた“ヒロイン”たちは火傷を負い、苦しそうに顔を歪めている。


「な、なんて酷いことを……!!」


 麗華の怒りなど無視し、ヴァーミリオンは目にも止まらぬ速さでその場から立ち去った。


「お待ちなさい!! 非道な“ヒーロー”!! やはり、あれが男の本性なのですね……! 外見だけではなく、心まで醜悪な存在ですわ……!」


 “ヒーロー”と“ヒロイン”はお互いに仲間を傷付けられ、怒りに心を支配される。彼らの戦う相手は、怪人ではなくなっていた。


 群青を先頭に“ヒロイン”たちの元へ向かう“ヒーロー”。麗華率いる“ヒロイン”たちは“ヒーロー”を迎え撃つ。


「テメェら……。よくも“ヒーロー”を攻撃しやがったな……。手柄のためなら怪人ごと俺らも排除しようってのかよ……。ぜってぇ許さねぇ……!」


「何をおっしゃっていますの? “ヒーロー”が彼女たちを炎で攻撃したんじゃありませんか……!? 事実すら捏造するなんて、どこまで腐っていますの……!」


 武器を手に取り、“ヒーロー”と“ヒロイン”は戦い始める。普段から憎しみ合う彼らは、冷静に話し合うことなど出来ないのだ。


「慈愛野エミだっけか? あいつはずっと気に入らねぇと思ってたんだ! 不意打ちをかますようなロクでもねぇ人間だってのに良い子ぶりやがって……!!」


「ふざけたことを……!! ヴァーミリオンとかいう野蛮な男こそ、ロクでもない人間ですわ……!! 炎で少女を焼き払うなんて!!」


(慈愛野さんが不意打ちだと……?)


(ヴァーミリオン様が炎……?)


 その話を聞いていた赤沢とエミ。2人は怪訝な表情を浮かべていた。


 ◇


「ククク……。愚かな奴らだ」


 “ヒーロー”と“ヒロイン”の戦いから離れた場所で、慈愛野エミが変身しているラブハートが、一人で不敵に笑っていた。


「貴様……」


「……っ!?」


 そこに赤沢が変身しているヴァーミリオンが姿を現した。ラブハートは不敵な笑顔でヴァーミリオンへ暴言を吐いた。


「私は“ヒーロー”が憎いのよ……。あんな奴ら全員死んでしまえば良いの……」


「ふざけるなッ!!」


「ぐはっ!?」


 ヴァーミリオンは右手に光熱を発すると、その拳をラブハートの顔に叩き込んだ!


「慈愛野さんはそんな悪い子じゃねぇッ!! 真面目で優しい良い子なんだァ!! それに良い匂いで髪はサラサラで肌もツヤツヤ。お菓子を作るのが趣味で友達にもよく配っている!! 気の利く女の子なんだァ!!(SNS調べ)」


「な……なんなんだこいつは……!?」


 ◇


 ヴァーミリオンがラブハートと戦っている時。


「ククク……。これで“ヒロイン”はおしまいだ……」


 ヴァーミリオンがひと気のない路地裏で怪しげな笑みを浮かべていた。


「そこで何してるの……?」


「……っ!?」


 ヴァーミリオンの元に現れた慈愛野エミが変身するラブハート。ヴァーミリオンは炎を両手から発し臨戦態勢に入る。


「死ねッ!!」


 ラブハートはヴァーミリオンの炎を掻い潜り、一気に接近する!


「おりゃあッ!!」


「うおっ!?」


 ラブハートの拳がヴァーミリオンの腹部に突き刺さる! ヴァーミリオンは苦痛に顔を歪めながら、フラフラと後ずさっている。


「許せない……。絶対に許せない……!!」


 怒りのあまり拳を握り締めるラブハート。そして、ヴァーミリオンを睨み付ける。


「ヴァーミリオン様は熱で戦うの……!! 炎なんか使わないのよ……!! この、偽物野郎ォ……。その程度の知識でヴァーミリオン様のコスプレをするなんて許さない……。オタクの風上にも置けない奴めッ!!」


「な……!? オ、オタク……!?」


 ラブハートは闘志を剥き出しにして、偽ヴァーミリオンを一気に攻め立てる! あまりの猛攻にたまらず偽ヴァーミリオンは逃げ出した……!


