指切り
二条颯太
指切り
男が殴られている。
彫りの深い顔は発酵したパンのように膨れ上がって原形を留めていない。
静かに見守る島民の中には男の家族の姿もあった。最初こそ止めようと強く抵抗していたが、同じような光景が二時間続くと涙は枯れて感情は消え失せていた。
永遠にも思えるリンチが終わると、長老が男の前で膝を折って目線を下げる。
傍らに用意された針束が月の明かりを反射して妖しく光った。
皺だらけの手で男の上顎と下顎を強引に開くと、血塗れの
息絶えていたと思われていた男は鋭い痛みで意識を取り戻し、痙攣するように跳ねた。
島の青年団が暴れる男の四肢を押さえつけ、長老が強引に針を突っ込む。喉に刺さろうが食道を塞ごうが関係ない。口が針で満たされると角材を突っ込んで無理やりスペースを確保した。
「指切りげんまん嘘ついたら針千本飲ます」
長老は楽しそうに歌いながら針を手に取る。
男の息子である裕也は、拳を握りしめてその光景を目に焼き付けた。
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