地下第六層



 カキン。どかっ。ざしゅん。


 パパラパッパッパー。


「――にゃーうぃん。おとといきやがれ! ニャ」


「ゼンブ倒シタ?」


「お疲れチャーン」


「おめーら、戦えニャ。なんでもかんでも〈猫〉に委せるニャ」


「だから強化魔法のフルコースをごちそうしたげただろ。体力マシマシ、攻撃力ムキムキ。数値をあげて、物理でたたく。これ、なべて戦いの極意」


「そんニャの〈猫〉の戦いかたじゃねーニャ。〈猫〉はもっとこー、美しき女怪盗? みたいのニャん」


「マタノ名ヲふじみねこ」


「おぬし魔法ならほんとになんでも使えるんぢゃな、人類最強。四天王の中でも最弱枠の〈猫〉を一瞬で強キャラに仕立ておって」


「お姉さまっ、〈猫〉ってそんな役ニャわり?」


「この地下で大火力の魔法をぶっ放すわけにもいかんだろ。派手なエフェクトの物理魔法を駆使できるからってだけで、世界最強を名乗ってるそこらの有象無象といっしょにすな、といいたいぜ」



「――賛成デス、全面的に賛成デスッ! 先生っ」



「……誰?」


「新キャラ登場じゃない?」


「はっ。自己紹介が遅れました。ボクは福音司祭のジェリコっていうデス。危ないところを助けていただき、ありがとございました!」


「こんなちびっこがなんで六層くんだりにおるんぢゃ?」


「失礼デスねっ。こう見えてもボクは十二歳デース」


「十二歳児がおちびぢゃなかったら、いったいどの辺りがちびっこになるのであろ?」


「まー、こンくらいのときがガキ扱いされると、いちばんかちーんとくる年頃じゃないかしら」


「あのあのあのっ、もしかして失礼デスけど、先生はあのマリクシード・ル・ボン先生ではありませんか?」


「あのがどれを指しているのかは知らないが、確かにマリクシード・ル・ボンではあるな。先生はやめてくれっか?」


「ボクボクボク、先生の御本で魔法覚えたんデスよ。感激だなあ。ほんとうに勇者のおにいさんといっしょに旅してるといろんなヒトに出会えるもんだ。新興宗教の神サマなんかやってるより、よっぽど勉強になるなあ」


「人類最強、本なんて書いておったんぢゃな」


「いや、いまのはツッコミどころ、そこじゃないだろ」


「新興宗教ノ神サマ?」


「そこも気になるっちゃー気になるけど、深く追求するのはやめとこう。闇が深そうだし」


「そなたは勇者の一行のメンバーなのか? やつめとともに世界をまるっと救うつもりだったのかや、小僧?」


「そうデスけど。おねえさん、さっきボクのこと不思議がってましたけど、おねえさんだってじゅうぶん奇妙デスよ。キレーなだけのただのおねえさんが、どうして『世界の臍』のこんな奥深くにいるんデス?」


「ねえ、聞いた? キレイだって。わらわ、十二歳児にキレイなお姉さん認定されちった」


「そんなン、いわれなれてンじゃねえの?」


「〈猫〉はいつもいってるニャ。お姉さまの美しさは大罪級ニャ」


「ココハみすてりあすニ微笑ンデ、読者ノ想像力ヲカキタテルトコロ。ヤレヤレ、ワガ主ハ何モワカッテナイ」


「マリクシード先生はともかく、いっしょにいるのが魔物って、助けてもらっておいてなんデスけど、返答しだいではボクも考えなければならないかもしれませんね」


「安心するがよみ。わらわに戦闘の意志はない。コーサンだ。それを勇者に伝えにきた」


「勇者のおにいさんに?……降参?……もしかしておねえさんは――」


「そうぢゃ、わらわこそ――」



「へっくしょいビャ」



「……ベタだな」


「ないスベタ!」


「ちちちちがうニャ。いまのわざとニャニャいにゃー。ほんとニャほんとニャ、信じておにゃーしゃまっ」


「もーよみっ。わらわ、帰ってクソして寝る!」


「ごめんニャごめんニャ。どーしてそんなこというニャ? 〈猫〉のお姉さまはうんこなんてしないんニャのにー」


「そっちかよ!」


「しますぅー魔王はうんこしますぅーぶりぶりですぅーザンネンでしたー」


「ソノフザケタ幻想ヲおとなゲナクブチ殺シタ」


「……マリクシード先生、これがほんとにあの魔王なんですか? 人類の敵? だとしたら、ボクらっていったい――」


「生きろ。強く。これが現実ってやつだから」


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