イヌの名は。
川谷パルテノン
第1話 イントロ
父が犬を拾ってきた。母も姉もそれをたいそう可愛がった。めでたしめでたし。お了わない。この犬、私にはべらぼうに偉そうだった。先ずもって私からの餌付けには応じない。餌をやろうとした時手首のあたりまで飲み込まん勢いでかぶりつかれた。私は狂犬病の検査をうける羽目になった。犬の名はバッドネイム。正確にはユギブラババッドネイム。ボンジョヴィ好きの父がつけた名前だ。私の名前もリッチー(ボンジョヴィのギター)にしようとして母が止めたらしい。どうかしてる。犬は、バッドネイムなるその名をどう感じているのか知らないが私がリッチーだったなら父とは今も口をきかなかったろう。けれどバッドネイムはそんな素っ頓狂な父より私を毛嫌いした。噛まれて以来、私とバッドネイムの仲は険悪ながら他の家族には尻尾フリフリなこのクソ犬の態度によってその溝が埋まることはまずないのだった。
その日。運命の転機。外はプリンセス悪天候。雷鳴轟くものものしい空気が漂っていた。私は登校の準備を終え玄関扉を開放する。途端クソ犬バッドネイムがテンション狂ったのか私の足元を擦り抜けダッシュで逃亡を開始。私は反射的に追いかけていた。あの走り方は狂気じみていると直感する私。私としたことが狂える犬を微塵なり心配してしまったのだ。私がようやく追いついた時、案の定クソ犬は大通りの交差点で車道に突進を図っていた。「危ない!」この時間帯はバンバントラックが縦横無尽右往左往するのだ。で右往してきたのだ。右往に対してバッドネイムは直撃しようとしていた。私は飛び跳ねた。バッドネイムをなんとか射程に納めそれを掴み取ると抱きかかえズザザザザと滑るようにして対岸へと身をスライドさせた、そんな気がした。実際の映像はYouTubeにてアップします。右往が急ブレーキを引いたおかげで衝突は免れ私たちは事なきを得たのだがそんな急死に一生の場面でもふてこい顔の駄犬を私はぶん殴ってやらないと気が済まない。擦り傷で全身に痛みが走りながらも私はお前が泣くまで殴るのをやめない。気持ちはそうだった。手を振り上げたその瞬間、目の前がまっちろけになって意識が飛んだ。サンダーボルト。
次に目覚めた時、私の視線はやけに低かった。父、母、姉の安堵の声。それは確かに私に向けられたものだが私はそれを客観視。よもやこれが聞きしに勝る幽体離脱。
「バッドネイムもよかったぁ 無事で」
「バウ?」
母の視線はクソ犬ならず私に向けられている。頭に包帯を巻いた私が私を見ながらニチアと口角を吊り上げていた。バウ? もしかして私たち──
「バウ?」
入れ替わってた。
【次回予告】突然の落雷直撃によって身体と精神が入れ替わってしまった私とバッドネイム! どうなつてるのこの島はドーナッツツ! 次回 銀牙-流れ星銀- 「VS赤兜!」
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