第211話 気迫
(あの場所……? どこに行くつもりだ、この「アルケー様」は?)
ユウヤはアルケーという名の男の後ろを歩いていく。物心が付いた頃には人間界に送り込まれていたユウヤにとって、この男が一体誰なのかは見当もつかない。
あれだけの力を持つ
それにしても、神域はどこを見ても神秘的である。まるでその風景は白昼夢の世界、人間界とは似て非なる不思議な領域だ。
地面は雲のように柔らかく、それでいて岩のように頑丈である。空は夕暮れのような淡い赤と青のグラデーションで、昼間にも関わらず太陽のような天体以外にもあちらこちらに小さな光が散らばっている。
(不思議だ……絵画の世界に入り込んだみたいだ)
ユウヤは意識散漫に、様々な方向に気を取られてしまっている。そんな時間が続いたある時、突然アルケーという人物が呟く。
「……命令す。うつ伏せッ!」
「か、かしこまりましたァッ!」
「うつ伏せ……って! グァ、アア、アアアッ……!」
オーディンが高々に返事をしながら命令どおりうつ伏せになる横で、ユウヤは身体を何者かに乗っ取られたかのようにギシギシと地面に這いつくばる。いや、気がつけばうつ伏せになっていた、とでも言うべきだろうか?
とにかく、オーディンとユウヤはアルケーの指示通り、地面にべッタリとくっついた状態となってしまった。それから3秒ほど経った頃だろうか、急激に空が騒がしくなったのは。
「……コケー! コケケー、コケーッ!」
「コッコココココココ、コギャアアアアアアッ!」
(……なんだ、カラスか? なんでカラス如きに……?)
ユウヤが空を見上げようとした瞬間、アルケーは再び呟く。
「そこの者。目を閉じよ」
「え……!? って、グアアアッ! また勝手に身体が動いて……!?」
「あぁ、情けない。あれはカラスなどではなく"コカトリス"。微かな敵意でも向けてみろ。その瞬間、襲われて石化されてしまうのだぞ」
「コカトリス……?」
コカトリス。ゲームやアドベンチャーでも有名な伝説上の生き物である。その姿はニワトリとヘビの融合体のようで、超強力な毒を有する。また敵を石にしてしまう能力も持つという、なんとも恐ろしい存在である。
ユウヤは目を開けることができないが、耳に入ってくる悪魔のような鳴き声だけでも分かる。確実にそれは、頭上に数十匹は存在する。
「気をつけよ、あれこそ我らの神域に
「……はい。おっしゃる通りで、とても分かりやすい例をありがとうござ……いますッ!?」
(……は? え? なんで……!?)
今度は動いた。声帯が、勝手にアルケーへの敬意を示した。認識していないだけで、ホリズンイリスの遺伝子がこの人物の素晴らしさのようなものを記憶しているかのようだ。
ユウヤは後悔した。この神域に来たことを。まだまだ時期は早かったのかもしれない。例えスズの言っていた「周りの人間を不幸にする」力がここで働き、ホリズンイリスを一網打尽にできたとしても、決してアルケーには敵わない……そう確信した。
たとえどれだけの「敵」を倒そうとも。たとえどれだけの聖霊を倒し、またはその力を得たとしても。決して自分アルケーには敵わないと。
「ああ……あああ、あああ………!」
情けない声が出る。
「……恐ろしいか? オーディンの息子よ」
「はぁい……恐ろしいです、本当に……!」
今度こそ、出たのは本音だ。何者なんだ、アルケーは!
「コッココココココ……コギャアアアアアア!」
「コケッコオオオオオオッ! コケケケケコケェェッ!」
「コケー! コケー! コケケケケェー!」
相変わらず、コカトリスの鳴き声が上空から響いてくる。これでは生き地獄だ……ユウヤがそう感じた瞬間、ついにアルケーは動き出す。
「ダメだ。思った以上に厄介だった……奴らは気が立っている。まるで災害のような、何らかの異常を察知したかのように。そう感じるだろ、オーディンの息子よ……」
「えっ!? は、はい……」
「ならば、しばしの間。眠っておくがいい、まずは奴らを片付ける。我の気迫でな」
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