2章_1 アズハ班進撃編

第53話 訪問者カラゲ

 2059年4月某日水曜日。この日を全休に設定していたユウヤは、一人昼間で爆睡していた。必修科目がない限り、好きな曜日を1日休みにできる。バイトに入るのもよし、どこかへ遊びに行くのもよし、こうやってぐうたらしているのもよし。4年間だけ許される、大学生の特権だ。


 ユウヤは今、家で一人だ。だからベッドにポテチをジュースを持ち込んで好きな映画や動画だって見ることができる。至福の時間だ、全休は。

 そんな時、インターホンが鳴った。誰なんだ、この幸せを邪魔するヤツは。商品の営業とかなら結構だからな。眠い目をこすりながら階段を降り、インターホンのカメラをオンにして応対する。


「はい、鳥岡ですが」


「鳥岡様ですね。私、トレンドを押さえたアクセサリーを制作、販売している者で、最近注目され――」


「結構です!」


 ピッ。強制的に通話を切ってやった。彼らも仕事だから責めるのは可哀想だが、それでも必要ないモノは必要ない。アクセサリーくらい自分で買ってるし、何か胡散臭いんだ、この人。


 ベッドに戻ってもう一眠りしよう、そう思い階段を登ろうとした瞬間、ピンポーン。再びインターホンが鳴った。


「……鳥岡ですが」


「あぁ鳥岡様。話だけでも聞いてください。例えばこの指輪、付けているだけでまるで全知全能になったかのように――」 


「あの、そういうのは間に合っていますので……」


 全知全能になれるだと? ありえない。アクセサリーを身に着けただけで能力が上がるなら苦労しない。

 いや、まさかヒビキ達が付けていたアクセサリーの類なのか? セールスマンになりすまして、本当はユウヤを仲間に引き入れようとしているのではないか? とにかくユウヤはその押し売り野郎を追い返そうとするが、ついに彼は本性を表した。


「左様ですか……ならぶっ潰すしかねぇなあ! アズハ様のご意向だ、出てきやがれぇ!」


 アズハ? 聞いたことがない名前だ。少なくとも、直接そのアズハに何か悪いことをした覚えは当然無い。人違いじゃないですか、そう言おうとも思ったが、この男は確実にユウヤのことを訪ねて来ている。

 こちらとしても臆していては家をめちゃくちゃにされるかもしれない。ユウヤは、インターホンに向かって叫んだ。


「そのアズハとは誰だ! 一度も会ったこともない、それなのになぜそいつに恨まれている!」


「とぼけるな! お前昨日、ヒビキ様を倒したな? そのせいでヒビキ様は戦意喪失した状態で帰ってきた、まるで忠誠心が冷めちまったみたいにな!」


「……やっぱりチーム・ウェザーのお使い、ってところだな。名を名乗れ!」


「オレはカラゲ。ヒビキ様の使いにスープってヤツがいる。俺はそいつと同等の強さ、ごめんなさいは今のうちだぜ?」


「スープ? ……あぁ、そんなんもいたな、そういえば」


「うるっせぇ! ナメてたら痛い目みるぞ、オレはアズハ班でも3番目に強いんだからな!」


「……そっか。なら今出るから少し待ってろ」


「あぁ、待っといてやんよ!」

(バカめ! 大人しく待ってるワケ無いってんの! オレの必殺・アチアチファイナルウルトラ爆発パンチをお見舞いしてやる!)


 ユウヤが扉を開けると、カラゲはインターホン前で右手を後ろに隠しながら笑顔でユウヤを出迎えた。だが、その隠している右手の正体にユウヤはすぐに気付いた。


「……その腕、オレを殴る気だな」


「な、何を言ってる? これは握手の準――」


「何か熱気を感じるんだよ! 吹き飛べ、タイフーン・ストレーーート!」


「う、うわああああああああ!」


 カラゲは飛んでいった。思いの外弱かったので、こりゃやりすぎたなとも感じた。


「……やれやれ、今更スープと同レベルなんて朝飯前だって」


 ユウヤはあくびをすると、再びベッドに潜って眠りについた。



「う、うわああああああああああああ!」


 ドカーーーン! カラゲはそのまま、チーム・ウェザーのアジトに飛び込んでいった。ちょうど目の前を歩いていたアズハは腰を抜かしながらもカラゲの背中を擦る。


「大丈夫……? 槍投げみたいにぶっ飛んできたけど」


「す、すみませんアズサ様……! アイツ、かなり強くな――」


「使えねぇなあこのヘタレ野郎があああああ! お前は一生うさぎ小屋の中でハエ叩きでもやってろ、無能、雑魚、カスがああああああ!」


 アズハはカラゲを罵倒し、さらに腕を振り上げる。その手先は怪しい光を放っている。今すぐカラゲを始末しようという魂胆が丸見えだ。


「や、やめてください、アズ……サ……グガー……グガー……」


「……ちっ、このままおねんねしてな、お腹に腹踊りの顔描いてやんからよ!」


 アズハは独り言をブツブツと言いながら、自分の部屋へと戻っていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る