2-2『主の名はゲネシス』
──翌日。
昨日のうちに雑事を全て済ませたゴート達は無事、早朝に村を発った。
ジュリアスもご
あの後、二人で行われた話し合いではゴートがジュリアスの面倒を数日間ほど
請け負う、という事で決着した。いや、押し切られてしまった、というべきか。
路頭に迷ったと
やらもゴートはそれほど魅力を感じなかったが、魔物と相対して手伝って貰った
義理はある。
実際のところ、
命の恩人だと
話が
……厚かましいのか奥ゆかしいのか、ゴートにはいまいち彼がよく分からない。
それから色々とジュリアスの内情を訊ねてみるものの肝心な事は要領を得ないと
いうか、微妙にはぐらかされてしまう。
ゴートとしても深く付き合う気はないので切り込む訳にもいかず……もどかしい
結果のまま、一日が過ぎてしまった。
……適当な会話を偶に挟みながら、街道を行く。
五月も初旬、春の只中だが太陽が雲に隠れると午前はまだ肌寒い。
ゴートは旅道具の詰まった紐付き袋を手持ち無沙汰に度々持ち替えながら、
田園風景を道なりに進む。
やがて広く平らに整備された国道に合流すると、時折現れる道標に従いながら
最寄りの魔道駅※注(マジック・ターミナルとも呼ばれる)を目指す。
来た道順の逆を行くのだ。
そうして徒歩にして約一時間、最後の十字路から長い一本道の先に目当ての
魔道駅へとたどり着いた。
「転送の時間割はどうなってる? 一時間置きか?」
ジュリアスが訊ねる。
「来る時はそうだったね」
「そうか。ま、急ぐ理由もないし、のんびり待つとするか」
赤
それらと駅舎は木造屋根の通路で繋がっており、魔道建屋は駅舎との通路
以外に大きな出入口が二つある。これは荷車の為のものだ。※注(魔道駅内部の
魔法陣は通常使用されるものよりも巨大である。その
ており、染料で可視化──陣の中央には特殊な工房で精製された転送の為の
大魔石が
る仕組みとなっている)
二人は駅舎で待合の長椅子に腰掛けた。
駅構内の人影はまばらで駅舎の中央に
た砂時計を見遣れば、推定発動時刻にはまだ間がある事が分かる。
「休憩も込みで、時間的にはちょうどいいくらいだな」
「……確かに」
それから少しの間、遠目に砂の落ちる様を眺めている二人。
──それは昔々の話。神々が人間に対して金と銀の砂時計を与えた。その時より
一分と一時間という時間の単位が生まれたと言われている。※注(一秒はまた別の
道具、"一等星の振り子"と呼ばれるもので定義されている)
「……"
された金と銀の砂時計は文字通り中身が
力で一粒一粒が均一に整えられ、その御蔭で一秒も狂う事なく正確な時を計る事が
出来たのだそうだ」
「へぇ……」
「
砂時計だって、誤差が一分だか二分だかあるんだと。まぁ、一分だか二分だかの
違いなんて日常じゃだからどうしたって話だけどよ」
「まぁ……それはそうかな」
あまり興味がないのか、ゴートは曖昧に返事をする。
それを察してか、ジュリアスは話題を変える。
「俺に唸るほどの金があればな……駅馬車の方でのんびりと王都を目指すってのも
一興だが。王都はともかく、隣国には魔法陣も馬車も繋がってないのか?」
「ギアリングともラフーロとも地続きではあるけど繋がってはないね。例え
同盟国といえど、国境付近までだよ」
ギアリングとは現在地であるスフリンクの東にある隣国。通称を鉄の国。
ラフーロは逆位置で西の隣国。領土には広大な穀倉地帯があり、そこから
ギアリング、スフリンク、ラフーロ。かつて三国は緊張状態にあった。しかし、
それも百年以上昔の話。今や両国とも同盟国である。北方からの脅威に結ばれた
「同盟か……その要因となったノーライトの南進も天然の要害には勝てなかった、
か。連中なら越える算段も何かあった気がするがな……」
「そういう話はありますね。具体的に何が、という手段は分からないけど」
ジュリアスの話にゴートもとりあえず同意した。
ノーライト。蛮勇の国、悪逆非道の王国、暴力主義者達の楽園。形容する言葉は
どれも非難めいたものばかり。
それは決して大袈裟ではなく、この国の近代史が証明していた。
侵略戦争以前のノーライトは国土の大半が雪に覆われた大陸の北端、永久凍土に
ある弱小国家だった。狩りと漁で生計を立て
小国。
その国に一人の王子が誕生する。
彼が十五の時、歌と酒を愛する先王が崩御。後継として即位すると隠していた
野心と才覚を
そして、彼が老衰で死ぬまでに征服した国は最終的に大小合わせて十ヵ国。乱世の
時代ならいざ知らず、比較的平和に安定していた近代でここまで版図を広げたのは
類例がなかった。まさに空前絶後である。
「魔術による夜襲と暗殺、魔獣や魔物の待ち伏せ、毒霧など
大魔孔だ……およそ常識とはかけ離れた方法で戦場を
望むような天罰をついに受けなかった……何故か?」
その話はゴートも知っていた。有名な
「ノーライトは神の加護を受けている、か。本当かな……?」
「真実は分からん。当時を知らんからな。だが、俺は可能性は高いと思ってる」
魔術師は確信を持って言った。
「どうして?」
「神と呼ばれる者の中にろくでもない連中が混じっているからさ。……俺の知って
いる範囲で、だがね」
そろそろ時間だ、移動しよう。二人は席を立った。
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