偽史神異1999
415(アズマジュウゴ)
第1話 フジミノヒトナリ
無機質な天井。間隔を一定に保つ心電図。蛍光灯の人工的な灯り。病室で男は目覚めた。
「……生きてる」
男の名は
「あっ、ヒトナリくん起きた」
「
「約3日だよー。私、体感1週間くらいの疲労を感じてるけど」
首を傾ける動作も今の彼にとっては厳しいらしく、耳と視線の動きで声の主“
「E班の皆は……生きてるのか?」
「それはヒトナリくん自身が1番わかってるでしょ?」
「……全滅か」
「君と私以外を除いてね。私は非番だったから兎も角、現場で生き残ったのは君だけ。ていうーか君の傷さ、殆ど確保に駆けつけた警官の暴行だったよ。どうせ怒らせること言ったんでしょ?」
「勘違い8割、俺の言葉2割ですかね」
「2割でその傷は相当でしょ」
無情な現実にヒトナリは涙が流れると思った。だが実際の所、彼の眼から水が零れることは無かった。
「起きて早々だけど、明日には審問会が開かれる。私は信じてないけど上層部は“この事件”を引き起こした張本人をヒトナリくんだと思ってるよ」
「俺だって何が起きたんだかさっぱりですよ……」
「だとしても、容赦無く詰めてくるのが上のやり方でしょ?メンツ勿論、今後のマスコミ対応も控えてるだろうし……基本アウェーだから覚悟しないとね。それと……はいコレ」
メヱコが取り出した書類には以下の文章が記されていた。
【
E班管理官
・野々村ミヤビ
E班所属2名。
・冬道メヱコ
・藤實ヒトナリ
E班は先日の任務において壊滅的な被害を受けたため、人員不足による解体が決定した。両名の今後の処遇は後日追って連絡する。
「解体まで決まってるんですね。こういう仕事だけは早いな」
「実際私たちに出来ることは何もないね。ミヤビさんもまだ立場はあるものの、状況は良くないみたいだね」
「冬道先輩、俺は……」
「ちなみに私は再就職先決まったから。優秀なもんでスカウトされてんだー。お給金もそれなりに良いみたいだぜ?これも不幸中の幸いってヤツ?」
彼女の淡白な対応に、ヒトナリは疑問を持たなかった。既に彼女なりに割り切り終わったのだろう。むしろヒトナリは、彼女の切り替えの速さに感心を覚えた。
「……ヒトナリくんだけに伝えとく。私は私なりに真相を追うよ」
「……」
「去年の休暇、覚えてる?」
「E班の皆で冬道先輩の地元に旅行したことですか?」
「そ!あの時、来年もスケートしようって約束したじゃん?それが叶えられないことが唯一の心残り」
「あぁ、そういえばライトがカナに告白したのもそのタイミングだったか。カツヤ班長『対神課内の恋愛は御法度だー!』って怒ってたけな。あの人結局許して祝福してたけど。……でも冬道先輩。それだけの……たったそれだけの理由で真相を追うことが出来るんですか?正直、俺はもっと確固たる理由が必要だと思います」
メエコはヒトナリの言葉にキョトンとした後、口角をにんまりと上げ答えた。
「固いよーヒトナリくん。逆に考えてみ?私は“それだけ”の理由で誰かも分からない犯人を追えるんだよ。それくらいマジだってこと。自分の行動に深い理由を付ける意味なんて無い。軽くたって浅くたって、シンプルでいいんだよ。
「莫迦でシンプルに……ですか」
「ま、よく適当ぶっこく私の持論ですけどねー。がんばれよヒトナリくん。君の行動次第じゃ、また私と会えるかもね。その時はよろしく。あ、そこのうさちゃんリンゴ、好きに食べてね」
メヱコはそう告げると、憂いを帯びた笑みを向け、長い黒髪を翻して病室から出ていった。
「俺のやるべき事……」
虚空の中に一つ、黒く禍々しい火が灯る。ヒトナリに宿る風前の灯火は体を、心を、思考を、いずれその全てを焼き尽くすだろう。
藤實ヒトナリは密かに誓いを口にする。
「復讐」
誰に聞かせる訳でもなく紡いだ言葉は、口にするには浅く容易く、意味を成すにはあまりにも深く重い一言だった。
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