7-6☆『同題 -改良-』
「……ああもう張り切りすぎだよ、ガイアス。砂が風に乗ってこっちまで飛んで
きたじゃないか」
髪に被った砂を払いながらルー=スゥが苦笑する。
「……ごめん」
「いや、しょうがないけどね。……しかし、結構な量の砂煙だねぇ。ジュリアスが
見えやしない」
『……彼は何か企んでいるかな?』
「有り得る。けど、今回の決まりじゃジュリアスから仕掛けられないだろう?」
『それもそうか』
やがて、砂煙が晴れる。ジュリアスが立っていた。体についた砂を払いながら。
「なかなかやるじゃないか、"
様になってるな」
「簡単に
「そりゃ相手が悪いからな」
「……そうかい!」
息を整える間のような軽口のやり取りから今度は不意打ち気味に、
「
ジュリアスは避ける素振りすら見せない。それもそのはず、
(幻術……!?)
「影と実体の位置を入れ替えたんだ。……気付かなかっただろ?」
「
「雑だな、ドーガ!」
それは見てから避ける。火球が投擲されるとジュリアスは斜めに、波打ち際まで
走り出す。結果として二人の相対距離が少し縮まった。
「攻撃がちぐはぐすぎる。距離を見誤ったな。
格別だ。但し、速度と飛距離は術者の
結構だが、状況を考えるべきだったな」
彼の後ろで着弾した火球の炎が消える。魔力の炎とはいえ、燃料がなければ
持続は短い。……ジュリアスは消火を横目で確認しながら、
「ここいらで少し趣向を変えようかと思う。なぁに、簡単な設問だ」
「設問……?」
「まずは
靴が時折波に洗われるも構わず、ジュリアスはその場で"火球"を唱えた。
左手の指先から彼の頭より少し大きな火球が生まれ、それを無造作に海へ
放り込む。
「なっ……!?」
火球が海面に触れると爆発し、熱と爆風が水柱を作る! 次いで
水蒸気がジュリアスの背後より吹き抜け、そして消えてゆく──
「ふむ、もう少し必要かな。風向きと風速はいい感じだが」
「……どういうつもりだ、ジュリアス」
「まぁ待てよ。今のはただの下準備だから。これから説明してやる」
……ジュリアスは今、着弾点の吟味をしているところだ。
四発もあれば十分だろうが、距離が遠すぎると浜にたどり着く前に霧散して
しまう。かといって、近すぎると水深の関係から土砂が混じってしまうだろう。
横に四つ並べるより縦に並べて導火線のように仕立てるか。水深に沿って
威力も調整すればいい。
「……お前に教えといてやる。魔法の連射について。魔法には片手で発動出来る
ものがある。その魔法に敢えて両手を使う事で一回の呪文の詠唱で二回分の魔法を
蓄える事が実は出来る」
「知ってるよ。第一、それは大魔孔の時にお前がやってた事じゃないか」
「……そうだったか? まぁいい。つまり腕なら二回分、二連射出来るという事だ。
これが基本形。次に指先。先に見せたように指一本に一発、人差し指と小指で二発。
両手ならさらに倍。不器用でも練習すればそれくらいは出来るようになる。器用な
人間なら五本使う事もあるかもな。俺は多分しないが。そして、足。これも基本は
二本ある。足でも発動の
「ああ。それもさっきやっていた……」
「その通り。同一の魔法を連射するのもいいが、複数の魔法を絡めて連続で
攻め立てるのもいい。その際に例えば、腕と足を別々に使えるようになると
連携の幅が広がるぜ……と、これは余談だが。話がそれちまうところだった」
ジュリアスは続ける。
「話を戻そう。一口に連射といっても、効果的な使い方ってものがある。まずは
着弾点と時間を揃えること。標的の回避を封じながら当てる事が出来る。但し、
これには数が必要だ。さらに消費の割に威力的な効率は良くない。次に時間差を
使って当てる方法。これは上手くすれば最小の数で戦果を上げられるが、
当然ながら難易度は高い。牽制と必殺の一撃を使い分けるのが肝要だ。では、
連射の実例を見せよう」
腰の高さで両手を人差し指と小指を立てて握り、ジュリアスは"火球"を唱える。
「くれぐれも頭の高さでやろうとするなよ? 馬鹿だと思われるからな。勿論、
これも余談だが」
そう言って笑いかけると、沖の方から浜の方へ視線を往復させ、着弾点を定める。
両手で立てた二本の指先が赤く光っていた。……同じ魔法の筈なのに、さっきと
形態が異なる!?
(あれがジュリアスの"
極地である"無念無想"ほど自在ではないが、術者の想念によって同じ魔法でも
威力や範囲や形態に差異が出る。
高位の術者となれば、まるで別種の魔法のように仕立てている事も珍しくない
という。
ジュリアスが半身に構えて赤い光点を二発ずつ放つ! 最初は左、次は右!
光点は発射後に膨張して見慣れた火球となり、後部から流星のような尾を引いて
飛んでいく!
四発の火球は連続的に海面へ着弾すると爆発し、次々と水柱に姿を変え、
「其は想念と意志の力 奇跡を顕現する根源 纏わりつく幻想の霧 乳白色の
冷たい罠 視線を
遠ざかれ──
水飛沫と水蒸気が消えてしまわぬ内に呪文を完成させて発動する!
範囲の拡大には触媒が必要だったのだ、ジュリアスの側を吹き抜ける海風が
白い霧を、魔封じの霧を運んでくる!
「待たせたな、これが俺からの設問だ。……ドーガ、お前ならどう対処する?」
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