海街に咲く桜

旭川 あさひ

プロローグ

 七月、長引いた梅雨もようやく過ぎ去り、人々は雨傘の代わりに日傘をさすようになった。空は日を追うごとにその色に深みが増して、衣替えの準備も万端なようだ。

眼下の海から吹く潮風も段々と磯の香りを身にまとうようになり、夏が駆け足で近づいてくるような、そんな匂いがした。

こんな気候は、なんと呼べば良いのだろう。梅雨も終わり、夏が目前に迫った季節と季節の境目の時期。黄昏時のように、曖昧で、不確かで、少し不安で、少し浮足立つような、何故だが大声で叫びたくなるような、皆どこかふわふわした心情の、中途半端な季節。

いつだって、物事が始まるときは「自分」の形が不安定な時だ。戦争だって革命だって恋愛だって。「何か」が起きるときは、必ず「何か」かが中途半端なんだ。


あの時もそうだった。

次の季節に肩を叩かれたとき、君と出会った。

「運命の出会いは、人生を変える」なんて言葉は冗談みたいなことだと思っていたけれど、あながち間違っちゃいない、そう今は思えるんだから人生とは不思議なものだ。


「私、ハッピーエンドが好きなの」

君はいつかそう言っていたね。

この物語も、幸せな最後を迎えますように。

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