某国の危機?!

くろぶちサビイ

1.学長室にて

 某国の国防軍人養成学校の学長室では、朝から学長と副学長と総務部長の3人が、緊急会議を行っていた。

 卒業式の一週間前にして、前代未聞の事態が発生したのである。

「任官辞退者が8割近くにもなるとは…」

「う~む」


 任官辞退とは、本来は国防軍人養成学校の卒業生は卒業と同時に国防軍に入隊することになっているのだが、これを辞退することである。辞退した卒業生は、民間企業に就職する等の進路を取る。


「昨日の夕方の時点の集計ですので、さらに増えるかもしれません」

 総務部長が淡々と報告すると、学長と副学長がボヤいた。

「最近の若者は反応が速いねえ」

「彼らにしてみたら無理もないのかな…」


 任官辞退者が急遽大量に発生した理由は、ほんの数日前にこの国の大統領が非公式の場で口にした、近隣某国への軍事侵攻計画だった。

 この発言は、側近らによって直ちに否定されたが、マスコミが大きく取り上げたため、大統領を非難する声があちこちから上がっている状態である。


「うちの卒業式には大統領も出席するんだよな…」

「マジイかな?」

「怒ったりしてな」

「自分の失言が原因だろ」

 学長と副学長は、自分勝手なことを言い合っている。

 総務部長が二人に意見した。

「そんなことよりも、任官辞退者が8割にものぼったとなったら、軍の関係者から何か言われませんか」

「ああ、それね…」

「でもさ、引きとめられるもんでもないでしょ」

「現行の制度じゃ入隊を強制できんし」

「今はSNSとかもあるから、下手なことしてパワハラとか言われるほうがヤバい」

「なるほど…。ごもっともです…」

 二人よりもいくぶんが年若い総務部長は、頷くしかなかった。

 学長と副学長はすっかり開き直って、欠伸をしたり、ペンで頭皮のツボを押したりしている。

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