「クソ……!! なんなんだあの小娘は!? 何故、他の“ヒーロー”を攻撃しない!?」


「ぐおわああああッ!!」


「……ッ!?」


 逃げる偽ヴァーミリオンの元に、どこからかラブハートが吹き飛んで来た。ラブハートは徐々に形が崩れ、スケルトンボディの怪人スカムへと姿を変えた。


「ようやく正体を現したか。偽ラブハートめッ!!」


 偽ヴァーミリオンの前に、本物のヴァーミリオンが姿を現した……! 怪人スカムが、ヴァーミリオンとラブハートに姿を変え、“ヒーロー”と“ヒロイン”を攻撃していたのであった。


「あああああああっ!! あな、あなたは!! 本物のヴァーミリオン様ぁ!?」


「そそそそ、そういう君は本物のラブハートさん!?」


 偽ヴァーミリオンを追い、駆け付けたラブハート。彼女は本物のヴァーミリオンを目にして大興奮していた。それは、慈愛野エミにガチ恋しているヴァーミリオンも同じだった。


「いつもヴァーミリオン様の活躍は拝見しております! こんなところで会えるなんて光栄でありますぅ!!」


「いえいえ! 俺の方こそラブハートさんの前向きな姿にいつも支えられて、毎日頑張れるんですッ!!」


 お互いに頭を下げ続けるヴァーミリオンとラブハート。日頃隠している感情が、本人に会えたことで爆発してしまっていた……。


「くっ……!! 我らを放置して何を浮かれているのだ……!!」


「こうなったら真の力を見せてやるぞ……!!」


「合体ッ!!」


 2体のスカムはグニャグニャと身体を変形させ絡ませると、1体の巨大な怪人へと姿を変えた。不気味な触手が無数に生えている化け物と化したスカムが、ヴァーミリオンとラブハートに向けて攻撃を開始する!


「うわっと!」


「大丈夫ですか……!? ラブハートさん……!?」


「は、はい! だいじょぶです! ヴァーミリオン様っ!」


 ヴァーミリオンとラブハートは体勢を立て直し、巨大化したスカムへと向き直る。


「あ、あの……! ヴァーミリオン様! 2人で協力してあいつやっつける……とかど、どうですかっ!?」


「い、良いんですか!? はぁはぁ……! えっと!! 俺は全然嬉しいんですけど……。あの、大丈夫ですか!? はぁはぁ……!」


「えっ!? 分かりません!! でも!! とにかく今はあいつやっつけないといけない気がしますっ!!」


「そうですねッ!! 俺もそう思います!!」


「ええい!! 何をゴチャゴチャと喋っているのだ!?」


 ヴァーミリオンとラブハートのぎこちない会話にイライラを募らせるスカム。無数の触手を振り回し、2人に猛攻を仕掛ける!


「じゃ、じゃあ行きますよッ!? ラブハートさんッ!!」


「はいっ!! ヴァーミリオン様!!」


 先陣を切るヴァーミリオン! 熱を発しながら触手を薙ぎ払う!


「ぐおおおおおッ!? おのれえええええ!!」


 周囲の触手に気を取られているヴァーミリオンの隙を突き、正面から攻撃を仕掛けるスカム。


「ヴァーミリオン様っ!!」


 そこへラブハートが真っ直ぐ突っ込んで来た! ヴァーミリオンに攻撃が届く前に、触手を拳で粉砕していく! ヴァーミリオンはあらかじめ分かっていたかのような表情を浮かべていた。


「な、なんだとォ……!?」


(ラブハートさんはいつでも真っ直ぐな女の子なんだ! 戦いの時、何を考えているかくらい手に取るように分かるッ!!)


