南国因習集落『炎縷々』
くれいもあ
第1話 上田と山田
「本日は取材にご協力いただき、ありがとうございます、上田先生。」
週刊武冬の山田という記者は落ち着いた声で話をはじめた。
「なんでもあの南国のハワイに日本人の文化を持つ民族がいたのだとか。」
山田は胸までスラッと伸びた黒髪を揺らすことなく淡々と話を進める。
「今回ハワイまで研究をしに行ったそうですが、どんなことが分かったのでしょうか。」
山田は目を輝かせて、上田の返答を待っている。ぱっちりとした山田の目は向かいに座っている上田からでもその瞳の奥に光が輝いていることが分かった。
山田は仕事が好きそうに見える。口角が自然と上がっている。山田の質問に現地調査の記憶がよみがえる。
山田の唇はハイビスカスのように赤く艶めき、山田の白浜のような柔肌はその赤を一層際立たせていた。
上田は自分とは大違いだと思った。ハワイに行く前からも浅黒い肌、研究に追われてしょぼくれた目と乾いた唇にぼさぼさの髪。2mを超える高身長も日々のデスクワークで猫背となった今ではそれほど目立たない。研究は好きだが、仕事は嫌いだった。
改めて山田を見る。自分の研究分野である民族学にこの女優にも匹敵する山田が興味があるとは、到底思えなかった。
「あ……、君は民俗学への知識があるの…。」
「ありません。」
上田の疑問を投げかけ終わる前に、壁を落とすかのようにピシャリと返答が来た。
「そ……そうか。では簡単に話すとしよう。」
調子を崩された上田だが、聞かれたことに答えつつ、話していけばいいだろうと持ち直し、口を開いた。
「まずハワイに日本人の文化を持つ民族という話だが、少し違うがいた。」
「やはりいたんですね!スクープ間違いなし!」
山田が声を大きくし、詰め寄ってきた。先ほどよりも増してうれしそうだった。
「で、どんな人たちだったんですか?」
「そうだな。我々、日本人の文化ではない。が、現地人のそれとも違う。あまりに変わった人間たちだった。」
「なんか煮え切らないですね。結局、分かったことや見つかったものは何になるんですか?」
「それが……よくわからない……と思う。」
「はい?!どういうことですか?そんなんじゃ、読者からクレーム来てしまいますよ!結局分かりませんでした~って、しょうもないネット記事と一緒じゃないですか。」
「まぁ、最後まで聞け。」
荒ぶる山田を制止しつつ、上田は少しタメて言い放った。
「……私が行き着いたその集落の名は”炎縷々(ホノルル)”といった。」
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