スティルポイント・オブ・ザ・ターニングワールド
地上いりぐち
「魔王。ほんとに地下に潜るんだったら、全身から放出するその瘴気をとめやがれ」
「え、なんで。そなたなら平気であろ?」
「おれの話じゃねえよ。地下にはほかにも探掘家や、そもそも勇者ご一行がいるわけだろ。いくら世界の裏側まで通じてるといわれる大穴でも、突き詰めりゃこン中は密室も同然。魔王クラスのやつが瘴気を放出しつづけりゃ、そのうちいっぱいンなって、死傷者がわんさかでることンなる」
「わらわが聞いた話ぢゃと、ここはもともと瘴気が濃いとゆーことぢゃけど?」
「最下層まで潜ればな。ソコら辺まで下りると、キョーアクな野性の魔物がぞろぞろ這いよってくらあ。でも地上に近いところはそーでもない」
「なんじゃ、その野性の魔物って?」
「おまえさんより以前の、先代とか先々代の魔王軍の生き残り。地上の環境に適応できたのが細々と生き続けてるってわけだ。数的に世界の脅威にはなりえないが、その地域にとってはときどき大規模な災害につながることもある。魔王のくせに知らないのか?」
「わらわ放任主義ぢゃもん」
「マタノ名ヲねぐれくと」
「そンだけの力がありながら、地上侵攻がまったく進まなかったのも納得の回答だなあ」
「でもわらわ、瘴気の放出ゼロの人類モードに変身しちゃうと戦闘力だだ下がりよ? まさに魔王さまLV.1ってレベル」
「ある程度まではおれが守ってやる」
「きゅーん。何、わらわをときめかせてどーするつもり?」
「ハッ。ラブコメの波動を感じるブヒッ、っていーかげん、もとに戻すニャー!」
「ヘンッ。厄介ごとは早く片づけたいだけだ」
「スバラシキてんぷれ、ノ世界ヘようこそ」
「そこまでゆーならしかたがあるまいて。〈猫〉、〈巨匠〉、そなたらもわらわを守ってね」
「お姉さま命っ、お姉さま命っ、こここのメス豚の命に代えてもお護りしますブヒャー」
「コノ魔王ノ手ヲ離サナイ。 吾輩ノ魂ゴト、離シテシマウ気ガスルカラ――」
「ところで人類最強よ。それだけくわしいとゆーことは、ここには以前にもきたことがあるのかや」
「ああ。おれたちのような無頼漢にはよく知られた狩り場だからな」
「狩り場?」
「野性の魔物は、正規の魔王軍の魔物とちがって殺しても瘴気化しないのさ。さすがに食用には使えないけど、装備の原材料や燃料として屍体が利用可能なんだ。産業として国家がでしゃばればあっちゅー間に枯渇する規模でしかないが、腕に覚えのあるやつが自分のフトコロを潤すぶんには不足ない。地上に近いところにはザコ魔物しかおらんくて、下へ潜れば潜るほど魔物の強さがあがってくから、初心者から達人級まで、戦闘訓練を行いたいやつらにとって、ここはとりわけぴったりときてる」
「またしても人類に都合がいー。まあよみ、んぢゃ道案内は委せたぞい」
「残念だけど、この『世界の臍』ははいるたびに地形が変化する魔境だ」
「あー、そーゆーやつね、知っとる知っとる」
「ろーぐらいく、マタノ名ヲ不思議ノだんじょん」
「つっても固い岩盤がこちとらの都合にあわせてコソコソ動くわけじゃあるまいし、おそらく幻覚のたぐいだろうっていわれてんな。なんにしろ、最深部までの詳細な地図が描かれたことは一度もない」
「わらわたちも地道に探索してくしかないのね」
「心配するこたあねえ。人類にとって、ここが世界屈指の難所とされてんのは、複雑な地形や遭遇する魔物との戦闘と同時進行で、潜るにしたがって濃くなっていく瘴気への対策に逐われるからという点がいちばんおおきい。瘴気のみちた場所ではヒトがくえる食材もほとんど見つからなくなってくるし、な。その点についちゃ、このパーティーは端からクリアーされてンだから、あとはのんびり目的を、つまり勇者ご一行の行方を探しゃいい」
「戦略性をうっちゃって、ひたすら突き進むだけ、ぢゃな!」
「コレゾ魔王ノ覇道。マタノ名ヲでばっぐもーど」
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