第143話 残党の襲撃

「……くそ、アイツらどこに行きやがった!?」


「絶対こちらに逃げていったはずだ、早く捕まえるぞ!」



「チッ、しつけぇ野郎達だ……」


「仕方ないよ、ヒビキ……未だにチーム・ウェザーはコウキ派の人間が大多数を占めている、今や捨て駒としか使われてないのにね」


「まぁ、行き場がねぇからすがりつくしかない側面もあるんだろうな。かつてのオレ達みたいに……」


 ユウヤ達がコウキに操られた者達と戦う最中、ヒビキとカナはチーム・ウェザーの一員達に追われていた。彼らの実力があればそんな残党など簡単に追い払えるのだが、それを実行すればさらに強い戦士が登場するだけだ。

 それに、街で乱闘騒ぎを起こせば余計にコウキ達の反感を買うことになるかもしれない。ここは一旦、嫌でも「逃げ惑う裏切り者」を演じることにしたのだ。


 とは言っても、チーム・ウェザー、いやコウキ達ホリズンイリス一族に従う者達には同情できる部分もあった。この団体に加入する者は皆、何かしらの問題を抱えているのだ。それは他人からの抑圧によるものもあれば、自ら曲がったレールを進み続けた末路のものもある。


 ヒビキも親からの仕打ちにうんざりしている中で強制的に加入されられ、カナも怪我で満足に好きなサッカーをプレイできず心を病んでいる中、甘い言葉に誘われてしまった。今やどれだけチーム・ウェザーという存在を憎んでいるとしても、自分達に敵意を向けられていたとしても、100%完全にメンバーを憎むことはできなかった。


「なぁ、カナ。せめてオレの部下だけでも、一緒に逃げさせるべきだと思うか? 正直オレのこと大嫌いだろうけどさ」


「あぁ、アイツらねぇ……どう考えてるのか、本心はどうなのか。それによるんじゃない? 今でも頑なにチームに従うならばコウキ、いやホリズンイリス族側に付くってことだろうからさ」


「……だよな、情けないこと聞いてすまん、腐っても一応リーダーなのにさ」


「責任感じる必要ないさ、だってその答えはもう決まっていて……過去を今から変えることなんてできないんだからさ」


 カナは突然、裏路地の外を指差し立ち上がった。ヒビキがその方向を見ると、なんと数メートル先という至近距離に元・ヒビキ班のメンバーが立ちはだかっていた。


「フフフ……久しぶりだね、クソ上司さん」

「拙者、ずっと貴殿のワガママに我慢してきて……今度は裏切りでござるか。ならば忍と生きる者の定めとして、貴殿を消すのみ!」

「この前はよくもやってくれたよなぁ! 今度はお前の遺体をスクラップにしてやらぁ」


「アパタイザー、スープ、ヴィアンド……せめてもの経緯として、本名じゃなく組織のコードネームとして呼んでやる。だが……焼き払うのみだがなぁ」


「ヒビキ……アタイも戦うよ、一緒に。流石に1VS3は不利だろうよ」


「……足引っ張んなよ」


「何言ってんだ、元リーダー……アンタがアタイを引っ張らなくちゃならないんだよ」


 ヒビキとカナは同時にアパタイザー達に向かって駆けて行く。本来、アパタイザーやスープとヒビキは数倍以上の実力差がある。だが、彼らに殴りかかろうとした瞬間、何か変化が起こっていることを察した。


(なぜオレに怖気づかない? やはりコウキに力を与えられて……だが!)


「焦げやがれ、この野郎っ!」


「フッ……アパタイザー殿、やるでござる!」

「分かっているさ……くたばれぃ!」


「ぐあっ……! この野郎!」


 アパタイザーは突然、腕につけた爪のような武器でヒビキを返り討ちにした。ヒビキのフィジカルにとってはなんてこともないはずの攻撃だが、まるでその爪が呪いでも込められていたかのように、ヒビキはその場に倒れてしまった。


「な、なんだこれは……まるで猛毒、いやそれ以上!

「へへ、ボクも手に入れたのさ。マンドラコラの力を!」


(マンドレイク……? たしかに毒を持つ植物として聞いたことがあるが、本気でオレに果たし状を叩きつけにしたならもっと強い毒を持つ植物を……いや、まさか!)


「カナ、待て! こいつ明らかにおかしい、ただ作戦を練ってきたってレベルじゃねえ!」


 ヒビキは何かを察し、代わりに反撃を試みるカナを制止するが時すでに遅し、カナは既に3人に攻撃を喰らわそうと飛び上がっていた。


「セイレーン・サイレン……吹き飛びなっ!」


「フフ……コンパウンド発動、天狗っ!」


「何っ!?」


 スープを白色の霧が包み、不思議なことにカナは結界に触れたこのように弾き飛ばされてしまった。アスファルトに叩きつけられて転がり回り、痛みに耐えながらゆっくりと立ち上がるカナの前には、カラスのような漆黒の羽をはやし、白い長髪を生やしたスープの姿であった。


「忘れたでござるか? チーム・ウェザーに在する者はほとんど、聖霊の力を宿している……暴走してしまうかは別として」


「……この野郎ぉぉぉ!」


「ほう、その激昂した顔……まるで船人を海底へと飲み込まんとするセイレーンの本性そのものでござるな」


「……ならば始末してやろうかい? 理想という名の空を飛び回ってばかりの、まさに天狗野郎に絶望って苦しみを教えてやるよ」


「おい待てってカナ! 早まるな、挑発に乗るんじゃねえ!」


「……あーあ、知ってるはずだよね? 聖霊の力は人間のものを遥かに凌駕する。生身の人間が勝てるわけ無いんだよ……でも、この指輪があれば別さ」


 アパタイザーはわざとらしく指輪をカナに見せつける。

 カナも一応、セイレーンをその身に宿していた。だが、その力を開放すれば姿は人外そのものと化し、理性もほぼ失ってしまう。自分が自分で無くなるのが恐ろしい、だからカナは現在、その力を封印していたのだ。


 だが、その決断が今、揺れ動いていた。目的と手段が逆になろうとも、最悪の未来に抗えるならば、危険を犯すべきなのかと……





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