第19話 ヤバイ先輩
メヱコは先程剥かれた林檎口に入れ、ヒトナリの方をじっと見つめていた。
その品定めをする様な視線に、ヒトナリの身体は強ばる。
「んー……」
「なんすか」
「いや、ヒトナリくんなんか変わったなって。
なんだっけ?男子3日抜かずばシモギンギン」
「男子3日合わざるば刮目して見よ!!
なんでド下ネタになるんだよっ!?
何一つあってねぇよ!?」
傷に響くからツッコませないで欲しい。
仮にこの台詞をメヱコに言ってしまったら、また別口の下ネタが襲ってくるだろう。
ヒトナリはグッと我慢する。
「まー意味はどうであれ、なんであれー……ヒトナリくんが変わったのは事実。
なんかいい出会いでもあった?
もしかしてさっきの、ぽっちゃりオジサンが関係してたり?」
「はぁ……。俺もこんなに早く冬道先輩に会えるとは思っていませんでしたよ。
ええ、今は民間でイクサバを追ってます」
彼の言葉を聞いたメヱコの瞳がキラリと光った。
「へー。へぇー、そうなんだぁ。
ちゃんと莫迦になってるねぇ。愚直なヒトナリ君が私は1番好きだよ。
そうか。雰囲気が変わったのは……殺し止めたんだ」
メヱコの言葉にヒトナリは一瞬の寒気を覚える。
まさにゾクリと表現することが相応しい威圧感を彼女は放っていた。
「もう……俺は民間ですから」
「でも使ってる刀、殺しを止めたヒトナリ君には向いてないねぇ」
何時、何処から取り出したのか。
メヱコの手には、イクサバから与えられた漆黒の刀身を持つ抜き身の刀があった。
「なんでそれを冬道先輩がっ!?」
「ヒトナリ君たちと春夏冬ケンを回収した時、ヒトナリくんの意識が朦朧としてたから、代わりに津田さんが保管してたんだよ」
「……メヱコさん、もしかしてスカウト先って」
「お、やっと気付いたなー?そ、公安。
私の神異って汎用性高いからね。
アッチの仕事とも相性いいし。
あ、公安内部でも口に出せない所にいるから、これ以上は内緒」
メヱコは口元に指を当て、内緒のジェスチャーをする。
ヒトナリは納得した様に呆れた笑みを彼女に向けた。
「刀返してくださいよ。色々調べ終わったんでしょ?」
「うん、特に特別な何かは無かった。強いて言うなら、ものすごく鋭くて、ものすごく硬い。
様々な合金で造られていて、一つ一つの純度も低いはずなのに。
なんでこんな硬度の刀があるんだろうって、技術部の人も驚いてたよ」
「俺は使う側の人間なんで、詳しいことは分かりませんが、有り得ない事がこの刀に在る、ということだけは分かりましたよ」
「銘はあるの?」
「いや、特に知らないし考えてもいません」
「武器は自分で名前付けた方が愛着わくよ。
考えてみたら?」
「時間があれば……」
ヒトナリはメヱコから渡された刀を見る。
あの時は切羽詰まっていたため、よく観察することは出来なかった。
が、見れば見るほどこの刀は人を殺す為にのみ、存在していると理解させられた。
まるで、刀がそうであると言うように。
「なるほど。上司が津田さんと……。
なんか、春夏冬ケンの時といい、なんといい……ピースが繋がってきた。
冬道先輩、もしかして俺……公安にマークされてます?」
メヱコは冷たく鋭い視線をヒトナリに向ける。
ヒトナリは思わず、ベットから跳ね起き臨戦態勢を取った。
「ぷっ……あっはぁはぁはぁ!!」
「は?」
「いやー、ちゃんと動けるじゃーん?冗談、冗談。
私がヒトナリくんに勝てる訳ないんだからっ!」
「冗談だとしてもタチが悪ィ!?つーか質問の解答になってねぇ!!」
「凄い跳ね方してたよ!やばー、動画投稿サイトに出したら有名人になれるね、ヒトナリ君!」
「やめ、やめろぉー!!」
メヱコはスマートフォンを構え、狼狽えるヒトナリは撮影しようとする。
ヒトナリは逆にスマートフォンを取り上げようと躍起になっていた。
「しないしないっ!しないからっ!!……はぁー面白かった。
後で見返そ」
「ほんと、勘弁してくださいよ」
メヱコのツボがヒトナリには分からなかった。
というより対神課時代から彼女のことを理解出来なかった。
ただ実力は確かであったし、居心地が悪かった訳でもない。
お互いに踏み込もうとしなかったから上手く関係を築けているのかもしれない、とヒトナリは今更考えた。
「で、公安がヒトナリ君をマークしてるって?」
「うわっ、急に真面目になるなこの人」
「メリハリと節度を持って生きているので余裕です」
「アンタの口から1番信用ならない言葉が出たよ」
ピースサインを向けるメヱコにヒトナリは思わず冷静なツッコミを入れてしまった。
「安心して、マークはしてないよ。
むしろヒトナリくんに公安はとても感謝してるんだ」
「……どういうことです?」
「ヒトナリ君……今の君は囮だ」
「俺が……囮……?」
「そ。唯一イクサバと接触していきてる警察官だったんだよ。君は。
この武器も、イクサバから貰ったやつでしょ?」
「……不本意ながら」
「ヒトナリくんは、2回イクサバに接触してる訳だ。
しかも大層な刀まで貰っちゃってさ。
君、気に入られてんじゃないの?」
ヒトナリはイクサバの言葉を思い出した。
『ワタシ、貴方のこと気に入ってるんですよね』
仇に気に入られるとは。我ながらどんな人間なんだ、とヒトナリは自嘲気味に心に呟く。
「えぇ、本人から気に入ってるって言葉を聞きましたよ」
「へぇー、面白いね。心境は?」
「めちゃくちゃ気持ち悪い。
……仲間の仇、憎悪の対象から好かれるのってこうも虫唾が走るんですね」
「ってことは、まだ接触してくる可能性があるんだ」
「……恐らく」
ヒトナリはイクサバに、次に会う時は殺すと言った。
だが、そんなことお構い無しに奴は来るのだろう。
いや、絶対くる。そんな確信を持っていた。
「じゃあ、引き続きヒトナリくんは囮として機能してもらおうか。
大丈夫、生活とかは縛らないし、ただいつも通り過ごしてくれるだけでいいよ
公安は然るべき時に動くだけだから」
「実質、『監視してます』って言ってる様なもんでしょ。その口ぶりじゃあ」
「お風呂とトイレと……布団の中でモゾモゾしてるのは流石に見ないからね」
「あああ、当たり前じゃあァ!!」
公安の実質的な監視、そしてイクサバの目的。
ミヤビの見る先の世界。
ヒトナリの脳内は、いくつもの疑問が駆けずり回っていた。
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