ドキッ★ときめきトロピカル淫習アイランド ~ひと夏の南国生活と恋の行方~

デストロ



「我、一日本人として勇ましく出陣すれども、 淫習いんしゅう!に敗北し一敗地いっぱいちまみれたる、まこと慙愧ざんきに堪えぬなり」


 目を焼くような白い砂浜の上、黄ばんだ紙の上に力強くしるされたその一文は、南太平洋の赫灼かくしゃくとした陽の光にくろぐろと輝いていた。

 その光景を、異様な衣装に身を包んだ男たちがまじまじと眺めている。

 彼らはわずかに言葉を交わし合うと、その紙を拾い上げた。

 昭和十七年のことである。



**



「へぇ~、結構いい感じじゃん。いかにもトロピカルって雰囲気で」

「うわっ海キレー! ジャングルやばっ! もうオレ日本帰りたくねえわ、ははは」


 高速船から降りた若者らが、ワイワイ騒ぎながら島の光景をスマホで撮影する。

 十人くらいの団体客は全員日本人で、いかにも暇を持て余していそうな大学生グループからサラリーマン風の中年男性、腰が九十度に曲がって杖に全体重を預けた老婆にいたるまで、老若男女の面々が一様に好奇の視線を島へと注いでいた。

 そんな連中を尻目に、俺は桟橋の手すりに目をやる。古びた木製の柵には、日に褪せてところどころほつれた横断幕が結ばれている。


「……ようこそ、トロ……ピ……習……ランド……?」


 横断幕にでかでかと書かれた、カタカナと思しき文字はほとんどかすれ読み取れない。

 けど、カタカナってのは何でだろう。ひょっとすると、日本人観光客が世界中に繰り出したバブル華やかなりし頃の遺物だろうか。

 桟橋を降りるとすぐに、待機していた島民の青年が気さくな表情で話しかけてくる。


「皆サーン、よーこそオイデくださいましたー。

 船旅でおつっかれデショー、こちらのウェルカムドリンクをドゾー」


「おっ、お兄さん日本語上手ですねー!

 ていうかこれ何すか、うまそー! 飲んでいいんすか?」


「ハイ、お客さまをもてなさないとがお怒りにナリマスからー」


 島民の奇妙な返答に、若者らは微妙な愛想笑いでこたえる。

 俺たちはガイド役の島民に促され、ジャングルの中の小道へと足を踏み入れていく。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る