「ヴァーミリオン様っ!! あの怪人の中央部分!! あそこが弱点なのでは!? ヴァーミリオン様の必殺技、“オーバーヒート”なら貫けるのでは……!?」


「俺の必殺技なんてよく知ってますね……!?」


「え、えぇ! まぁ……!?」


(ヴァーミリオン様の必殺技なら全部暗記してますから!)


「なんなのだこのコンビネーションは!? “ヒーロー”と“ヒロイン”は仲が悪いのではなかったのか!?」


 建物の影からスカムの戦いを見ていたローブの怪人。“ヒーロー”と“ヒロイン”の関係性を把握していた彼は、誰よりもヴァーミリオンとラブハートの共闘に驚愕していた。


「くたばれええええッ!!」


 弱点を狙われそうになっているスカムが、ヴァーミリオンを触手で集中攻撃する! だが、ラブハートが全ての触手を吹き飛ばす!


「くそおおおおおおッ!! このままでは分が悪い!! ここは撤退して態勢を立て直すッ!!」


「あいつ、逃げるつもりか!?」


 ヴァーミリオンとラブハートに手も足も出ない合体スカム。巨体を収縮させ、身軽になった身体で上空へと飛び上がりそのまま逃亡を図ろうとする……!


「ヴァーミリオン様! 跳んでください! 私がアシストしますからっ!」


「わ、分かりました!!」


 ヴァーミリオンは勢いよく跳び上がった! 驚異的な跳躍力だが、それでもスカムには届かない……!


「ヴァーミリオン様っ!!」


 ラブハートは上空のヴァーミリオンの足に自身の足を重ねた。そのままヴァーミリオンをさらに上空へと蹴り上げる!


 ヴァーミリオンは、ラブハートの援護で一気にスカムの元へと到達する!


「な、何ィッ!?」


「うおおおおおおおッ!! “オーバーヒート”ッ!!」


 手のひらに集中させた熱を、スカムの弱点へと叩き込む! 凄まじい高温に、スカムの身体は真っ赤に変色していく……!


「ぐああああああああッ!?」


 スカムは断末魔と共に、盛大に爆発四散した。


「おのれ“ヒーロー”、“ヒロイン”! 次は必ず貴様らを潰す!!」


 ローブの怪人はスカムの最期を見届けると、薄暗い路地裏へと姿を消した。


「いやぁ……!! ラブハートさんのおかげで怪人をやっつけられました!」


「いえいえ! 私なんかいなくたってヴァーミリオン様なら一人でやっつけられましたから……!!」


「ぷっ……。あははははっ!」


 手柄を奪い合う他の“ヒーロー”と“ヒロイン”と違い、譲り合うヴァーミリオンとラブハート。その状況がなんだか面白くなり2人は吹き出し笑いあった。そして、ラブハートは赤面しながらヴァーミリオンのマスクを覗き込んだ。


「やっぱり、ヴァーミリオン様は素敵な“ヒーロー”です……!」


(あ、あわわわ……。あのラブハートさんが、俺のことを見つめている……! た、耐えろ俺! ここで変な気を起こすと人生が終わるぞ……。だけど、ちょっと肩を抱くくらいなら……。えへへ……)


「そこまでですわ!!」


「ぎゃあああああああッ!?」


 理性が揺らぎ、ラブハートにボディタッチしそうになっていたヴァーミリオンの顔に、麗華の強烈なドロップキックが決まっていた。


「この卑劣なヒーローめ!! ラブハートから離れなさい……!!」


「よくも“ヒロイン”を傷付けたわね……!! 制裁してやるわ……!!」


「ふぐおおおおおッ!?」


「ちょ!? 違うの!! 誤解なんだってばーっ!!」


 “ヒロイン”たちにボコボコにされるヴァーミリオン。“ヒロイン”襲撃の真犯人をラブハートが必死に説明して、なんとか誤解は晴れた……。


 憎しみ合う“ヒーロー”と“ヒロイン”。そんな関係の中、好意を寄せ合うヴァーミリオンとラブハート。彼らの恋が成就する日は訪れるのだろうか……。

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ロリコンヒーローとオタクヒロイン ざとういち @zatou01

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