後編
〇死神:きれいな髪……。
●場面:
死神が膝をつく。
浜辺に座る天使と目線を同じくして、彼女の髪へ触れる。
シルクのような触り心地。
撫でて、手のひらが人肌に溶けそうになる。
髪よりも、より確かな実体を求める。
〇天使:あっ。
●場面:
天使が戸惑う。
死神の手が髪から頬に移ったとき、痛みを感じたからだ。
〇死神:ごめんなさいっ
●場面:
死神が手を離そうとした。
いきなりすぎた。
天使を傷つけてはいけない。
●場面:
天使は頬から剝がれようとする死神の手を取った。
〇天使:大丈夫。久しぶりだから驚いただけ。
●場面:
天使が死神の手を再び頬に触れさせる。
初めての痛みだ。
懐かしさはない。
しかし、心地よい。
●場面:
しばらくこのままでいよう。
どちらからともなく、望んで、求めた。
〇死神:いつからここにいるの?
〇天使:もうずっと。大事な人の顔があやふやになるぐらい。
〇天使:どこから来たの?
〇死神:ずっとずっと向こう。春と夏と、秋と冬が何回も終わるぐらい。
●場面:
お互いに移動はしているから、もしかしたらすれ違っているかも。
あったかもしれない事実に笑う。
〇死神:大事な人ってどんな人?
〇天使:最後まで死ねなかった私に生きろって言う人。
〇天使:最後は誰と一緒にいたの?
〇死神:ずっと一緒にいたいっていう私に一人がいいって言う人。
●場面
残酷な人だね、と、でこを突き合わせて、表情を隠す。
目の前の存在は最後、どんな言葉をかけてくれるだろう。
〇死神:聞いていい?
〇天使:どうぞ。
〇死神:どうして私を待っていたの?
〇天使:あなたと同じよ。
●場面
でこを離して、目を合わせる。
宝石みたいに潤んでいた。
〇天使:今度は私の番
〇死神:いいよ
〇天使:どうして、私を探していたのかしら?
〇死神:君と同じだよ。
●場面:
わかっているくせに。
意地悪に笑いあう。
〇死神:やめたくなったら言ってね?
〇天使:うん。
〇死神:その時は私だけでも連れて行って。
〇天使:怖くなったら遠慮しなくていいから。
〇死神:わかった。
〇天使:その時は私だけでも送り出して。
●場面:
それじゃあ。
錆びないよう大事に取っておいた取って置きを取り出す。
無駄だとわかってからは使っていない。
でも、天使なら。死神なら。
結末に導いてくれるかもしれない。
天使と死神は永遠ともとれる生に凍えた身体同士を抱き寄せ、死の熱に身を焦がし合う。
●場面:
空の移す海の青と、融解した永遠の赤が混ざり、やがて海に溶ける。
水溶性の熱は消滅せず。
海中で暮らす生物たちの連鎖の中で永遠に生きる。
すっかり死んでしまった世界で〇〇を待つ/すっかり死んでしまった世界で〇〇を探す 白夏緑自 @kinpatu-osi
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