第195話 償いきれぬ償い
「ここは……どこだ? オレは確か……」
気がつくとヒビキは何もない空間に横たわっていた。戦闘を繰り広げていたはずのロドリゲスも、味方のユウヤ達の姿も見えない。
腕を、腰を、足を触ってみる。痛くない。肩を、背中を、頭を触ってみる。何も異変は感じられない。だが、激しい戦いをしていたのならば、逆に痛みを感じないことこそが逆に「異変」なのだ。
ヒビキは辺りを散策する。するとどこかで見覚えのあるような、白衣を身にまとった男が現れた。ヒビキはそれが誰かすぐに分かった。
(ブティフ……いや、あいつはグレーゾ……あのクソ科学者だ!)
察した。これは過去なのだと。自分はきっと死んだか、もしくはそのギリギリのところをさまよい、精神だけ過去に飛ばされているのだと。
ヒビキはパーカーのフードを被ってグレーゾに近付き、とある話を持ちかけた。少しでも悪夢を抑えることができるなら、と。
「……おい、錬金術を知っているか? かつて多くの科学者が精を出した分野のことだ」
「……だ、誰だね! 急に現れて!」
「だがその研究も、今は行われていない。金が貴重な金属なのは数百年同じままだ」
「だ、だから誰だというのだ!」
(ここで東雲ヒビキという名を名乗るワケにはいかない。もし変にタイムパラドックスが起きてしまったらならないからな……)
「名乗る意味は無い……だが、あえてお前には名前を付けなければな。うーん、そうだな……
お前今、体調が良くなればおいしい料理でも食べたいと考えているな? ならば名前は……フランスのフルコース料理にあやかりブ――」
「素人文句で恐縮だが、人の話をしっかり聞くのだ! あと、そんなスパイのコードネームみたいな名前などいらぬ、我の名はグレーゾだ! 覚えておけ、グ、レ、エ、ゾ!」
(チッ……こいつが近い未来オレの部下になるなんて滑稽だな……)
「……グレーゾよ、今お前の体を蝕んでいるものは、人間に隠されし能力の制御が効かない状態、いわば魔法の暴走だ!」
「ま、魔法……!? それは我が求めし技術、詳しく教えてくれ!」
「……グレーゾ、お前はもうその条件を満たしているのだ。第一に<神を名乗り、強大な力を持つ一族、ホリズンイリス一族>と邂逅すること! そして第二に、自らの精神と大自然を調和させ、任意の箇所に力を込めて念じること! 一度やってみるがいい」
「……こ、このような感じか!?」
グレーゾはその拳から霰のようなものを生み出してみせた。
「……そうだ、それが魔法。グレーゾは……どうやら研究者のようだな。この研究を重ねて実用化し、未来永劫幸せな世界を作るがいい」
「だ……だが、再現性も無しに研究結果と認められるワケが……」
「……オレの知り合いに、正義の心を持ったホリズンイリス一族がいる。グレーゾが以前会った奴とは真逆のな。
彼の能力で、全世界の人々の夢の中に現れてもらい……第一の条件を全員クリアさせようと思う。
そしてこれからの未来に生まれてくる人にも同様の条件を達成させるために、遺伝性の呪いを――」
「そ、それでこの魔法はどのようなことが可能なのだ!?」
「人の話くらい最後まで聞くべきだぞ……まぁ、身の回りのことが全てラクショーにできるようになるし、技術も娯楽もパワーアップ! それに……悪の心を持つホリズンイリス一族の襲来の対抗手段にもなる。
だけども奴らはこの能力のことを嫌っているだけに、見つからないためにも乱用をしては……って聞け、大事なところを、おいっ!」
グレーゾは半狂乱状態で消え去ってしまった。忠告を無視して……いや、元々ここでグレーゾが話を聞かないせいで、あんな未来に繋がることは変えられない運命だったのかもしれない。それでもヒビキはただできること、ユウヤに思いを伝えることであった。
(頼む……「神」の力でなんとかグレーゾを、いやホリズンイリスの革命を止めてやってくれ……! 鳥岡、ユウヤ……!)
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