7 森にて
【主な出演者】
魔王
副官(エパメノインダサ)
地霊(スマートオブジェクト)
アンソニー・セガール(特別出演)
「誰かおるな」
「わが魔王?」
「姿を現すがよみ。そこにいるのはわかっておる」
「……。何もいないようですが」
「いや、おる」
「わが魔王?」
「いるったらいるの!」
「わかりました。ではこの辺りの木々を焼き払いましょう。その程度の魔法ならいまのわたしでも行使できますので」
「そこまでしなくてよみ。たぶん、精霊、ヤ、地霊のたぐいじゃ。あやつらの特殊な言語で頭の中に直接命令してきよる。こっちへ行け、そっちは駄目だ、などとわらわの行きさきをコントロールしよーとしやがって」
「はあ」
「何、その痛々しいものを見る目つき。さては〈副官〉ちゃん、信じとらんね?」
「いいえ。このエパメノインダサ、わが魔王にどこまでもついていく所存です」
「わあったわあった。ほいじゃあちょっとだけわらわの遊びにつきあってみるがよみ」
「遊び、ですか?」
「目隠しオニぢゃ」
「なんですか、それは。ってどうしてくびのまわりに着色した瘴気を吹きかけるのです?」
「びろびろびろーん。〈副官〉ちゃんは『くらやみ』につつまれた!」
「解除してもよろしいですか?」
「ダメ。その状態でわらわを捕まえてみよ。十かぞえてからな」
「どうやって?」
「フツーはオニさんこちらとかゆーんぢゃけど、今回はノーヒントで」
「不可能です」
「いーからやるのー。ホラッ、ちゃんと声だして数かぞえる」
「いーち、にーい、さーん……」
ブラックアウト
「……きゅーう、じゅっ。行きますよ、わが魔王。わが魔王? ほんとうに何も応えないおつもりですか。それでは捕まえられるわけがない。なるほど、目が見えず、耳からの情報もおあずけとなれば、鼻ですか。匂いで探りあてよ、ということですね。いいでしょう、わたしにイヌのマネをしろとおっしゃるのですね。いかにもわが魔王の好みに合致したやりかただ。はいつくばって地の底まで追いかけて引きずりだしてやろうじゃありませんか。すんすん。ひょっとしてわが魔王のその鎧は、瘴気の流出だけでなく匂いすら遮断するのではありませんか。だとしたら打つ手なしだ。いったいわたしにどうしろというのです。わが魔王。ねえ、わが魔王ったら。もしかして、まさかとは思いますが、わたしをこの森に置き去りにして一匹で行ってしまわれたとかいわないでしょうね。いいかげん、怒りますよ、わが魔王。わたしの呼びかけに応えてください。まったくいじわるな魔物だ、わが魔王は。おや、なんという僥倖、どうやら捕まえることができたみたいです。逃げないようにひしと抱きしめて、と。いいですね。視界をおおう瘴気を解除しますよ……」
ブラックアウト
「キャッ。って誰だ、おまえは!」
「ひ、ひぃ!」
「人類じゃないか! どうしてこんなところに人類が?」
「アンソニー氏とゆーそうぢゃ。森の外の街道を歩いてたから連れてきた。それにしてもキャッって。〈副官〉ちゃん、カワイイとこあるう」
「わが魔王! どんなおたわむれですか」
「ありがとう、アンソニー氏。お礼に殺さないで帰してあげゆ」
ブラックアウト
「これでわかったであろ」
「何がです?」
「だから地霊だよ」
「なんのことです?」
「視界を封じられた〈副官〉ちゃんが、あの人類を探知できたのはなぜか?」
「偶然でしょう」
「そんな都合のいい偶然があるかたわけ。声そのものは聞こえなかったかもしれむが、地霊が導いておったのじゃ」
「地霊は人類の味方ではないのですか? それがわれら魔物に、森の中にいる人類の位置を報せるなんて」
「おそらく地霊とは神になりそこねた神のできそこないだ。何ものにくみするものでもあるまいよ。強いてゆえば、誰彼かまわず影響を与えたいとゆー欲求の塊だ」
「なんとハタ迷惑な」
「わらわたちの単純さはこーゆーところでも不利になる」
「おことばですが、目視せずとも敵の居場所を知ることができるとしたら、われわれにとって有利に働くのでは?」
「それを情報として利用できるばあいはの。無意識に感じとって躰が勝手に動いてしまうんぢゃあ、操られているのとたいして変わらん。仮にわが軍の統制がとれたとしても、こんなふうにいちいち地霊のジャミングを受けては群れを統率することは難しい。この地上とゆーのは見えない力が干渉しまくっておるのだ。つくづく魔王に不利なようにできている。あの神とゆーのが作った世界であれば何もかも納得づくとゆーわけであるが」
「神はわたしたちが地上に侵攻することを察知していたのでしょうか?」
「そのために地霊を残していったと? ハッ。わらわたちはそれほど愛されておらなんだ。この地上と、あやつらが愛すべき人類すら見棄てていった輩だぞ。魔物のことなぞ、おそらく眼中にもなかったであろ」
「ではなぜ地上はこんなふうにできているのですか?」
「やめておけ。魔物にテツガクは似合わない」
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