➖センゴク➖

藤 羅羅

第1話 越後の龍

時は、慶長20年6月(1615年)

100年以上に続いた戦国の世も、今、終わりを迎えようとしている。


男「佐助さすけ、最後まで済まないなありがとう。」

 

 男は、血で染まった六文銭ろくもんせんの飾りが付いた兜を下ろし、静かにそう言った。

 辺りはまだ陽の光で暖かくもあったが、男2人だけで冷えるような静けさだった。


佐助「グスツ...」


酷く悲しみに涙を抑えられない佐助

 そして、佐助の前にいるこの男。

その男の眼は、真っ直ぐで、虎のような鋭さでもあり、力強く、でもどこか優しく、愛溢れる眼をしている。


男「まぁ、そう悲しむな佐助。」


 男はまた静かにそう言って、佐助の肩に手を当て、腰にある刀を渡して地に座った。

 そして少し空を見上げ、陽の暖かさを感じながら言った。


男「みんなありがとう」



「我!、真田信繁、一生に悔い無し!」


               

        大阪夏の陣 安居神社にて




時はさかのぼる

天文23年(1554年)越後えちご  北条城きたじょうじょう

辺りは少し騒がしい、人と人との争いの音だ

 

 馬に乗り、山の岬から遠くを眺めている青年が1人。老若男女だれもが惹かれるほどの美しい顔立ちをしている。

 その男の眼は、真っ直ぐで鋭く、また若く勇ましく、名は長尾景虎ながおかげとら


だが、今は少し悩んでいる様子だった。


家臣「殿!!」


歳の割に、やけに綺麗に甲冑を着飾た家臣が、慌てて報告に来た。

 長きに渡り長尾家の当主を支えて来た家老の直江なおえだ。

そして、景虎幼少期から支える じぃである。


直江「殿!北条城は制圧までまもなくですぞ。まったく北条きたじょうめ!裏切りおって!!景虎様への御恩を、、」


景虎「そうか、じゃあ行くよ!じぃ!」


(景虎)改名後に上杉謙信うえすぎけんしん

若くして越後の当主となった景虎。

軍神、越後の龍と呼ばれるようにもなり、欲が行き交う戦国の世の中、天下を取れる程の力があったが、欲で他国を攻める事は一切なかった。


ただ領土に攻めて来ようものなら・・。


とても義に厚く、義に生き、戦国時代最強の武将の1人となるのが、この上杉謙信(景虎)



景虎「そいえば、じぃ、その黄色の鎧、似合ってないよ。」



ー北条城前ー


兵「おい!殿が到着したぞ!」


 城前に到着した景虎。辺りが静まり、城は完全に制圧したみたいだ。

 反乱を制圧するまで、時は掛からなかったが、少なからず被害が出た。


家臣に案内され、城奥まで入って行く景虎。

 入城するとそこに、いつでも首が切れるよう刀で当てられている北条高広きたじょうたかひろの姿。

 直江と同じ家臣である北条だが、謀反を起こし、今は拘束されている。

 

直江「この裏切り者がっ!殿!すぐさま首を切りましょう。」


北条は、涙目ながらもどこか堂々としていた。


景虎「少し待て!。北条きたじょう、、どうしてだ、話してくれ。。」


景虎は、いつも北条の自慢の髭に、皆でイジっていた事を思い出す。

 長年、長尾家に尽くしてくれていた北条に、景虎はなんとも言えない感情であった。


北条「仕方がなかったのでございます。」


抑えていた涙が少し流れる北条。


北条「私は武田に、家族を、子供達を人質に」


家臣達「武田だと!!」

 

ざわめく家臣達。


景虎「そうなのか、その話しは本当か?。」


家臣「偽りであると思われます!」


話しに割るように入る家臣


家臣「城中確認しましたが、家族は全員揃っているようです。」


北条「ち、違う!。」


景虎「どう言う事だ!北条!!」

  

血相を変える景虎


北条「違うのです、あちらにある小物入れの中を確認下さい。」


中を確認すると中から1通の文が出てきた。


景虎「これは、、」


北条「昨年、家来が、突如何者かに私宛にと渡された文でございます。」


完全なる武田からの脅迫の文であった。


北条「武田と通じ、景虎に謀反を起こせと。 さもなくば忍びの者を送り、家族もろともと。 そして謀反の際には、甲斐から助太刀致すと。最初は本気にはしませんでしたが。」


景虎「........」


北条「ですが次第に、最後に書かれているよう、 本気だと信じてもらう為に激しく痛む毒を子供達に盛ると。さすれば、たちまち子供達は痛みに泣き、信じざるえなかった。

 景虎様、私はすぐにでも首でもなんでも切りになって構いません。ですが妻子供はお許し下さい!」


苦しく泣き崩れ慈悲を乞う北条。


景虎は少し目を閉じた、


景虎「…」


家臣「殿、状況がどうあれ、殿に刀を向け謀反を起こした北条家を生かしてはなりませぬ!」


景虎「……」


他の家臣、兵達も後を押し始めたが、黙りこむ景虎。少しざわつく空気が出始めた。


景虎「…………」


直江「殿!やはり一家根絶やしにす

景虎「お前達!!!」


それまで黙っていた景虎が鋭く言い放ち、直江は言葉を無くし、部屋が一瞬にして氷つく。


景虎「お前達は同じ様な脅迫はされてはいないな!?」


氷ついた家臣達が少し迷いながらも頷き始める。


景虎「あーならよかった」

  

少し安心した表情の景虎だったが、すかさず家臣達に言い放った。


景虎「北条ではなく、逆にお前達だったらどうしたんだ?家族を捨ててまでこの長尾家に忠誠を誓えるのか?」


直江「殿!!」


景虎「じぃは黙って!、俺は北条を許す!」


皆が信じられない景虎の発言で、部屋にいた全員に衝撃が走った。


北条「…え、景虎様、」


景虎「北条、お前は確かに謀反を起こした。国内で死人が少なくとも出た、とても許されない事だ。だが北条、俺がもしお前の立場であったら同じ事をしたかもしれない。」  


直江「なんと、、」

景虎の言葉に戸惑う直江


景虎「家族を犠牲に、何かと天秤に掛けるなどとても出来ない。ましてや、そんな事絶対にあってはならぬ!。北条は、北条の義を通しただけ。

 俺は北条を許す!気づいてあげられず済まなかった。。」


北条「景虎様、、うぅ」

景虎の広大な心の器から出る言葉に北条は泣き崩れた。

また、家臣達は信じがたい光景に驚きもあったが、皆、胸にくるものがあった。


景虎「今回の謀反の件それは、俺の弱さゆえに起きた事だ、罰するなら俺を罰せ!」


景虎「皆、申し訳けなかった!」


家臣達の中には景虎の言葉に思いに打たれ、足を崩す者も現れた。


景虎「だが罰する前に一つだけしておきたい事がある。」


まるで悪魔に取り憑かれたかの様に景虎は、一気に血相を変えた。


景虎「俺の家族をこんな目に合わせた奴を、俺は許してはおかない。」




景虎「武田め、今度は殺す!」

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